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避けられぬ懐疑〈百鬼:二部〉

※お祓い済みです。

前回

第一部総集編

第二部関連回

〈源流〉

〈苦悶〉

あらすじ

 怪異であるカガミ、イトは現実を満喫しに空間から出ようとし、廈門道九弾あもみちくだんと新種族のパートナーと交戦する。
その間に破片と呼ばれる脅威の気配を探っていたのだが全く気配も痕跡も残さず二人を連れ去る。
観察者BT06と昏遠久澪談とほうくれまいだは静かに交戦中の怪異達を破片と共に記録していた。
しかしその映像を解析しても手がかりがない。
怪異にすら手が出せない存在への対抗策。
浦泉奈冨安うらいずなとみやす艶衰阿良又えんすいあらまたと対峙した時にアップデートをしていたカガミはセキュリティのある艶衰から読み取った記憶からある手掛かりを見つける。

第一章

艶衰はある二人に頼まれていた仕事を行なっていた。

皿ヶ峰 鈴蘭鉱さらがみね すずらんこう

イタコだった言囀 沙婀ことづて さあの財政難を凌ぐ先祖代々の秘宝。
人生には様々な「まさか」がある。
何も驚く事じゃない。

「すみませーん。艶衰君は居ますか?」

紅 元雪べにこう もとゆき
かつてムエタイファイターとして戦っていたが現在は引退している。
事情は全て聞いた上で解析をしている。
まさか紅さんもイタコの力を持っているとは知らなかった。

だからこそ、余計に感情移入してしまったのかも知れない。

「いやあ、艶衰君がこんな所でバイトしてるなんて。
あれだけ誰にも試合を見せたがらない君なら、分かる気はする。」

「ですが、この鉱石は一筋縄でいく代物じゃない。
霊現象や怪現象に慣れているあなたなら分かる筈です。」

「俺の霊達はライセンスを人間から護る為に協力してくれてた。
それと、今時霊現象撃退なんて食えないの知ってるだろ?
だから好きに試合をしていたら大怪我。
それと言囀さんがいれば、この先の新しい職業を立ち上げられるかも知れない。」

残酷な現実だ。
特筆する能力が二人にあるのに、鉱石を売る為に本物かどうか俺に頼まないといけないという立場。

夢なんてこの世にはない。
俺が廃墟でトレーニングをしていたあの頃から。

俺は業務に戻る。
この仕事は出来るだけ自分の力で解決したい。

コンピューターで的確にこの鉱石の力を解析する。

小口演出補が渡してくれた情報に

「不運化現象」というキーワードを教わった。

監視カメラにも何も映らない存在が幸福にいる人間を不幸に陥れて苦悶の表情で殺すという現象だ。

幸福で死ぬ人間の次は不幸で死ぬ人間か。

俺達は極端で最低な生命体だ。
だが、ここで仕事を続けている内に焼きが回った。
秘密裏かつフィギュアも置けて、スタッフ候補も何人か見つけられた。

せめて紅さんには恩返しとして値打ちがあるか確かめないとな。

だがここまで未知だとオーパーツだ。

本当に売れるのだろうか。

すると観察者…新種族のスタッフがやってきた。

第二章

一方その頃。

「心霊スポット巡りも板についてきたなあ!」

遙華りゅうかは声張りすぎ。あんまり目立つと他の配信者に寝首をかかれるよ。」

皆倉浪華かいくらなみか遙華りゅうかは一卵性の双子。
ある一件から心霊スポットから素材を調達して普仲毅ふつなかたけしさんに制作してもらうのだ!

「お前らさあ、折角俺の車に乗せてもらったのに忘れるなよ!目的を!」

レンタカーじゃないですかとは言えなかった。
スポーツが好きな自分達よりも三つ歳上の普仲さんは心霊クリエイターを自称する程の編集者なのにやたら実用的な肉体美とお洒落をしている。
それと何だか触れてはいけない力強さを感じるから双子の自分達でも逆らえなかった。

心霊スポット巡りもこれで十度目。
インターネットを活用しても都内は分からない事ばかりだ。
と、心霊スポットに耐性がある俺達三人の方が怖いよね。

俺達は目を合わせ、同じような事を思っていた。

じっくりと素材を探そう。

✳︎

一卵性双生児…か。

二卵性の双子で兄、毅は親友のような関係の皆倉兄弟に羨望の眼差しを向けていた。
よく話を聞くと二人とも性格は違う。
それは誰しもそうだ。
だが心霊スポットに対する熱意については二人とも強い。

