見出し画像

堀川・さくら夢譚2

源右衛門には娘がひとりいる。十六になる名桜(なお)という娘で、味噌問屋に奉公に出ている兄よりも利発で商いに向いていると源右衛門は気づいていた。この名桜が、 「名古屋の町を見てまいります。越し先の場所を調べてまいります」 と、先日から源右衛門にしきりに話をする。名桜にしてみれば、後ろ髪をひかれる思いの父・源右衛門をなんとか励まし、御国屋の未来は名古屋にこそあり、と元気づけたいと願う心でいっぱいなのだった。母のお里の反対を押し切り、気心知れた番頭の弥助とともに名古屋に向かったのはそれから半月ほど後のことで、名桜は初めての舟で堀川を渡ることになった。船頭は佐平次という。この日のために源右衛門が知り合いを通じて頼んでいた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?