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”AI時代における教育とつながりの回復”汐見稔幸先生 講演会 in Portland

東大で研究されていた、教育学者の汐見先生がポートランドにいらっしゃいました!(まさか、汐見先生にポートランドで会えるとは❤️)とても楽しい講演でした。このレポートを通じて、みなさんにも少しシェアできればと思います。

子どもの目の輝きがバロメーター

時代の変化が激しい昨今、子どもたちは何を学んでおけばいいのか、何ができるようになっておけばいいのか、多くの親は子育てで迷います。

子どもは自分で決めて、この世に生まれて来たわけではありません。「この親にする」と選んだわけでもありません。そんな人生のスタートでも、生きているうちに「生まれて来てよかった!」そう思えるようになること、それが「親が目指す子育ての目標」そんなことを汐見先生は話されました。

汐見先生は、子どもがイキイキと輝いた目をしているかどうか、それが一番の指標であると言いました。これは、私が母娘で5年通った札幌トモエ幼稚園での日々でもエンチョーやスタッフからも繰り返し耳にしてきたことで、たくさん目撃して来たことでした。

この、子どもの目の輝きは数値化できるものではありませんが、子どもたちが自然や命の不思議(sense of wonder)、そして自分が秘めている可能性にワクワクして目を輝かせているときのエネルギーがその先の未来を入り開いていくパワーになるだろうことは、誰もがそれを目撃すれば実感できます。

トモエ幼稚園で展示された子供たちの写真。みんな目がキラキラ!中央上、大きなシャボン玉に感激しているのが私の娘。当時5歳。

汐見先生は親が「あなたの人生のために」と言って何かをやらせるということはやってはいけない、と笑いました。

そりゃそうですよね。子どもたちは私たちとは、全く違う時代を生きるのです。未来を生きる子どもに、私たち親世代の感覚をインストールして、時代遅れの人間になってほしいと願う親はいないでしょう。(でも、自分の安心やエゴのために、それを強いる親は珍しくないかもw)

人は、何かに夢中で取り組んでいるとき、さまざまなことを吸収します。そこには多くの学びがあります。発見があります。喜びがあります。そして、そこから「もっとこうしたい!」となった時、それを”昇華”といい、その子の大きな飛躍になります。

AIが進んで多くの仕事がなくなっていくと予想される未来だからこそ、自分で興味関心を持って「仕事を見つけて作っていける」ことが大切だろうということをおっしゃっていました。自分(子ども)の「好き」「興味関心」を軸にした子育て/生き方は、生きることの全ての軸であると、再確認しました。

トモエ時代にたくさんの著書を読ませていただいた汐見先生と、まさかポートランドでお会いできるとは!(驚+嬉)

人間とはどういう生き物なのか

人間ほど獰猛(どうもう)な動物はいない。そう汐見先生はいいました。人間は一度”敵”と見なすと、平気で相手を殺します。敵であれば殺せば殺すほどその人は英雄となります。そうして同じ人間同士で殺戮と略奪を繰り返して来たのが人間の歴史です。そんなことをしている動物は他にはいないのです。

同時に、人間は共感の生き物です。地球の裏に住んでいる人の話に共感したり、何百年も前に生きた人の人生に感動したり、そんなことをできる動物もまた、他にはいません。

この二つが人間の特徴だと、先生はお話しされました。この二つの事実を受け止めた上で、私たちは当然ながら後者をより育てていきたいわけです。そのためには、幼少期における共感するという体験、優しさの経験がとても大切です。

学びとは

「これからの時代に必要なチカラはなんでしょう?」
汐見先生から会場に投げかけられた質問です。

この辺りは、私がこの15年あまり毎日のように考えてきたテーマであり、アーティストとしての取り組みの核です。「違いを知ること。違いを受け入れるチカラ。そして、変化に対応できるチカラだと思います」と私は答えました。(だから私は、交流をベースにしてアート活動をしています)

生きていくためのチカラというのは、時代によって変化します。学校という学ぶ場所ができたのはここ100〜200年でのこと。少し前までは読み書きできる人は限られていたし、産業革命で印刷技術が開発されるまではもちろんのこと、その後も長く本は貴重なもので、知識や情報には価値がありました。だから人はそれを少しでも記憶(そして記録)しておこうとしたのです。

(このお話を聞いて、ハッとしました。暗記偏重の従来型学習に対してネガティブな感情を持っていた私でしたが、それはついこの間までは当然の価値だったことに気付かされました。)

