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バーチャルで示した存在証明 THE BINARY「Synthetic Reality 0th VR」レポート

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リアルで行われるライブと、バーチャル空間で行われるライブはよく比較される。今日本でバーチャルライブに1番適した存在はVTuberだろう。この文化が生まれた時、VTuberのライブはバーチャル空間が主流になると思っていた。しかし現状、VTuberの音楽ライブはリアルが主流になりつつある。

リアルライブの良さはなんだろうか。人と人が混在し、同調し、同じ空間の息を吸っては吐いて、目に見える映像をリアルタイムで共有する。もちろんそれは演者と客という間柄でも同じことが言えるだろう。

では、バーチャルライブの良さは?リアルライブのようにコールアンドレスポンスが、シンガロングができるのか。正直できるのかもわからないが、リアルライブと比べると一体感を感じない。
僕はライブまでの道中が好きだ。ライブまでの高揚感もライブ後の余韻も、道中の生活音がいい感じにバフをかけてくれる。ではバーチャルライブは?基本的に終われば見慣れた部屋が広がっていて、そこに友達も、同じアーティストを愛する同志もいない。

しかし、バーチャルライブの無限の映像表現、非現実的な空間による圧倒的没入感、バーチャルライブにも良さはたくさんある。どちらもVTuber文化には必要不可欠で、どちらも繁栄していくべきものだと思っている。

THE BINARYを知っているか

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今回、なぜここまでリアルライブとバーチャルライブを比較していたのかというと、『THE BINARY』のVRライブを見たからである。

正直言うと、ぶん殴られた。リアルとバーチャルを比較するのは野暮だろ...と考えさせられるくらいにぶん殴られたのだ。

THE BINARYは、midoとあかまる2人のボーカルユニット。2019年4月より活動を開始したTHE BINARYは、独特の世界観と圧倒的な歌唱力を持ち、エモーショナルなロックナンバーに愛くるしさと空虚な攻撃性のある表現力でじわじわと人気を集めている新生アーティストだ。

そんなTHE BINARYがバーチャルイベント空間clusterでライブを行ったのだ。

そもそもTHE BINARYは『VTuber』なのか?

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いや、わからん。

というのが正直なところで、リアルライブでは生身の体でライブをやるし、バーチャル空間ではバーチャルの体でライブを行う珍しいタイプのアーティストだ。今回clusterでライブを行ったことで、バーチャルアーティストとしての顔を持つことが証明された。そして、今まで見たバーチャルライブの中で1番ぶん殴られたライブだった。だからレポートを書こうと思ったのだ。

レポートを読む前に用法用量をお選びください

レポートを読む前に、なんとなく選択肢を与えたいと思う。

読んで聴くか、聴いてから読むか

レポートを読んでから曲を聴いてみるパターンもあり。先に聴いて世界観を味わってからレポートを読むのもあり。

先に聴いてみたい人は僕が1番好きな『Unhappyを愛さないで』をどうぞお願いします。とてもカッコいいです。

歌を聴くだけが全てじゃない

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ライブ会場に入った瞬間これだ。いやもう、わからん。わかるのは、緑はmidoのカラー、赤はあかまるのカラーってことだけ。オーパーツが数多く眠っていそうな、神秘的で近未来な空間が出迎えてくれた。

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奥へ進むとライブハウスが姿を現す。このBINARYのポスターめっちゃ欲しい。

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物販

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開演前のステージ

開演前のステージの様子を見てわかる通りここにも緑と赤の演出が施されており、普通に考えれば2人組のユニットのカラーであって至極当たり前なのだが、BINARYに関しては色々考察してしまう要素が多い。

THE BINARYにはデュエット曲が存在しないのだ

僕の知っている範囲、YouTube上の楽曲、1st Mini Album「melon」の中にも2人で歌っている楽曲は存在しない。ライブなどでは2人で歌うことはあるのだが、楽曲という作品の中ではユニゾンは存在しない。この交わることのない緑と赤の染色体だが、ステージ上の演出では見事に交差しているのだ。この当たり前の演出が妙に好奇心を煽ってくる。オタク特有の謎考察をしているとあっという間にライブがスタートした。

五感で感じるパフォーマンス

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EgoもIdも単純に / mido

最初に登場したのはmido。THE BINARYの代表曲とも言える『EgoもIdも単純に』を披露。もちろんmidoとあかまるが交互に曲を歌っていく流れなのだが、とにかく1曲1曲の演出のバリエーションがやばい。

