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Tempalay『((ika))』の感想

佐倉市立美術館へ向かう電車の中で初めて『from JAPAN 3』を聴いたことを覚えている。乗客も少なく、何にも、誰にも邪魔されない集中できる時間であった。『続・Festival』が流れているときの空気の透明感がすごく良くて。

だから『((ika))』も、音楽だけに集中できるような環境で聴きたいと思った。同じ電車の中でも通勤中は人が多いし、気分も沈むし嫌だ。
幸いにしてフラゲ日の4月30日(火)は休みだった。午前中は雨が降っていたが、午後には晴れたので散歩しながら聴くことにした。

『Booorn!!』以降にリリースされた曲はnoteに感想を投稿しているが、アルバム曲が10曲もある(!)ので今回は少しずつ感想を書けたらと思う。
はじめて聴いたときに感想日記を書いた曲についてはリンクを貼ることにした。

01.(((shiki-soku-ze-kuu)))

収録曲が発表されたときに『)))kuu-soku-ze-shiki(((』と合わせて気になっていた曲だ。
まず「色即是空」とは何か改めて調べた。4月の日記にも書いたが、「無」はずっと気になる概念だ。本棚に「究極の無」と題した特集が掲載された『Newton』2022年3月号があるので、そこから引用する。

「色」とは,この世のすべての物質や現象を意味する言葉です。「空」とは「うつろな」という意味があります。そのため,「色即是空」とは,「この世のすべての事物はうつろである」という意味になります。
ただし,「うつろ」とは,「何も存在しない『無』」という意味ではありません。空とは,「それ自体で独立した不変の実体など存在せず,すべての事物は他者との関係(因縁)によってのみ存在する」という意味です。すなわち,「色即是空」とは,「すべての事物は形のある実体のように見えるが,それらはすべて他者と関係しあって存在しており,それ自体だけで独立に存在するような実体などない」ということです。

『Newton』2022年3月号(78頁)

「色即是空」という、なかなか理解しがたい概念をどうやって音で表現するのか気になっていた。
ヘッドホン越しに聴くと、ピアノだけでなく風のような音や、泡のような音、話し声(?)、弦楽器の音など遠くで、近くで色んな音がして面白い。

CIRCLEの日記に音がしないことが静かってことじゃないんだなあみたいなことを書いた。音によって静けさを知るみたいな……あ、ししおどし!
「何もない」を表現するなら無音一択だろ!と思ってしまうが、「ある」からこそ「ない」が際立つこともあるのかもしれない。やっぱりもっと「無」について知りたい。

02.愛憎しい

いきなりクライマックスだ!
綾斗さんって喉がぐっとなるというか、心臓がぎゅっとなるというか、泣くのを我慢しておでこの辺りが痛くなるというか、そういう身体に作用するメロディーをつくる才能に溢れていらっしゃると感じる。
と思ったら、最後(ヘビメタ聞いたことないが)ヘビメタみたいなシャウトで終わったのでびっくりした。野球の試合でピッチャーがサッカーボール投げて来たくらいの変化球もとい変球だ。

歌詞カード

ところで『((ika))』は、透明なプラスチックに白い文字で歌詞が書かれている。美しい。透明が好きなのでうれしい。
が!読むことを考えると、目が悪い民には少々厳しい。インターネットで歌詞を検索できる時代だし、もはや読まれることを前提にデザインしないのかもしれない。
でもインターネットの歌詞サイトだと改行や空白の位置が違うかもしれないので、ノートに書き写した。アナログ。

綾斗さんが弾き語りで歌う『遺言』では「都会のせわしさの中 満たされ忘れてゆく」と、都会の風景が歌われている。
『愛憎しい』にも「騒々しい人混み ネオンに」という都会をイメージさせる歌詞があり、『遺言』を聴いて思い浮かべる風景とオーバーラップした。
高知県から上京された綾斗さんの都会像は、都会出身の私が抱く都会像とは違うのだろうなと感じる。なんとなく。

03.遖(あっぱれ)!!

