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一首評|疲れてる愛してる疲れてる重なっているケーキ横から見ている/佐クマサトシ『標準時』

疲れてる愛してる疲れてる重なっているケーキ横から見ている
                        佐クマサトシ『標準時』

 疲れてる、と、愛してる、が、互いに意味がありそうで、実は無関係に並列しているようでもある。考えてみれば、にんげんの感情なんてさまざまに理由や関係性がありそうで、本質的にはただ発生しているだけなのかもしれない。
 そんなふうに、意味があるようでないような、ただ発生しているものとして、疲れてると愛してるとケーキの重なりを並列させて、主体はそれをひとまとめに「横から」見ている。なんてことない視線を投げているのだ。「重なっているケーキ」は、切り分けられたケーキの断面だろうか。それとも、箱に入ったケーキが陳列しているさまだろうか。どちらにしろ、そのケーキに疲れてると愛してるを並べて眺めたとき、個人的な揺らぎのようなものがうまれ、それは短歌として捕えられた。
 上句の動詞は「い」抜き言葉で、下句の動詞には「い」がつく。リズムにブレーキがかかっていくのが面白い。よく聞くフレーズをいくつも歌に取り入れ、定型に収めたと思ったら次の歌で破調してくる、歌集全体のリズムの変化も楽しく、美しい。

遠い遠い町の名のダリア はじめから つづきから

佐クマサトシ
1991年宮城県仙台市生まれ。2010年、早稲田大学入学とともに早稲田大学短歌会に入会、作家をはじめる。大学在学中に同人誌「はなびら」に参加。2018年に平英之、N/W(永井亘)とともにWebサイト「TOM」(https://tomtanka.tumblr.com/)を開設、2020年まで短歌作品を発表する。(『標準時』より)

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