01_迷子のツインスター_ホルモンの森_より2

ホルモンの森:第1話:ネコネコの森に帰って来たよ

テーマ曲「迷子のツインスター」
作詞・作曲・ボーカル・イラスト・デザイン:holmium
編曲・ミックス・トラックメイキング・マスタリング・童話:MONTAN

童話-ホルモンの森01
『ネコネコの森に帰って来たよ』  作:MONTAN

広大なネコネコ森の西のはずれ。
そこに双子の小さな白ネコがおりまして、
名前は「ホル」と「モン」といいました。
二匹はホルモン屋をしておりました。

「へい、いらっしゃい。
今日はどんなホルモンをお探しですか?」
と店先でモン。
「誰もいないよ~」と店の脇にあるベンチに腰かけてホル。

「練習だよ、練習!
いいかい、何事も練習が大事なんだよ。
本番の時は50%も実力を発揮できないんだから、
何度も何度も練習しなきゃ、いざって時にあ~たらこ~たら~」
とモンがぺらぺらとまくし立てているのを
聞いているのかいないのか……
ホルはボ~~~っとしながら森の奥を眺めておりました。
「だれか来たよ」

森の奥からやって来たのは、
小さなリュックを背負った山ガールでした。

「すみません。ここどこでしょうか?
なんか道に迷ってしまったみたいで…」
と山ガール。
「寺田といいます。書を捨てて街に出たつもりが、
いつの間にこんなところに来てしまって。
…私、山ガールじゃありません。」
と森ガール。

「ボクはモンで、こいつはホルさ。二人でホルモン屋をしているの。
あなたは今日初めてのお客さんさ。サンビスしますよぅ~」

ペラペラしゃべっている白ネコとボ~~~っとしている白ネコを見つめながら
寺田さんは思いました。

なっなんで私、ネコとしゃべっているの?
しかも二本足で立っているし。
それにこの二匹、そっくり! ネコの開きみたい。
あっでも、そもそもネコってネコだし、色が同じならみな同じに見えるよね。
私、間違ってないよね、考え方。
しっかし、おしゃべりなネコ。すごいわ~。
もう一匹は、じ~っと私を見てて動かないし、気持ち悪う~!

すると突然、ホルが歌い始めました。
太い大きな木の下で、
ボーイソプラノのような声が
木々の葉っぱをざわざわと揺らします。

その歌を聴いていると、寺田さんはとても気持ちが良くなりまた。
そして、ここがなんだかとても懐かしい場所のように思えてきたのです。

歌声がやむと、モンが木の上を見上げ
そわそわと落ち着きがありません。

ひゅ〜〜〜〜と木の上から、
何か小さなものが落ちてきました。
モンはそれを慣れた手つきでキャッチして、
寺田さんに差し出しました。
「これはホルモンの実。今の君に必要なものさ。」とモン。
「必要なものさ。」とこだまのように返すホル。

寺田さんがよく見ると、
それはサクランボをちょっと大きくしたような赤い実でした。

ピンクの肉球の上にあるその実を、
寺田さんはおそるおそる指先でつまみあげ、
じ~~っと眺めていました。

ぷにぷにと柔らかい感触。
どこか青臭くて、甘い香り。

「なんだろう?これ…ずっと昔に見たような気がするわ。」
寺田さんは思わずその実を口に入れていました。
噛むと広がる程よい酸味と素朴な甘み。
そして頭の中に先ほどの歌が流れてきたのでした。

「お代をいただきます」とモン。
「いただきます」とホル。

「おだい…? ああ お金? タダじゃないのね。」
歌がBGMのように流れていているので、寺田さんはぼんやりと答えました。

「あのねぇ~お客さん。ボクたちホルモン屋なんだから、
タダというわけにはいきませんぞ!
まったく、人間という生き物はなんでもダダで手に入ると思っているんだから!」とモン。
えっそれって、どちらかというとネコのほうなんじゃない…?
と、寺田さんはうつろな気分で思いました。

「キミの大切だけど忘れたいものを欲しいんだ」とホル。
「大切だけど…忘れたいもの…? そんなのあるかしら?」
「リュックの中に入っているよ」とホル。
「え?」
寺田さんはいぶかしげに自分のリュックの中を探してみました。
すると入れた覚えのないCDが1枚。
それは寺田さんのデビューシングル「書を捨てて森に行こう」でした。
「いっぱつ屋だったわね。」
寺田さんは、10年間曲を作り歌い続け、売れた曲はこれだけでした。

部屋に飾ってあったのをなんとなくリュックの中にいれてしまったのかしら?
と、寺田さんは不思議に思いました。

「ボクたちにそれちょうだい」とホルがいいました。
寺田さんは、ちょっとためらって、
でも、なんだか忘れなくてはいけないような気になって
「はい」
と、少し膝をまげてホルに目線を合わせ
そのCDを手渡しました。

あれ?
膝を伸ばそうとしても、ホルと同じ目線のまま。
ホルの大きな瞳の中には、見覚えのある黒ネコの姿が映っておりました。
寺田さんはいつのまにか黒ネコになっていたのです。

「やぁ、誰かと思ったら、黒ネコのヒロじゃないか!」とモン。
「ヒロ……、あっ、あたしヒロだったっけ…。」
「7日前にもここに来たね。人間の世界に行きたいって。」とホル。
「やだ、あたし、長い夢でも見ていたのかしら…。」

「じゃ、ごきげんよう。」ホルとモン。
「さよなら…。」とヒロ。

黒ネコのヒロは大きなリュックを背負って、
来た道とは反対の方角へ、のたのたと歩いていきました。
ヒロはなにも考えず、なん:か晴れやかな気持ちになって、
「書を捨てて森に行こう」のメロディーを口ずさみながら、
ゆっくりと遠ざかっていくのでした。

ホルとモンは、そんな様子を眺めながら、
ヒロが小さく見えなくなるまで見送っておりました。

大きなホルモンの木の下で…。

1話 了

-----------------------小説「ホルモンの森に消えゆく人たち」

Dos Gatos「ホルモンの森」の童話から派生したリアル世界のお話です。

※こちらもあわせてお楽しみください(^ω^)

★note: https://note.mu/montan/m/m6308c23f9e5e

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