「遖」という漢字を見たとき「前に会ったよね?」という気持ちになった。しかしどこで会ったのか思い出せない。考えられるとしたらQuizKnockの動画くらいか。気になる。

『遖(あっぱれ)!!』のメロディーも、心臓がぎゅっとなる。特に「ひとえに艶美で」から始まる部分。「艶美」って言葉は、小原綾斗とフランチャイズオーナーの『鮭』にも出てくるなと思った。

泣きたいのに無理して笑っている人が好きというか、泣き笑いの表情になるような感情が美しいと思う。
1曲前の話に戻ってしまうが「愛憎」は、愛することと憎むことという一見すると反対の意味の言葉が一つで表現されている。「泣き笑い」も反対の言葉がくっついているけれど、愛憎と同じく決して矛盾した感情や表現ではない。人間は相反する感情を内包する生き物なのだろう。

「あっぱれ」は、「お見事」や「素晴らしい」といった意味の感動詞だ。それなのに曲からは泣きながら無理に笑っている人が思い浮かんだ。
「鮮やかに見えるのは」の前の拍手みたいな音が、かなり、とても、非常に良い。この音がなかったら泣き笑いの気持ちにならなかったと思う。「あっぱれ」なのに多分泣いている。最高すぎる。こういう感情を求めている。

04.ドライブ・マイ・イデア

Tempalay『ドライブ・マイ・イデア』の感想」に記載。

05.NEHAN

Tempalay『NEHAN』の感想」に記載。

06.預言者

歌い出しがAAAMYYYちゃんだ!まずそこに驚いた。はじめてだよね?

「よげん」の漢字には「予言」と「預言」の二つがあるけれど意味が違うって、今村昌弘先生の『魔眼の匣の殺人』で知った気がする。あまりにも自信がない(自信3%)。こういうとき電子書籍は検索できて良いな。

どこで知ったかはさておき、「予言」とは「未来の物事を予測して言うこと」を意味する。
もしかしたら宗教によって意味が異なるかもしれないが、「預言」は神の言葉を預かって伝えることだ。
曲を聴く前から、なぜよく見聞きする「予言」ではなく「預言」としたのか気になって仕方なかった。
「目には目を邪には邪を」という歌詞があるし、敢えて「預言」を選んだのだろう。それにしてもこのラップ調の部分、良すぎる。

以前と比べて歌におけるAAAMYYYちゃんパートがすごく増えた。綾斗さんの声も大好きだけれど、たくさんAAAMYYYちゃんの声を聴くことができてうれしい。
特に『預言者』はライブで聴けるのが楽しみすぎて、曲を聴いてからずっとそわそわしている。もったいなくて、まだMVを視聴できていない。ツアーが始まる前には観る。
最後のAAAMYYYちゃんと綾斗さんが掛け合うように歌う部分も良すぎて、King Gnuの常田さんと井口さんみたいに向かい合って歌っておくれという気持ちになった。やっぱり声の相性が良すぎるよ。

07.Room California

『預言者』の歌い出しがAAAMYYYちゃんであることに驚いていたら、『Room California』は全部AAAMYYYちゃんが歌っている……!
Tempalay名義の曲を全てAAAMYYYちゃんが歌うなんて、これはさすがにはじめてでしょう。
ライブでAAAMYYYちゃんのボーカルにコーラスする綾斗さんの声が聴けるかもしれないということ?どんな感じになるのか楽しみすぎて仕事が手につかん!

イントロの歪な音がとても良い。ピアノとアコースティックギターによる、ここまでしっとりした雰囲気の曲もはじめてな気がする。グラスが触れ合う音も良い。

『((ika))』というアルバム名について綾斗さんが「記号っぽくしたい」と仰っていたが、記号的なタイトルの割に今回のアルバムは肉感、温度、湿度、生活、人間みたいなものを感じる。

歌詞に「照れくさいわ」ってあるけれど、綾斗さんが自分で歌うには照れくさくてAAAMYYYちゃんが全部歌ったのかなとか想像する。
「時間が閉じる」という表現は『ドライブ・マイ・イデア』にもある。閉じてゆくことって近付いてゆくことだと思う。風船が萎むイメージ。膨張すると離れるけれど収縮すると近付く。閉じるという表現は、二人の距離が近付くことを表しているようで良いなと思った。

ところで、"Will you marry me?"の後、何と言っているのだろう。"Are you serious?" "Yeah."と聞こえる、その前の言葉が気になる。
プロポーズのシーンを隠れて友人に撮影してもらうとかあるけれど、それを思い出した。

08.あびばのんのん

『あびばのんのん』のリリース当時、銭湯「改良湯」さんとコラボしていたことを思い出す。

改良湯

すぐのぼせるし、だからカラスの行水だし、ずっとお風呂文化には興味がなかった。温泉宿でもユニットバスを使っていたくらい。
コラボTシャツを買うには入浴料も払わないといけなかったので、「何も用意してないよ!」と思いながら入ってみたらすごく良くて感激した。百聞は一見にしかずって、本当にそう。

