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童話-ホルモンの森04『ネコネコの町の小森のおばあさん』

2015年9月制作 DosGatos
作詞・作曲・ボーカル・イラスト・デザイン:holmium
編曲・ミックス・トラックメイキング・マスタリング・童話:MONTAN

楽曲:http://okmusic.jp/#!/works/59066

広大なネコネコ森の西のはずれには、
二匹の白ネコ、ホルとモンのホルモン屋がありますね。
さらにその西には、さまよえる人間とネコが暮らしている
「ネコネコの町」があるのです。

今回は、ホルが一匹でネコネコの町に行くお話です。
ホルモン屋が休みの時とか、
たまには一匹でふらつきたくなるのです。
それに町には、ホルのお気に入りの秘密の場所があるのです。

ホルが町に入るとすぐに立ち寄ったのは、
レモンとユーコと黒ネコのヒロが暮らしている家。
レモンとユーコは果物屋をしていました。
ヒロが店番です。
「やぁ、ヒロ。ひとりで店番かい?」
「やぁ、ホル。あれっ、モンはいないの?さてはあそこに行くのね。」
「えへへへ、まぁ~ね。ユーコさんはいないの?」
ヒロは心得たように、小さなみかんを5つ茶色の紙袋に入れながら、
「まだ2階で寝ているよ。レモンが遅くまで起きているからいけないのよ。」
“ちぇ、残念”ホルは美人のユーコさんを一目見たかったなぁと思うのでした。

みかんの入った紙袋を抱えて、ホルはさらに町の奥に進みます。
町中はざわざわと、人とネコが往来し、憂いと活気に満ちておりました。
そんな中、ホルは通りの向こうから歩いてくるリンゴちゃんを見つけたのです。
「あれ、リンゴちゃん。こんなところにいたの!」
「やぁ、ホル。内緒にしていてよね。」
「だって、人形の人が探していたよ。リンゴが家出したってね。」
「あそこは、私にふさわしくないもの。だから戻りたくない!」
「ふ~ん、そうなの。あっところで、小森のおばあさんの家ってこの先だよね?」
ホルはネコのクセに方向音痴なので、ちょっと不安だったのです。
「あぁっ、小森のおばあさんの家…。」
リンゴは後ろを振り返り、キョロキョロしました。
「ほら、あの左側の細い路地。ちょうどアヒルが歩いているでしょ。あの後をついていくといいよ。」
「どれどれ、あっ、いたいた!あれだね。ありがとう。リンゴちゃん!」
ホルはリンゴに手を振り別れました。
リンゴはなんにも言わないで、そそくさとその場を立ち去りました。
“リンゴちゃんは、犬に食べられたってウワサだったけど、生きていてよかったよ。”
そんなことを考えながら、ホルはゆっくり歩いているアヒルの後についていきました。

アヒルが歩く狭い路地はますます狭くなり、
白い石の壁から黒い木造の壁に変わってきました。
やがて少し広い通り出ると、目の前に見慣れた古い日本家屋が建っておりました。
風情のある玄関先には、お供え用の5つの台がありました。
それは丸太の杭の上に、鳥の巣箱のようなものがちょこんと乗ってあるのです。
ホルはその巣箱の穴に、さっき買ってきたみかんをひとつずつ入れました。
穴はホルが二本足で立って、鼻の上くらいにありました。

