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なぜ彼らは走り続けるのか。韓国ドラマ『RunOn』を観て

RunOnとは

鈍感力を身にまとい、1人時間の流れるスピードが違うようにも見える陸上選手ソンギョム(イム・シワン)が、自分の境遇に負い目を感じながらも必死に生きようとする翻訳家ミジュ(シン・セギョン)と出会い、苦痛慣れした自分の心の痛みと向き合う姿を描いた物語

この物語には、相反するような二人が主人公として登場する。一人は、”彼の人生には、彼だけがいない”という言葉通り、複雑な家庭環境によって我慢と努力を強いられた結果、自分の意思を貫き通したことがない男性ソンギョム。もう一人は、”彼女の人生には、彼女しかいない”という言葉通り、1人で孤独を背負って生きるあまり誰にも頼ることのできなかった女性ミジュだ。

周囲に押し潰されないよう常に自分のゆっくりとしたペースで行動するソンギョムと、大切なものを失ってしまいそうな恐怖から今にも転びそうな速さで動き続けるミジュ。彼らは、会話の速度も合わなければ、生活スタイルも異なる。しかし、真逆に見えて実は共通している。それは、自分自身をおざなりにしてきた点だ。一方は大切にされない環境に慣れてしまい、もう一方は孤独に慣れるあまり一人で抱え込み寄りかかり方が分からなくなってしまったのだ。

本作品は、全16話を通して二人がフィニッシュラインを目指して歩調を合わせるために走り続ける過程を描いたドラマとも言えると思う。観るたびに新しい発見をくれるような細かい演出が多いこのドラマ。この作品の見どころにもう少し注目してみたい。

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※ここから先はネタバレを含みますので、視聴後にお楽しみください。

1)散りばめられた自分を労わるためのセリフたち

相手を気にかけることはできるのに、自分自身のこととなると、そうはいかない主人公の二人。だからこそ、互いに掛け合うセリフに癒される。例えば、ミジュがソンギョムに問いかけるシーンだ。

”一生をともにする人は誰だと思うか?”彼女はこの質問の答えを通して、自分自身を愛する大切さを教えてくれているのだと思う。誰だって生きていればしゃがみこみたくなる瞬間や、壊れてしまいそうな瞬間がある。そんな時こそ、一息ついて自分を甘やかしてあげたいと思えるような言葉の力を感じる。

2)推測を重ねた先の答え合わせ

なぜソンギョム(イム・シワン)は、違和感があるほどに時間が流れる速度が遅いのか?なぜ1位になりたいのに戸惑うのか?ドラマを見進めていくと、どんどん疑問が湧き出てくる本作品。それもそのはず、登場人物が取る行動の背景が、序盤では説明されないことが多いのである。さらに答えが出てきたとしても、直接的には描かれていない。だからこそ、自分なりの意味づけをしながら解釈をして楽しめる作品なのだと思う。例えば、ソンギョムがいつも2位止まりの理由だ。

解釈は人によって異なるが、本当は1位になることも出来たのではないかと思う。しかし、”走る理由がなくなるから”彼はあと一歩が踏み出せなかったのではないだろうか。ソンギョムは、目の前の人を追いかけることだけに集中して走ってきた。そしてそれが、仕事だと息苦しくなり、フィニッシュラインにミジュがいれば9秒台も出せると思うと言う。つまりは、1位となって追いかける背中がなくなれば、彼にとっては走る目的を失うことと同義なのではないだろうか。一方で、ミジュという自分の帰る家のような場所がゴールにいるのであれば、自分の意思を貫くほどの力が湧いてくるということなのだと推測する。そうやって選択を積み重ねていき、彼の心情変化を表すシーンとなったのが”走ることをやめること”なのではないかと思う。

3)手に取るように分かる変化

主人公の二人が化学反応を起こし始めると、それぞれのキャラクターの行動がゆっくりと変化していく。例えば、簡易的なご飯で済ませてきたミジュが、しっかりとご飯を食べ、走ることを習慣にしようとするようになるのだ。同様の変化は、今まで誰かの意思を尊重することしか許されなかったソンギョムにも訪れる。

小さな変化を発見できた時の嬉しさが詰まっている点も、本作品の見どころの一つだと思う。また、この一歩づつの過程が、”二人の歩調を合わせていく”ことにつながっているようにも感じる。

4)スローな二人

フィニッシュラインを目指して、ゆっくりと距離を近づけていく二人を表すかのように、二人が向き合って走るシーンは時にスローになる。16話通して、彼らは誰か他の人に気を取られるのではなく、ただ自分と相手や大切にしたい人に向き合い続けていく。数々のそのシーンが絵のように美しく、そして癒される。ストーリーが心を温めてくれるのはもちろんのこと、映像と音楽でも疲れた心を解きほぐしてくれるようなところもまた、見どころの一つだと思う。

さいごに

ミセンのチャングレが印象的だったイムシワン氏。美しすぎる肉体と、何を考えているのか掴み所のない演技、そして突然やってくるキュンキュンシーンに、私の知っているチャングレはもうそこには居なかった笑。

常に輝きを更新し続ける彼の魅力が前面に押し出されている作品だと思います。『人生はあなたのものだから好きに生きれば良い』とソンギョムやミジュが語りかけてくれるようなドラマで、この先もまた見返したいと思う一作となりました。

書ききれなかったけれど、もう一つのサブストーリーも見所が溢れています。