銭湯って、銭湯に入ることしかできないのだと思った。家のお風呂だとスマホを持ち込んでYouTubeを見たり、音楽を聞いたりすることができる。銭湯は基本的にそういった持ち込みができないから、自然とぼーっと過ごすことになる。
仕事だけでなく、生活や、趣味の領域にまでも効率化の波が押し寄せてくるような時代に、ただただお風呂に浸かりながらぼーっと過ごす。そういう無駄とも思える時間を求めているような気がしている。

コラボ期間は、『あびばのんのん(料亭Ver.)』が流れていたような?(サウナ室は色んなTempalayの曲がかかっていた記憶)。
「とっておきでしょ もうとりこでしょ」、本当にそう。今もぼーっとしたいときは銭湯に行く。

09.憑依さん

この前、『給食の味はなぜ懐かしいのか?』という本を読んだ。
「触ること」の重要性を示すハーローの実験についての記述が面白かったので引用する。話者は、(当時)静岡理工科大学理工学部教授の宮岡徹先生。

「生後間もない子ザルに、ミルクを持った針金製の母ザルと、ミルクは出ないが柔らかい毛布で作られた母ザルの両方を与えてみる。子ザルはいったいどちらの母ザル模型を選ぶか、という実験を、ウィスコンシン大学のハリー・フレデリック・ハーローが行いました。さて、どっちの模型を選んだと思います?子ザルは柔らかい母親のほうを選んだのです。ミルクよりも、柔らかいものに『触れる』こと、アタッチメントを求める、という結果が出た。」

山下柚実『給食の味はなぜ懐かしいのか?』88頁

ウイルスの大流行もあり、非接触、非対面でもやり取り可能なシステムが増えた。有人レジとセルフレジがあったら真っ先にセルフレジを選ぶような私にはありがたい反面、原始的な「触りたい」という欲求自体は消えないのだろうなと感じた。

『憑依さん』は、漫画『青野くんに触りたいから死にたい』がドラマ化する際に書き下ろされた曲だ。
リリース当時は漫画との関連性でしか考えたことがなかったけれど、「触覚」という観点から漫画を読んで、曲を聴いてみるのは面白そうだなと思った。とりあえず最新巻を買わねば。

10.とん

「無感情はときに健康である」が分かりすぎる。労働時間は感情スイッチをオフにしたいって100回くらい妄想している(不健康)。

『とん』は、花沢健吾先生の『アンダーニンジャ』をモチーフにした楽曲らしい。リリース当時、漫画を買ったのに読んでいない……言い訳のようだが、ここ数年、固く決意しないと漫画を読めなくなってしまった。
なぜ同じ本でも漫画となると読めなくなるのか気になるので、同じ性質の人と語り合いたい。『呪術廻戦』は5巻くらい積んでいる。読みたいのに。
漫画以外の本の誘惑が強すぎるのかな。子どもの頃から連続ドラマを見るのが苦手なので、連載中の漫画を追うのも苦手なのかもしれない。

連載が終われば一気に読める。だから今、市川春子先生の『宝石の国』が気になっている。
以前Xに鬼頭莫宏先生の『ぼくらの』や『なるたる』、つくしあきひと先生の『メイドインアビス』と一緒に『宝石の国』の名が挙げられていたので、多分好きだと思う。

11.月見うどん

散歩しながら聴いていて、13曲目の『時間がない!』が終わった辺りでお腹が空いたので近くの蕎麦屋へ入った。
これは月見うどんを頼むしかないと思い、メニューを見たら載ってない。店員さんに「月見うどんに一番似ているものをください」と奇妙な注文をしたら、「作れますよ」と言って作ってくださった。やさしさ。

月見うどん

月見うどん、人生ではじめて注文した気がする。うどんに生たまごを落とすだけかと思っていたら、白身はふわふわに茹でてあった。雲のかかったお月様みたいで風情がある。

曲の『月見うどん』も、とても良い。イントロを聴いた瞬間に「和」を感じるのって、日本人だから?
子どもの頃に見た映画でこの曲が流れていた気がしてくる。遠い記憶が遡って生まれるようなメロディー、すごすぎる。

この曲もAAAMYYYちゃんパートがある。あまりにも良すぎる。「通り雨」と歌い出した瞬間に、さっと静けさに包み込まれるかのような透明感のある声が美しすぎて泣ける。

12.湧きあがる湧きあがる、それはもう

収録曲の中で一番目を引かれた。思いが溢れて言葉が追い付かないときのようなタイトルだと感じた。
なんとなく曲からもそんな印象を受ける。夏樹さんのドラムの音?メロディーからも走り出したくてたまらない気持ちを感じる。言葉や理性じゃなくて身体や感情のような曲というか。すごく良い。