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緑のイメージカラーのステージから赤をメインとした演出

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と、思ったら急に部屋ができあがる

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もうわからん

とにかくすごい。そしてめまぐるしい。耳と目が忙しい。どっちに集中すればいい。五感で感じろ!!!!!ということなのか。

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ズルくてすごい / あかまる

次に登場したあかまるのステージ演出もすごい。エモーショナルロックを可視化したような演出、曲とステージングで没入感は序盤からマックスだった。

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「どうも、midoです」

midoのMCが始まった。謎に包まれた少女の1人。歌っている時とは全くの別人だ。1人の少女が、緊張した面持ちでただ喋っている。珍しいものを目撃したかのように、ただ喋っているだけの少女に釘付けになってしまった。これは花譜ちゃんの時と同じ現象で、電気のオンオフのように言葉を発することによって「少女」が殻を破って目の前に現れる。

「Synthetic Realityって色んな意味が込められているんですけど、作られた現実とか、偽物の現実とか、そういう意味があるみたいです」

Synthetic Realityの真意は置いといて、作られた現実や偽物の現実は、バーチャル世界側の視点特有の表現だろう。そもそもバーチャル世界というものが非現実で、創造する全てが虚像でもあり、もう1つの現実でもある。これは謎考察の捻り出した答えでもあるが、midoとあかまるがリアルライブでライブを行うこと、バーチャル世界でライブを行うこと、これ自体がSynthetic Realityでもある。どっちが現実でどっちが仮想なのか、どちらも本人であることに間違いはないのだが、表現の違いでどちらとも感じ取れてしまう。どちらの世界が本当の彼女なのか、その曖昧さこそがTHE BINARYの魅力でもある。

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心做し / mido

ここからはバラード曲が続く。もちろんバラードだからって手を抜く気配は一切ない。むしろ楽曲に合わせた壮大な演出が目の前に広がる。もう、この辺からすごすぎて「すご...」って言葉しか頭に浮かばなかった。

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「初めまして、THE BINARYのあかまるです。」

あかまるのMCが始まった。

「THE BINARYは、こっちの世界(バーチャル)でも現実でもライブをする、変な...そういうユニットです。」

色々説明してきたけど、このあかまるの言葉が全てかもしれない。midoは圧倒的少女だったが、あかまるは少し不思議な雰囲気を醸し出す子で、無機質なんだけどどこか儚い振る舞いが印象的。言葉数は少ないものの、歌い出せば化けるタイプだ。それはmidoも同じなのだが。

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命に嫌われている / あかまる

『命に嫌われている』のカバーを披露。演出もそうなのだが、Aメロからサビへの鬼気迫る感じが相当やばい。抜けた感じから力強い歌への持っていき方、それに合わせて演出も壮大になっていく。歌と演出のシンクロ感がとにかくハイクオリティで、バーチャルでしかできないパフォーマンスにただただ立ちすくんでしまった。

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歌が終わると、急に会場から水が溢れ出す。どういう状況なのか飲み込めない。

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ガンガン溜まっていく

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焦って後ろ側に避難しだす俺ら

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会場はあっという間に水に飲み込まれた。魚ちゃんも登場。このあとすぐに水は引いていくのだが、ASMR効果もあってか、水に飲み込まれる感じが妙にリアルだった。会場が水没するライブってなに?すごすぎる。

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LAZULI* / あかまる

そしてここからは僕の好きな曲2連発。あかまるの透き通る高音が遺憾無く発揮された『LAZULI*』。BINARYの中でも1番キャッチーなメロディで掴みからあかまるの歌声に魅了される。いい感じの疾走感と少しメランコリックな雰囲気が心地いい。

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Unhappyを愛さないで / mido

『Unhappyを愛さないで』は、midoの尖った歌い方が抜群にマッチした最高のアッパーチューン。バチバチに色んな音が唸りを上げて、そのラインをmidoの低音ボイスが覆いかぶさっていく。疾走感と退廃したストリートを彷彿させるこの楽曲が僕は好きです。

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ライブ終盤。残すは1曲。ここで初めて2人が同じステージに降臨する。そして2人で『EgoもIdも単純に』を歌い上げる。デュオユニットが最後に2人で歌う!ってもうわけわからん表現なのだが、謎の希少性に謎にテンションが上がる。

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すごいよね。かっこいいし可愛いの。

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終盤、急にステージが退廃した街へと変わる。今まで見て来たものは偽物の現実だったのか。僕が五感を研ぎ澄ましボコボコにぶん殴られたライブは作られたものだったのか。バーチャルライブ特有の没入感だからこその演出とメッセージ性の調和。今まで見てきたバーチャルライブの常識をぶっ壊されたのは確実で、これぞバーチャルライブというものを見ることができた。

THE BINARYがVTuberかはわからない。あかまるが言っていた「こっちの世界(バーチャル)でも現実でもライブをする、変な...そういうユニットです」このスタンスこそがTHE BINARYの全てだろう。とにかくぶん殴られた。ただそれだけ。ここまで読んでくれたファンキーな読者は、ぜひ1度彼女らの曲を聞いてみてほしい。そしてライブへ行くんだ。一緒にぶん殴られよう。


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