何だか怖い話だが、スポーツとかもこうやって楽しくやれてるのかもな。
親や友達から二人とも愛されている事が分かる。

だからつい当たりが強くなった。
その代わり動画編集で稼いだ金は二人に渡している。

「「俺達、いつか心霊スポットで手に入れたスキルで恩返しします!」」

と意味不明な目標を掲げられた。

ここまでさせたの、廃墟で倒れて黄泉の夢みた俺なんだよな。

剛は元気にしているだろうか?
忙しい時に彼の事を考える。
ここ最近は近い関係もあった。

あいつは今何をしているのだろう。

「「な、なんだあれは!」」

二人の息ピッタシの反応が聞こえる。
ここまで揃ってるとモブみたいだ。

「またここか。イト、黒い手の痕跡はたしかに感じたのか?」

「九弾の気配が途切れ途切れ残ってる。
まだあの二人は生きているのはいいが、敢えてあの二人の痕跡を撒き散らしてる。」

「って事は遊ばれてるな。俺達。」

一人の男子高校生らしきものと大きなクモが語っている。
俺達は黙ってその姿を撮っていた。

「お前ら、目立ってる。」

自分達の上の木に男子高校生がいつのまにか立っていた。

「う、うわあああああ。」

明らかにやばい連中だ。

「お前ら先に車乗ってろ!あいつらは俺が…」

「その必要はない。」

また速い動き!

「面白い経験しているな。
大丈夫。殺したりはしない。
最近曰く付きの場へ呼ばれる事が多いんだよなあ。
まさかこんな力を手に入れてる人間に出会うなんて。」

こんな力…まさか、前に廃墟で倒れた時の…全部知られてる?

「ほら。こんな風にお前の姿になれる。」

そこにいるのは二卵性の双子の弟、剛ではなくまんま俺だった。
鏡以外で見ると恐ろしい。

「あの双子も連れて行く。こちらへな。」

今度は何処へ?俺達は強引に異空間へ攫われた。

第三章

普仲剛ふつなかつよし

ある芸能人の息子である男子中学生と番組スタッフ育成という襲撃にあって掛け替えの無い経験をする。

あれから彼はどうしてるかなあ。
湖で大学へ通わせてもらえたら食べる予定だったパフェを作って食べていた。
動画を観ながら湖でスウィーツなんて妙な贅沢だと感じる。

双子なのに一人っ子のような俺。
だが別にいい。

これからどう楽しく暮らそうか。

シュッ、シュッ、シュシュッ!

ランニングスタイルでシャドーボクシングをする恐らく男子高校生が湖で本格的な格闘技練習をしていた。

すげえ。
まさか現役の選手なのか?
蹴りまでやってるから相当な鍛錬だ。
小熊のような顔からヒグマの殺気を感じる。
ただし、今度は辺りを撮影し始めた。
やばい。
ちゃんとモザイクを入れてもらおう。

「悪いな。編集の時にはこっちにモザイクを入れてくれ。
ホームビデオでもだ。」

すると彼は『リングネーム 津向つむぐ
と書かれている名刺を渡した。
距離感が変だなと思っていたら

「モザイクは入れさせていただきます。それと、ジムから販促を頼まれていて。
そこに俺の所属しているジムと興業の情報がQRコードに載っています。いつでも待ってます。」

押忍!!って言って締めたけどガチの格闘家なのか。
結局何を撮ってたんだろう?
煽りVの撮影も選手が自分でやらないといけないのだろうか?
厳しい世界なのかもしれない。

