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避けられぬ懐疑〈百鬼:一部〉

※お祓い済みです。

第一部総集編


※〈途方〉〈寝相〉〈純情〉をご拝読頂ければ幸いです。

第二部関連話

〈教習〉

〈死相セ〉

〈影虚〉

〈オオグモ〉

第一章

 破片から産まれる怪異が密かに人間達の暮らしに手を出すようになった。
それを皮切りに、本来なら現実に現れる筈がない怪異が実態となる。
そこへ新種族観察者『BT06』が避けられぬ懐疑へ強引にスタッフとして活動することに。
ドッペルワンと呼ばれた影と鏡から産まれた怪異は、避けられぬ懐疑スタッフの浦泉奈冨安への姿を借りて別空間に蜘蛛型怪異と暮らすことになり、怪異なりに現実を楽しもうとした。

第二章

一方、

大学一年生となった昏遠久澪談とほうくれまいだ浦泉奈冨安うらいずなとみやす達に全てを任せてキャンパスライフを謳歌していた。
時々SNSに話題として上がるクリーチャーの存在が、浦泉奈冨安達がファイターとして戦う姿よりもフィーチャーされている現実に元格闘家として落胆してながら帰路を歩いていると、欠片が霊気を纏って誰かと話している姿を目撃する。
前に浦泉奈冨安、程良と共に戦った新種族という存在とそのパートナーで澪談の一つ上の先輩、廈門道九弾あもみちくだんが何らかの契約をSNSで見かけたクリーチャーと結んでいた。
そこへ、もう一体新種族が現れた。

「先程の新種族…つまり私達の元仲間を見ても驚きはしない。君が昏遠久澪談とほうくれまいだだね。

何故詳しい?
確か九段と組んでいる新種族は人間と合体をしたから裏切り者の筈。
それにこいつは一体?
謎が深まる澪談。

「私は君の活躍を知っている。浦泉奈冨安は避けられぬ懐疑のスタッフだからね。」

謎のクラゲもスタッフに採用するとは。
浦泉奈冨安ともう一人のスタッフがバイク教習を受けられるぐらいの経費を頂いたらしいのに。
人材不足過ぎてこんな胡散臭いタイプをスタッフにするなんて世も末だ。
今回はあまり非日常へ関わりたくない澪談。

「君の大学生活は保障しよう。
私はただ君へ報告しに来ただけさ。
何せ避けられぬ懐疑と同盟を結んでいる番組、いやチャンネルと言った方が正確かな?
だからこそ君は協力者としてこの情報を共有すればこのトラブルからは避けられる。」

何が目的なのだろう?
それなら何故、九段を見逃した?

「新人スタッフだから知らないかもしれないから教えておこう。
俺は浦泉奈から既に大学生活の為に後は任せろと言われている。
九段は確かに先輩で色々とトラブルがあったが、俺を襲う暇があるならさっきみたいに粛々と成し遂げる。
心境はよく分からないが前に浦泉奈と組んで撃退したから、と考えているよ。」

新種族のスタッフは沈黙する。
名刺を澪談に渡して「いざという時に頼む。」
と伝言を残して去っていった。

そしてこのエピソードには別の側面も。

第三章

 避けられぬ懐疑〈死相セ〉にて登場したインフルエンサーと誰が名付けたかクリーチャー出現の切っ掛けである「欠片現実」の大元である『破片の主:ぞうす』はこの世から隠居していた。
インフルエンサーは高校を卒業し、今まで蓄えた資金と共に活動を続けているので余裕があり、更にぞうすが望んで幸せにして欲しいと言って餌となった人間の資金と資源を貰っていたので彼女の大学生活もぞうす自身の幸福も満たされているのだった。

