「ペチュニアの咲く丘に」#7 喪失感

 咲良は真司と別れてから1ヶ月。

 未だに悶々と謎の感情が頭の中に居座っていた。

 真司のことがまだ完全に嫌いにはなれない。
 しかし、なぜそんな男に惚れてしまったのだろう。
 自分の嫌だと思う感情になぜ蓋をしていたのか。
 もっと自分の感情をさらけ出し、相手に伝えていれば二人の距離は縮まったのだろうか。
 段々と好きだっという感情から、後悔と反省が入り混じる感情が込み上げてきていた。
 咲良は一人リビングで会社に行く身支度をしていた。

 そこに桃子が朝食の支度をしに上がってきた。
「なんかまだ心の中がモヤモヤしてるの」
 
咲良がそう言うと、寝ぼけながら桃子が静かに口を開いた。

「恋愛と転職って同じよね。恨んでる会社がその後どうなったか、気になっちゃうしさ、好き嫌いがまだはっきりしてないのだから気になるのは普通のことだよ」

 桃子は人間の奥底にある感情を見抜き包み込む天才か。

 咲良は幼い頃から共働きの両親のもと育ち、忙しい親を見ていたから、無意識に我慢や遠慮を身につけていた。

 恋愛面でも相手の心情を読み取り自分の感情を押し殺す癖が未だに残っている。
 本当は嫉妬深くて、負けず嫌いで、one of them ではなく、一番でいたいし、生涯の女でいたい。

 そんな感情が相手に読み取られてしまったら重たい人だなと思われて置いてけぼりにされるんではないか…

 しかし、桃子はそんな咲良の心情を読み取っていたのか、続けてこう言い放った。
 
「私自身これまでに胸を張れるほどのいい恋愛をしてきた訳ではないけど、だからこそ、咲良にはいい恋愛をして欲しいよ。26.27歳の恋愛はその後の結婚やパートナーを決定していくにあたり重要なタイミング。だからちゃんといい恋愛をちゃんとしよう。」