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0824-0826

0824
大音量で鳴り響くニュルンベルクのマイスタージンガ―を背景にゆっくりとエスカレーターで上昇していくおばさん、おじさん、ベトナム人、中国人、ネパール人、小学生、そして私。エスカレーターの両袖は鏡張りで滑らかに風景の中を動いていく自分と目が合うと不思議な高揚感に包まれる。

このスーパーでは改装してからというものワーグナー以外はかからなくなった。鮮魚コーナーでおさかな天国を聴くこともない。特売の情報だけは店内放送とは別に売り場に置かれたスピーカーから流されるが飽くまで主体はワーグナーというのがここ10年のスタイルだ。お値下げコーナーを中心に巡回するが、用事のない売り場も一応チェックする。いつも通りのものがいつも通りに並んでいて心地よい。

買い物を終え家に帰る。ワーグナーをたっぷり聞かされた豚肉、もやし、豆苗、にんにく。刻んだりすり下ろしたり炒めたりする。ごま油、紹興酒、これもそのスーパーで買ったものだ。もやしがしんなりするのを眺めながら、ありがとうで野菜が美味しくなるならば、と考えた。

出来上がった料理を皿に盛る。少し炒めすぎたかもしれない。
胡椒をいつもよりも多めに振って食べた。

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前のバ先に顔を出す。帰りに別の友人とも会う。帰りにいつもは使わない駅で降りた。人混みを避けて路地裏に抜け、2-3回めちゃくちゃに曲がった後でなんとなく自宅の方を目指す。表札にシャクティと書かれた家があり鉢植えにダチュラらしきものが植わっていた。4軒くらいまとまって建てられた分譲住宅の一軒だった。扉には赤い顔料で卍が記されていたのでインディーズの寺院なのかもしれない。
ー後日、ヒンドゥー教の集会所だと知る。

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昼頃からパラパラと振った雨が夕方にはすっかりあがって晴れ間が出ている。お盆は過ぎたけどまだ日は長いしアスファルトに伸びた影が綺麗だと思った。陽の光がまだ濡れたままの地面の窪んだとこに反射してチラチラしている。チャリに乗らずに歩いて近所の魚屋で魚や貝を見た。もう少し歩いた先にある肉屋にも寄ってその帰りに買うつもりなので、ただ鱗の色だとかを眺めて外へ出た。

通りを見渡すと何かが遠くから転がってくるような音がする。台車の音がビルの隙間で反響しときどき小石を跳ね飛ばすのだと思ったが、どうも商店街のスピーカーから流れているらしい。そう気づくと急に音の輪郭がハッキリしてゴロゴロなっているのが太鼓の音で小石だと思ったのは鳴り物らしい。笛の音も聞こえてきたがそれがお囃子だと気付くまでにはラグがあった。

どこにも出店は出てないし神輿もないし、夏祭りの情緒はドリアンとスパイスの匂いに掻き消されている。ただただヤバい音楽が流れていると思った。通りに出てからお囃子だと気付くまでの違和感が耳に残っていて、はじめてYAMASUKIを聴いたときと同じような感じがする。

見慣れた光景をさかさに見てるような気分でお囃子を聴きながら家に帰った。明日も明後日も流れていたら気が変になるかもしれない。

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