だがそれは永く続かず、抵抗出来るからと無視していたぞうすの破片が主達へ刃を向けようとしていた。

何故そんな事をするのかと疑問に思うぞうす達。

そこである男性が暗躍していた。
ぞうすは彼の動向を見張っている。

廈門道九弾あもみちくだんトイウ人間カ。奴ニ恐喝サレテイタ、アル人間ヲ幸セニサセテイタ時ニ聞イタ名前ダッタガココデ関係シテクルトハ…」

クラゲのような謎の生物と共に自分の破片から産まれたクリーチャーが協力している不思議な絵面にぞうすと彼女は不安を隠しきれなかった。

第四章

自分の名前すら知らないがいくつもの擬態先である人間の名前は知っている影であり虚像である自分。
ある心霊番組スタッフの少年の姿を気に入り、蜘蛛方怪異と共に鏡空間で過ごす。

海外から来た蜘蛛型怪異はこの国のある崖を永住先に決めたらしいが、現れた人間を喰らってしまい、その一部始終を新種族という存在の観察者に知られ、ある心霊番組制作陣と共に蜘蛛型怪異を世間へ公表しようとしていた。
何の因果か水辺を泳ぎ回っていたら蜘蛛型怪異の場所へ辿り着き、避けられぬ懐疑ファンのモニターから知った擬態元の『浦泉奈冨安』と出会うことになった。

映像までは消せなかったが蜘蛛型怪異を救出する事には成功した。

自分達はこれからどうして行こうと考えていた。
だが答えは見つからない。

「俺の都合であんたを匿って悪い。」

蜘蛛型怪異は安堵していない。
そりゃそうだ。
一度に色々起きすぎた。

「あんたは俺よりも古参みたいだ。
俺は…浦泉奈冨安では、無い。
借りてるだけだ。だから本名なんて無い。」

「ここは少し話さないといけないようだ。」

蜘蛛型怪異は漸く口を開いてくれた。

「助けてくれてありがとう。
俺の名前は…この国では長い。
イト、と読んで欲しい。」

知性もあり、可愛くもある。
貴重な仲間と出会って喜んでいるのは自分の方かも知れない。

「俺は…カガミ、でいい。
影と虚像…そこから情報を摂取して産まれたのが俺という怪異だ。
誰にでも化けられるし、記憶も引き継げる。
イトが過去からいる怪異なら、俺は現代が産んだ怪異だ。」

イトは笑う。
年齢を気にしないのは海外出身のいいところだ。

「唐突にやってきて驚いたが、君は恩人だ、カガミ。
しかし人を食べてしまった所を君の擬態元にバレてしまった。
それに観察者。
永住には成功したがトラブルに君を巻き込んでしまった。
こちらこそ済まない。」

なあに。
気にするな。
そう言った後に

「俺も人を殺した。セキュリティを利用する為に。」

言い訳にもならない事実を伝え、イト一人だけ重さを背負わせないようにする。
少しだけ二人で空気を吸おうとランダムに抜ける場所を選んでいた。

ここにしよう。
辺りはすっかり夜で、あまり人が現れない場所を重点的に探していた。

「ここなら俺達も目立たない。もしもの時は逃げよう。」

そうして鏡空間から抜けるとカップルが死んでいた。
そして見たことのある人間。
九弾?
何故?

「へえ。お前まだ浦泉奈の姿をしていたのか。
この破片の化け物から聞いた。
お前って『怪異』って奴なんだな。」

イトが何者かの不意打ちを受け止める。

「相変わらず卑怯だね。けど、俺達が怪異だと知った事を自信満々に語っても意味がないがな。」

「フッフッフ。
自分タチガ何故ココへ呼バレタカモ分カラナイ奴ニ言ワレタクハナイ。」

パートナーの新種族、とは違う声色。

イトが自分達を強化網で攻撃から守る。

「破片のクリーチャーと俺は手を結んだ。
お前達怪異は破片が呼び寄せた勢力。
人々の犠牲を望む霊界の猛者。
破片のクリーチャーはお前達を呼ぶ為にそこのカップルのように不幸と魂を捧げてこの国へ降臨させられた。
まさか海外にいる奴も呼べるとは、思わなかったが。」

なんだと?
破片のクリーチャー?
俺達はそいつらに呼び出されたのか!

