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【お芝居】 安部公房作 「友達」

逆らいさえしなければ、私たちなんてただの世間だったのに

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ある日、一人暮らしの男性Kの家の扉がノックされる。

もう夜遅い。Kは覗き穴を覗き込む。ドアの外には笑顔を浮かべた男性と、「こんばんは」と声をかけてくる若い女性がいる。怪しそうではない。ひとまず扉を開けると、次から次へと9人家族が家の中に入ってくる

特に暴力を振るうでもない。強盗される様子もない。ただ、入ってきて、荷物を置いて、銘々寛ぎ始める。

まるで、家族か友達のように。

不法侵入だと主張して追い出そうとしても、暖簾に腕押しの返答しか返ってこない。

警察を呼んでも、被害状況を認めてはくれない。だってKが自分で扉を開けたわけだし、今のところ、何も実害は無いのだから。

淡々と語られる屁理屈に、Kと共にこちらもどう返せば良いのか分からなくなってくる。

だって、あなた、1人を持て余していたでしょう?

- いえいえ、何度言ったら分かるんですか。僕は1人でいたいんです。

「普通」に議論をしているのに、いつの間にか相手の理屈に巻き込まれている。

- 怖いでしょう?こんなに人が沢山いるのに、誰も知っている人がいないなんて。今はつながりが必要な時代じゃない? 私たちはもう繋がっているのよ。共有しましょ。みんなの利益のために。

- え?納得がいかない?じゃ、多数決で決めましょ。あら9対1ね。あなたの意見もちゃんと聞いたけど、多数決で決まったルールなんだから、守ってね。それがミンシュシュギっていうものでしょ。

いじめの論理もこういうものか。

えー、遊んでただけじゃん。いつ逃げたって良かったけど、XXちゃん、一緒にいたジャン。黙ってたじゃん、口がきけるんだから、反論だって出来たよね?

大多数が間違っているって、どうやって証明すればいいんだろう。誰も味方がいない中で。

どんどんどんどん不条理に巻き込まれていく。困惑で気分が悪くなった。

ああ、私もどうしたら良いのか分からなくなって、九人家族の理屈に絡めとられる側だ。

怖い。怖いけど、見られて良かった。

図らずしも、今月は安部公房の作品がもう1つ控えている。

安部公房が無くなった年に、私は来日している。

それくらいに地続き感のある作家であることを、初めて知った。

他にも読んでみよう。

大阪公演は今週末から。

明日も良い日に。


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