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デス・マスク(改稿#1)



緑色に輝く板の夢。意味も何もない。暗黒の中で縦長長方形の板がひたすら緑色に輝き続けている。目が醒めるとひどい寝汗だった。恢復の兆しだ。しばらく考えてようやく”エメラルド・タブレット”という言葉が出てきた。目の前にある縦置き型PCモニターがそれだった。詩人たちが押し黙る国の饒舌な神々。

春を告げる小綬鶏の初鳴き。畑は霜で真っ白だったし車のフロントグラスも厚く凍り付いてはいたが。病院行は保留にして体力回復意図の散歩。オオタカの出るフルコースを歩いて午前中は終わった。今日もオオタカが目の前に飛び出してくれた。タゲリらしい見かけない鳥の群れも。不可解だったのは谷津田を駆けて行った黒白二色の獣で、猫にしては大きすぎるし犬にも見えなかった。今まで一度も人間に出遭ったことのない人気のない湿地帯。狸、狐、穴熊にあの体色はない。竹藪のなかを谷津田まで降りていく急勾配の細道の先の狭い視界で起きた一瞬の出来事だった。滾々(こんこん)と湧き続ける小さな泉を眺めながら、家から数㎞も離れていない隠された場所になにか不可思議な生きものが棲息していると考えることにした。

「パウロを乗せていく獣を用意せよ。」

「大きな風が吹き、海が目を覚ましていた。」
 言葉=靈の海を歩く夜


古い傷
あるいは青い林檎
のように
視えない血を流し続ける
「現存在」のデス・マスク

(註)2,3「」内は田川健三訳『新約聖書  本文の訳』より引用


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