よく分からない事が立て続けに起きている。
だが、ここは帰してもらえそうにない。
妙な場所を選んで悪いとイトへ伝えたら「大丈夫。」と返事があった。
俺達はいいコンビかもしれない。

「オ前達モ破片ノ一部ニナレ。
九弾ノ増強ニピッタリナパーツダ。
我ラノ力ニオ前達ヲ組ミ込メバ、人間モ新種族ノ連中ニモ反撃ガ出来ル。」

そんな理由で俺達を…けど、俺達と人を殺してしまったからなあ。

「だったら、俺達を部品では無くて部下にするってのはどうだ?
勿論待遇は上等なクラスにしてくれよ。
俺達は安くないからな。」

こういう時こそふてぶてしく振る舞うのだ。
破片の気配はイトが探ってくれていた。
見た事がない謎の破片の気配とは言っても、それだけ異質なら目立つ筈だ。
鏡と影の世界もなるべく神経を張り巡らせて構える。

九弾達は何もしてこない。
どうやって俺達を利用するつもりなのかも気になってしょうが無い。

俺達の察知能力を持ってしても探れない破片と呼ばれるモノ。

「やはり探しているか!」

九弾が鉄パイプを手にして殴りかかる。
当然俺達には効かないが…なるほど。クラゲが張り付いているような不思議な合体。
浦泉奈の記憶によれば分離攻撃も必要でその時、新種族と九段を攻撃すれば撃退可能なのは経験も含めて身についている。

イトにアイコンタクトし、準備をする。
破片の脅威を気にしながらこの二人を相手にするのは骨が折れるよ。

俺達は虚像空間に身を隠しイトは牙で、俺はさっき鏡に映った鉄パイプを手に持ち分離を狙う。

「クッ!浦泉奈達ノ記憶マデ有ルノカ…」

「鏡の空間に仲間も連れて攻撃ねぇ。」

はっ!考えろ考えろ!
こうしていれば迂闊に攻撃は出来まい。
勿論、向こうも破片と契約している訳だから油断は禁物。

それなのに九弾は俺の攻撃を読んでガードしてくる。
新種族も分離せずともリーチを活かしてイトの牙や網を避ける。
思ったより戦闘センスが高いな。

フフフフフ。

俺達に対して笑ってるのか?

ハハハハハ。

こりゃ迂闊に空間から出られないな。

すると地面と空中から無数の黒い手が九段達を掴む。

「「何!」」

予想外の出来事に驚く二人は黒い手によって連れ去られた。

「やはりそうか。」

その声は観察者か。
それに人間を一人連れている。
昏遠久澪談とほうくれまいだか。

「う、浦泉奈?」

「違う。彼は怪異と呼ばれる者。詳しくは後で話す。」

痕跡も残さず破片と呼ばれた奴は二人を連れ去った。

「どういう事だ?契約違反か?」

観察者はその映像を記録していた。

「動画として記録してあるが、まさか私の映像でも姿は見つけられなかった。」

異色の俺達である力すら受けつけないか。

「九弾…。」

「そういえば先輩だったな。」

記憶があるから俺は当たり前のように話していた。

「本人より他人事っぽいニュアンスか。
それにしてもよく見ると雰囲気が違う。
カスタムなんて出来るのか?」

「ま、まあ、その話は後だ。」

思ったよりも研究対象を覗いてしまったような反応だ。
何処の大学で何を専攻しているかの追求はやめておこう。

「カガミや観察者でも見失う程のモノか。俺の網でも見つからないなら、対抗策を練るのは至難の業だ。」

打つ手無し、では無いんだよなあ。
だがこれはギャンブルになる。
破片よりも厄介だが。

「対抗策なら見つかるかも知れない。
避けられぬ懐疑に、やたら秘密が多いメンバーがいる。
実はそいつにも俺はなれるんだ。
だが…」

厳重な影の羅列に覆われていて記憶を読む事は最近まで。
偶にいるんだ。
自分に有機的なセキュリティを設ける奴が。

艶衰阿良又えんすいあらまた。奴がキーを持ってる!」

〈百鬼:二部〉へ続く

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