また練習をする彼を湖と共に眺めていると結構面白い。

すると空間が歪み、何者かが現れた。

双子の男子高校生とえ?嘘だろ?
お互いに目を合わせた。

「毅?」
「剛!」

もう一組の双子男子高校生も驚いていた。

「「ふ、普仲さんも双子だったんですか?」」

なんて相性のいい兄弟。
そして俺達は相性が悪い兄弟だ。

更に大きな蜘蛛と中性的な顔の男子高校生が現れた。

「う、浦泉奈君?いつの間に?いや、今凄い登場したよね?また幽霊の影響?」

驚きばかりだ。
何なんだよこれは。

しかも浦泉奈って…あの時の?
でも別人の雰囲気だ。

「黄泉の力に頼るって方法は悪く無いな。
散らばった九弾の痕跡の偽物を取り除ける。
もしかしたら、対抗策はすぐ近くにあるのかもな。」

津向選手は目の色を変えて拳を浦泉奈と呼んだ相手にぶつけた。
しかもぶつけられた相手はしっかりと片腕でガードしている。

「そうか。浦泉奈君じゃないな。
また幽霊か!」

ま、

「「またって、幽霊殴った事あるんですか?」」

息がぴったりだなあ。
毅は一体何がきっかけでこの二人にあったんだ。

「話を聞け!俺はお前の記憶も知っている。この浦泉奈冨安の姿は俺のファッションだ。奴には何もしていない!」

「敵対していないとは、言い切れるか?」

「お前達の味方かと言えば、嘘になるな!」

二人は一歩も引かず闘いを始めた。

第四章

俺の解析はあと少しで終わる。
艶衰はほくそ笑む。

幸福、黄泉、身体…ここまでは解読が出来た。
調べれば調べる程、複雑な回路だ。
だが…周りに秘密にし過ぎて自分で抱えこんでしまった。
データがしっかりすれば高値でオークションに出せる。
だがその前にこの鉱石は…

「そうだね。今後の我々サケカイで大きな活躍が期待できる。」

観察者か。
しかも何故か筒抜けか。
ムカつく奴だ。

急な停電があって、今日の結果を聞きに来ていた言囀 沙婀ことづて さあさんと紅 元雪べにこう もとゆき君がこっちにやってきてしまった!

「え?な、なんだこいつ?聞いたことのない幽霊だ。」

すると観察者が声を荒げてカッコつけた。

「私は幽霊じゃない。
新種族の…観察者だ。」

あとで説明しないといけないか。

「取り敢えず君達をある現場へ連れて行こう。」

強引にワープさせられた俺達はある湖へ着いた。
剛!津向!

「艶衰さん!この方々とはお知り合い?」

「ええ。ちょっとした腐れ縁と育成の為に。」

「相変わらず気にいった奴に試練与えてんのか。厳しいな。」

またそこには剛に似た誰か…
そしてもう一組の双子。
一体これはなんだ。

浦泉奈の姿をした虚像がこちらに気付いた。

「艶衰か。そこの二人は後にして…観察者もいるか。進展がなかったら許さないぞ。」

「相手は俺だ!」

俺は黙って津向の拳を受け止める。

「艶衰君!そいつは危険だ!」

「ああ。よく知ってる!」

気に食わない事態だ。

「虚像。お前は俺の事を…探っていたのか?」

周囲は混乱している。

俺と奴、観察者だけが知っていた。

虚像はさらっと説明してくれた。

「俺は対峙した奴や何かに映る生物のカモフラージュの為に記憶を得られる。だが、例外もあってな。
肉体的セキュリティには干渉できない。
そこまで自分を隠す艶衰が恐ろしいよ。」

「もしかしてあの鉱石の事も?」

観察者にアイコンタクトしてかくにんしている。
どうやらそこだけしか知らないようだ。

俺のことは誰にも知られてはいけない。

すると観察者が続けた。

「さっきの解析を手助けしよう。
その鉱石の力を引き出すには

一つ、黄泉の夢を見た者

二つ、幸福を齎す者

三つ、身体能力の高い者

が必要だ。艶衰君には驚きだ。
自力でここまで調べられるとはね。
私もこの世界にそんな鉱石があるとは知らなかった。」

すると虚像の身体が鉱石と反応した。

同時にまた女性と謎の存在が現れた。

「「こ、今度はなんなんだ!」」

一卵性の双子が賑やかす。

「ソノ…鉱石ガアルノカ。」

「どういうこと?ぞうす!」

「怪異ダネ。君ハ。」

「ああ。だが、その鉱石の条件を満たすのは俺じゃない。」

まさか。

本来の…

浦泉奈冨安うらいずなとみやすがこの鉱石を使えるのか?

避けられぬ懐疑〈百鬼:三部〉へ続く

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