大腸内視鏡での鎮静剤体験記

人生で親よりも先に経験するものというのは、(少なくとも私にとっては)珍しい。もちろん、親の方が大体20年先に生きているのだから、大部分の人が経験するようなことは自分より先に経験していることが当たり前だし、自分だけが経験して親は経験しないことも「人生で親よりも先に経験するもの」には含まれないので、厳密にいえば、親が死んでしまうまで「人生で親よりも先に経験するもの」の数は決定しない。
そんな貴重な体験に分類される私の思い出の1つに大腸内視鏡検査がある。7年前に私が初めて胃カメラと大腸カメラを受ける機会があり、その2年後に私の父親が人生初の大腸カメラを受けることとなった。
当時、私の父親が未経験の大腸カメラを前にして悩んでいたのが、鎮静剤を使うか否かであったので、鎮静剤を打った上で大腸内視鏡を受けた感覚を私が先輩として父親に伝えた。
そのときに伝えた内容を以下に、思い出しながら書いていこうと思う。

私は7年前に初めての大腸内視鏡検査を受けたが、翌年にも受けていて、初めての大腸カメラでは鎮静剤を使い、2回目は鎮静剤を使わなかった。
このとき、この病院で使っていた鎮静剤はジアゼパムという不安障害やてんかんの治療などにも広く使われる薬だった。
私のnoteは麻酔に関する話を中心に書くノートなので、それにちょっと関わるジアゼパムについても、その仕組みについて簡単に書くと、
神経が電気で情報を伝達する際に、GABAが神経に作用するとその電気による情報伝達が抑制されるという機構がある。
このGABAによる神経伝達の抑制機構を強化することで、強く神経を抑制する、というのがジアゼパムの大まかな仕組みである。

神経伝達を抑制するということは、酒を飲んで眠くなっているような状態に近い感じだ、と言えば想像しやすいかもしれない。(父親にはそう伝えた。)
飲酒運転が犯罪になるように、鎮静剤を打った日には自分で車を運転して帰ることが出来ないので、普通、検査を受ける前の鎮静剤が必要か問われる段階でお医者さんから、「帰りは車で帰れませんよ」的な説明を受ける。

鎮静剤を打った際には眠ってしまう人もいるというが、私は眠らなかった。ただ、ぼんやりとしか検査を受けている間のことを思い出せないので、検査を受ける前に看護師さんに大腸内視鏡で使う予定の薬を尋ねたが、忘れてしまっていた。(領収書と一緒に診療明細書を貰って、検査で使われた薬は後で確認した。)
実際、ジアゼパムには前向性健忘という副作用があり、鎮静剤を打った後の記憶を忘れやすくなることが知られている。
看護師さんに薬について聞いたのは、確かに検査前だった気がするが、内容を覚えていなかったのが、ただ私が忘れっぽいからなのか、聞いたタイミングが鎮静剤を打った後だったからなのかは分からない。そもそも、鎮静剤を打ったのが先か看護師さんに質問したのが先かも覚えていない。
という具合で、鎮静剤を使わなかったときと比較して、なんかいつもより忘れっぽくなる感じはあった。

検査を受けている際の苦痛は、鎮静剤を使わない場合はS状結腸というあたりをカメラがウロウロする際にひどい下痢による腹痛と近い感じの気持ち悪さがあり、痛みというよりは不快感が強かった。多少、吐きそうな気分にもなった。ただ、ギャーギャー喚くほどの苦痛ではないし、モニターで自分の体内を見るのは楽しく、その時間は気が紛れていたので、鎮静剤を使わないのなら何か苦痛から気を逸らすものを探すことをお勧めする。

鎮静剤を使った場合に話を戻すと、検査終了後、すぐには帰宅することは出来ず、リクライニングチェアのような椅子で30~40分ほど休憩する時間があった。その際、私は暇だろうと思い、事前に看護師さんに許可を貰って小説を持ち込んで読んでいたが、内容は忘れてしまったし、途中で結局寝落ちして看護師さんに起こしてもらうこととなった。
検査室から休憩室まではちょっとふらつく感覚はあったが、休憩後は問題なく歩行出来た。ただ、車の運転を控えるよう注意があったことを思い出して、結構慎重に階段も極力避けて歩いていた。
病院から帰宅する際は、家まで1キロ強を徒歩で帰ったが、特に足取りに問題は無かった。
酒のように検査翌日に頭が痛くなるような不調も、特には無かった。

以上が鎮静剤に関する留意点をおさえた私の思い出であるが、これを聞いた父親は、忘れるのはもったいないから鎮静剤を打たない、という選択をし、検査中の苦痛が私の口調から想像される以上だったようで、軽く後悔していた。

結論、特にもの好きな人でない限り、鎮静剤は使用した方がいいと思う。
あくまで個人の感想だが。

参考:


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