『ルバイヤートの謎』を追う金子民雄自身の物語

金子民雄著『ルバイヤートの謎 ペルシア詩が誘う考古の世界』(集英社新書)


30代のころウマル・ハイヤームの『ルバイヤート』に傾倒した著者が、作者や作品に関する数少ない情報を掻き集めて、傍証と傍証を集めてもっと傍証にしましょうということでハイヤームが生きた時代のペルシャの様子などをひたすら推理してゆく試み。

金子氏自身のこれまでの見聞の積み重ねから直感的に「こうではないか」と気付いた事象があっても、物証がないのでここまでと涙をのんで見送ったものがあったのだと思う。この新書に記してある事柄もほとんどにおいて「但し」が付いて、はっきりとした結論にたどり着いた部分がほぼない。「宮沢賢治は『ルバイヤート』を読んで影響を受けた可能性がある」というくだりはその最たるもので、賢治の親友の保阪嘉内が自作に引用してるよーとか賢治の作品にイメージが重なるものがあったよーとかごく細い線を手繰って手繰って、これとこれが繋がるかもとあるかないかの関連性を探究してゆく。自分もなんか似たようなことをやってるので(氏ほどの規模ではないが)「わかる」としか言いようがない。著者としてはまだまだ書きたいことがあったけど端折られたことがひょっとしたら他にも沢山あるのかもしれないし、ご高齢なので自身と同じ興味を持った後進が現れて推理の糸を繋げてくれることを期待しているようにも見える。おそらく『ルバイヤート』やハイヤームに期待される情報というと各四行詩の真贋とか難解な詩の解説や解題だろうが、それらとはまったく違う、金子民雄という人がひたすら探究して、成果を結果報告して、「あとは頼む」という内容だった。夢想して書いてる部分が多く軽い読み物として楽しむべきだろうけど、著者自身も自説を裏付ける証拠が少ないためガチの学究として手を付けられない領域があることははっきり理解した上で線引していて、そこはちゃんとわきまえており「本書は『ルバイヤート』の研究書でないので、」と明言している。個人的にはかなり感情移入して読める本だった。関連性や類似性に気付いたとしても結論が出ることはほとんどなく、気付いたことを立証できる何かを探しても見つからないのでとりあえず箱にしまっておくしかない。その箱が本書だろう。

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