灰になるまで。~高校教師編~
高校で2年間担任だった先生と、卒業して一年後に会う機会があった。
先生は在学中の懇談で私に
「あなたは糸の切れた凧みたいですね。」
と言った。
1年の成績はよかったのに2年からずるずると目に見えて下がって行った。
その頃は、音楽と小説の世界の住人になっていて、現実を生きていなかったのだ。
その私を詩的に表現してくれて、先生を好きになった。
先生は、見た目も話し方も歩き方も奇妙で、生徒がものまねして爆笑が起きるタイプの男だった。決してスマートではない。
先生が好きだなんて言おうものならみんなドン引きしたことだろう。
だから言っていない。
先生とふたりで会ったときは、フランス映画の話しをずっとしていた。
まるでラジオみたいに先生がひとりでしゃべっていた。
私は適当に相槌を打っていた。
好きなひとが楽しそうに話しているのを見るのが好きだ。
話しは全然聞いていないし、中身は憶えていない。
機嫌がいいんだな、と思って眺めているのがいい。
満足するまで話すと、食事に行こうと言ってクルマに乗せてくれた。
グルメ雑誌を出してきてなにを食べたいか聞いてくれた。
なんでもよかったけど、シュウマイが食べたいと私は言った。
道中で、自宅に寄ると言って、先生の家の横にクルマを止めた。
見たこともないような豪邸だった。
先生は地元で有名な○○屋の息子だった。
生徒が弄るようなへんてこりんな男で独身で親元に住んでいた。
あとでわかったことだが、音楽の先生にもそうやって自宅を見せていたらしい。
先生は結婚相手を探していたのかもしれない。
私は先生を好きだったが、この家に住むひととは合わないなとうっすら思っていた。
それから私の希望通りシュウマイのお店に連れて行ってくれた。
お店はなんだか混んでいて、とても騒がしかった。
ゆっくり話しができなかった。
先生はそれで機嫌がよくなかった。
私は、だめなんだなと思った。なんとなく。
先生は、次はもっと静かな店に、と言ったかもしれない。
よく憶えていない。
とにかく、もう次の機会はなかった。
私たちは、ふたりで話して食事した。
それだけの思い出だけど、
それだけだから忘れないのかもしれない。
いまの私は相変わらず家族の話しは聞いていない。
仕事のときはさすがに聞くようにしているけれど。
息子には生返事をするときつく叱られるから返事だけちゃんとする。
でもみんな私に話しかけてくるから、それでいいの。
先生は誰かと結婚したり、ケンカしたり、別れたり、面白い歩き方してるのかなぁと思い出したりしている。
覗いてくれたあなた、ありがとう。
不定期更新します。
質問にはお答えしかねます。
また私の12ハウスに遊びにきてくださいね。
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