『ゴーストアルバム』に収録されている『Odyssey』が好きで、それと同じく歌詞に春夏秋冬が入っている。
春のかなしばり、夏の声変わり、秋の侘しさに、冬の陽の香りって、並列するにしては脈絡がないな。秋の侘しさと冬の陽の香りは実感として理解できるけれど、春のかなしばりと、夏の声変わりとは!
でも夏の声変わりって、すごく良い。声変わりは、思春期に起こる身体の変化の一つだ。心が追い付かないまま、先に身体が変わってゆくと感じた人もいるだろう。
思いに言葉が追い付かない、身体に心が追い付かない。
『Odyssey』みたいに聴けば聴く程好きになりそうな曲だ。

13.時間がない!

エドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』かなんかで流れてた気がする。流れててくれ。たまらなく音が気持ち良い!
ツアーでは絶対歌ってくれるだろうが、ツアーが終わってもセットリストに入れてほしいランキング上位だ。ツアーが始まる前からセトリに入れてほしいと祈ってしまうくらい良い。

AAAMYYYちゃんの声の良さを語っても語りすぎることはないのでまた書くけれど、「深層good」の声の良さよ。良さしかない。
そして綾斗さんのラップって、やっぱりめちゃくちゃ良い……が、歌詞にここまで書いて良いんだ!と思った。
小原綾斗とフランチャイズオーナーの『おっぺえ』は、事務所に歌詞を直すよう言われたって仰っていたような。
iiieの弾き語りライブで『今世紀最大の夢』の納期がかなり短かったというお話をされていたので、『時間がない!』は実体験が反映されてそうな予感……。
ただの会社勤めの私とは仕事内容が違いすぎて全く想像できないし、誰だよって感じだけど、とにかく綾斗さんもAAAMYYYちゃんも夏樹さんも健康で豊かに長生きしてほしいって思ってしまうよ。

14.Booorn!!

Tempalay「ドォォォン!!」東京公演の日記+『Booorn!!』の感想」に記載。

15.Q

「思い切った笑い方がよく似合う」、「ただよく似合う」、「傷口に合う」の部分、歌い方も相まって苦しくなる。
「思い切った笑い方がよく似合う」の後すぐに「傷口に合う」が来るのではなく、間に「ただよく似合う」が挟まれるから、余計に「傷口に合う」という表現が心に染みて、滲みてくるよなと思う。

iiieのライブで聴けた『Q』の弾き語りバージョンが忘れられないので、どこかで聴けたら良いなと願っている。
はじめてTempalayのライブを観たとき、「音源と全然違う!」って驚いた。ツアーで弾き語りをすることはないと思うけれど、どんな演奏になるか楽しみだ。

16.Superman

Tempalay『Superman』の感想」に記載。

17.今世紀最大の夢

Tempalay『今世紀最大の夢』の感想」に記載。

18.Aizou'

「Aizou」の後の記号「'」、「A´」みたいなやつかと思って「ひー!数学だ!」と思っていたらプライム(ダッシュ)ではなくアポストロフィーのようだった(多分)。

『愛憎しい』と異なり、全て声を加工していて最後のシャウトがない。同じメロディーでも『Aizou'』の方が落ち着いている。それが2曲目から18曲目に至るまでの変化を表現しているようで面白いなと思った。

19.)))kuu-soku-ze-shiki(((

1曲目の『(((shiki-soku-ze-kuu)))』より音の種類が少なくて、どちらかというと静かだ。
日本語を聞きながら日本語で読んだり書いたりするのが苦手なので、読書中は環境音楽や自然音を聞くことが多い。これからは『)))kuu-soku-ze-shiki(((』をリピート再生することになりそうだ。

何故だか恒川光太郎先生の『夜市』に収録されている『風の古道』という話を思い出す。『夜市』も傑作で何度も読み返しているけれど、どちらか一方しか選べないのであれば『風の古道』の方が好きだと答える。
ジャンルとしてはホラーなんだけど、独特の切なさと美しさと郷愁がある。Tempalayの音楽に通じる気がしている。
脳内で『風の古道』の主題歌は『)))kuu-soku-ze-shiki(((』にした。最後に風が通り抜けるような音がするのも良いね。今年も再読しよう。

わーっと感想を書いてみた。これでやっと『MUSICA』のインタビューが読める。昨日発売された『音楽と人』にもインタビューが掲載されていたので買ってきた。

本当に供給が多い。うれしい。すごくうれしいけれど、一旦心を落ち着けたい。ずっとドキドキしている。また銭湯へ行こうかな。