さて、では識字率が低かった時代の昔の日本に生きていた人たちは、バカだったのでしょうか?会場にいたもう一人の緑さんが「知恵はあったと思います」と答えました。

そうですよね。昔の、その村で生まれて育ち、その村で暮らして死んでいく、そういう人生がほとんどだった人たちが生きた時代には、それで生きていくことができました。その土地や風土ならではの知恵もたくさんありました。しかし、時代は変わり、地域間の行き来が生まれ、現代ではさまざまな文化背景の人たちが交流し、社会を共に構成するようになっています。その時に大切なことは、違いを排除しようとすることではなく、共感と共存の道を歩むことです。

学びと記憶の仕組み

「今まで学んだことを全て覚えていますか?」汐見先生の質問です。

私たちは学校教育で学んだほとんどのことを、覚えていませんw それはなぜでしょう?シンプルに言えば、それは「興味がないから」ww

人の脳は(海馬という部位によって)、「短期記憶」と「長期記憶」に分類されます。私たちが学校で学んだ知識のほとんどは、残念ながら「短期記憶」に分類され、忘れ去られたのです。では、どういうものが「長期記憶」となり、困難を乗り越える知恵となっていくのでしょう?

そこには興味関心、つまり感情が必要です。そうして長期記憶として残ったものをベースに人間は発想し、知恵を絞り、工夫をし、それをもとに新たな情報を使い”昇華”していくのでしょう。

逆に言えば、どんなに多くの情報を与えたとしても、「短期記憶」として脳を通り過ぎていくだけでは、そこからは何も生まれないのかもしれません。

AI時代の学び

以前は貴重だった情報ですが、今はポケットのスマホ一つで世界中の膨大な情報にアクセスできるようになりました。すると、ちょっと調べてわかった気持ちになってしまいます。しかし、それは本当に知っていると言えるのでしょうか?先生は大変興味深い例を使いました。

宇宙人が日本のことを知るためにやってきて、日本語を勉強しています。そして、聞きました。

「”母親”とはなんですか?」

会場から「子供を産んだ女性」という回答があり、先生が「産んでなくても母親になれるから、”子供を産んだ、あるいは育てる女性のこと”ということになるでしょう」といいました。

でも、もしあなたが「あなたにとって”母親”とはなんですか?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか?「自分を産んだ女性」と答える人は少ない気がします。(笑)私なら「なんだかんだ言っても、いつも応援してくれる人」というかもしれません。

それが、AI時代における子育ての落とし穴なのかもしれません。別の例を。「美しい」とは何かと調べると、以下の通りです。

色・形・音などの調和がとれていて快く感じられるさま/人の心や態度の好ましく理想的であるさま/妻子など、肉親をいとしく思うさま/小さなものを可憐に思うさま/りっぱである/見事だ/(連用形を副詞的に用いる)きれいさっぱりとしている

Google のAI(試験運用版)より

しかし、これらの文章からは、例えば、満点の星空を見上げた時に湧き上がる「美しい」という感情を得ることはできません。

終了後、受け取った花束と一緒に自撮りしてるお茶目な汐見先生

まとめ

情報処理がものすごい速さで進むAI時代は、だからと言って必ずしも豊かとは言えないかもしれませんね。情報だけで知っている/体験した気になってしまうかもしれないからです。それでは逆に機会の損失になっていますよね。

オンライン上では、「死んでしまえ」というような表現も、気軽に使われています。しかし、本当に死と向き合っている人ならば決して、そんな風に使うことはできないでしょう。情報が溢れるAI時代だからこそ、実際に体験すること、心が揺れる経験をすることの大切さを先生はお話しされていました。

獰猛(どうもう)で共感性の強い人間という動物、脳の仕組みと発達…、だからこそ「乳幼児期の関わり方がとても重要」ということも。

今、私の娘は16歳。「乳幼児の時にもっともっと愛情を、優しさを、共感をあげたかった…!」と思うのと同時に、「あぁ、精一杯頑張ってよかった」トモエに出会えて、トモエで学びながら子育てができて良かった。と自分の人生を振り返っていました。

また、汐見先生の講演は終始、オヤジギャグを交えながら至るところで笑いを巻き起こしつつ進んでいきました。そこには私が約5年、トモエで学び続けてきた、人生と子育てに大切な「ユーモア/楽しいこと/学び」がありました。私にとっては人生の学びの復習をさせてもらった1時間でした。

なお、このレポートはあくまでも私の個人的振り返りであり、公式なものではありません。記載内容については一歳責任を負えませんので、あしからず。

乳幼児を抱えて子育てを頑張っている、全てのお母さん・お父さんに幸あれ!

最後になりましたが、今回の講演会は、ポートランドにある「きのね園」という幼稚園のみなさんが主催された、Goen Festというイベントで行われたものです。きのね園の関係者の皆さん、素晴らしい機会をありがとうございました。そして、講演会及びイベントの大成功、おめでとうございます。お疲れ様でした!




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