玄関先から左手に回り庭先に出ると、
ホルはどうしたわけか二本足で歩けなくなります。
こぢんまりとした庭には、大きな和傘があり、野点の席のようです。
藤の花が奥ゆかしく咲いていて、池には蓮が植えられております。
葉の上には、いくつかの水滴がころころ踊っているのでした。
竹製の筒から水が池に流れており、
澄んだ水の中では、金魚やフナが気持ちよさそうに泳いでいました。
ホルはここに来ると、よちよち歩きでコネコになったような気分になります。
それがとても面白いのです。
「あら、白ネコちゃん、いらっちゃい。」
小森のおばあさんが部屋の奥から縁側に出てきました。
小さな体で年の割に華やかで落ち着きのある和服を着ておりました。
「今日もひとりかい?お友だちはいないのかい?」
「モンはたぶん昼寝をしているよ。ここはボクの秘密の場所だからモンには教えない。」
本当は、赤ちゃんのような恰好をモンに見られたくないだけなのです。
「やっぱり、恥ずかしいよなぁ…。」
「ごめんね。白ネコちゃん。おばちゃま、白ネコちゃんの言葉が分からなくてね。」
小森のおばあさんはホルが何を言っているのか分からず、ただ、ニャーニャー言っているように聞こえます。だけど、ホルはおばあさんの言葉が分かります。
こんな風なので、ホルはますます赤ちゃんになったように感じてしまうのでした。
「ほら、マグロの缶詰でちゅよ。」
おばあさんが縁側に置いた古風な和食器の上に乗った猫缶を、
ホルは美味しそうに食べました。
「これは美味いなぁ!家で食べるのと全然ちがう!」
モンは食べられれば何でもいいやっというタイプだったので、
ホルもそれに合わせて、普段は安物のカリカリばかり食べているのです。
「ああ、ほっぺがおちるにゃ~。」
マグロの高級猫缶にもう夢中です。
「ニャーニャーおしゃべりして食べて、面白い子でちゅねぇ~。」
おばあさんは楽しくなって笑っておりました。

縁側で満腹になった白ネコは、おばあさんの膝枕でゴロゴロ鳴いていました。
おばあさんは、白ネコの頭や背中を優しく手のひらで撫ぜています。
至福の時間がゆっくりと流れていきました。

恍惚の時からふっと我に返ったホル。
気が付くと目の前には、白くて大きな丸いものがありました。
「なんだろう?」
白ネコは四足でよちよち近づいていきました。
それは大きな鏡餅なのですが、ホルには分かりません。
なめたり、ほおずりしたりしていると、その上に乗ってみたくなりました。
乗ってみるとほんのりやわらかくていい気持ちです。
縁側から一段高くなった感じで眺める庭の風情も格別でした。

「あら、白ネコちゃん。お餅の上に乗って、あなたもお餅みたいでちゅよ。」
おばあさんは、二段重ねの鏡餅のようになっているのをみて、面白くなりました。
奥座敷から、この場所にちょっとそぐわないようなピンクのカメラを持ってきて、
「写真とりまちゅよ~。じっとしていてね~。」
とカメラのピントを合わせます。
「う~ん、なにかものたりまちぇんねぇ~。」
おばあさんはさっきからすっかり赤ちゃん言葉になっています。
和服の袂から小さなみかんを取り出しました。
そして、白ネコの頭と背中の間のくぼみにそっと乗せました。
「あら、すごく可愛いでちゅね~。はいそのまま。いきますよ~。」
「はい、オイチーズ!」
おばあさんはシャッターを切りました。
ホルはおばあさんが満足するまで、じっとしていました。
“あんなに喜んでくれて、なんだかこっちも嬉しくなるよ。”
そんな風に思いました。

やがて白ネコは日も暮れそうなので、庭先からよちよちと外に帰って行きました。
「白ネコちゃん、バイバイねぇ~。また来るんでちゅよ~。」
後ろから、おばあさんの名残惜しそうな声が聞こえました。
外へ出ると、ホルは二本足で歩けるようになりました。
「面白いなぁ。やっぱり、モンにも教えてあげようかなぁ。」
すぐに鏡餅になった自分を思い出し、
「いゃぁ~、あれは恥ずかしすぎるよ。」
と、やはり秘密にしておくことにしました。

4話 了



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小説「ホルモンの森に消えゆく人たち」
Dos Gatos「ホルモンの森」の童話から派生したリアル世界のお話です。こちらもあわせてお楽しみください(^ω^)

★note: https://note.mu/montan/m/m6308c23f9e5e
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