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ChatGPTの本当の脅威

連日、ChatGPTに関するニュースが巷を賑わせていますが、いくつか間違った認識が多いように思います。
ChatGPTの可能性についてまとめていきたいと思います。

学習が必要ない

「AIなんだから学習は必要でしょう」
という人が大半だと思いますが、例えば下記のやりとりを見てください。

ここは大規模な商業施設です。ここは2階です。
1階にはユニクロとZARAがあります。トイレは中央エスカレーターの東側にあります。
2階にはフードコートと子供向けの専門店が入っています。2階の一番南にはゲームセンターがあります。トイレはありません。
3階には映画館とレストランが入っています。レストランでは天ぷらを食べることができます。
お客様から下記のような質問があったとき、受付として適切な回答をしてください。
「トイレに行きたいです」

質問文

「申し訳ございますが、2階にトイレはございません。1階の中央エスカレーターの東側にトイレがございますので、そちらへお越しください。」

回答文

「申し訳ございますが」が変ですが、ちゃんと答えてくれています。他にもこんなやりとりが可能です。

「服を買いたいのですがオススメはありますか?」

質問文

「はい、1階にはユニクロとZARAがございますので、そちらがおすすめです。お好みに合ったスタイルが見つかることでしょう。」

回答文

ユニクロやZARAが衣服販売の店とは教えていませんがちゃんと答えてくれます。もちろん、「ユニクロ(衣服販売)」のように書くことで精度は上がるでしょう。
これは公開されているChatGPTになんらかのトレーニングを行ったわけではありません。単に質問の前提条件を教えているだけですが、これだけを見ても簡単に受付システムを構築できそうだ、ということが分かります。
前提条件の1階や2階の情報などは定型文として用意しておき、受け付けシステムはユーザーの発言だけをその後ろに付ければ良いのです。
これには「前提条件として入力できる情報には限界がある」という問題がありますが、世の中で必要とされているシステムの大半は前提条件がそんなに多くありません。違う言い方をすると、高度な専門知識が必要ではない業務は数多くあります。これまでそういった業務をAIに任せようという試みは星の数ほどありましたが学習コストの高さや精度の問題に阻まれてきました。学習コストなしでAIチャットボットとして機能するのであれば多少精度が落ちても導入事例は進むでしょう。

また、例えば多段構成を取ればさらに多くの情報を扱うことができます。

ここは大規模な商業施設です。
お客様が下記のような質問をしていますが、その質問は以下のどの分類に属しますか?
・施設設備に関する問い合わせ
・店舗情報に関する問い合わせ
・食事に関する問い合わせ
・駐車場に関する問い合わせ
・その他
お客様の質問「トイレはどこですか?」

質問文

・施設設備に関する問い合わせ

回答文

ここは大規模な商業施設です。
トイレは1階のユニクロ横と、2階のゲームセンター横、3階の映画館にあります。
ATMは1階の東口にあります。
サービスカウンターは2階の中央にあります。
自動販売機は1階と3階のエスカレーター付近にあります。
お客様の質問は下記の通りです。適切な回答をしてください。
「トイレはどこですか?」

質問文

「トイレは1階のユニクロ横、2階のゲームセンター横、3階の映画館にあります。」

回答文

こんな形で多段構成にすることも可能です。2回目の質問で使用する各分類の具体的な情報は別途用意しておき、1回目の質問結果から2回目の質問で使用する前提条件を選択します。こうすることでより多くの情報について適切な回答をすることができるでしょう。

また、詳細は省きますが回答として質問を生成させることでより高度な条件について判別させたり、カメラの映像から質問者の年齢や性別を判断させることもできるでしょう。そういった情報は前提条件に加えればより適切な回答を作ることができます。

こういった問い合わせの内容を分類したり整理したりするのはプログラマーやコンサルタントの仕事でした。この分類手段が結構大事だったりしますが、これもChatGPTがやってくれます。

ここは大規模な商業施設です。
お客様が受け付けに質問してくる内容を5つぐらいに分類するとどのようになるでしょうか。

質問文

大規模な商業施設で受け付けに対する質問は多岐にわたりますが、一般的に以下のような内容に分類することができます。

1. 営業時間・アクセス方法: お客様は営業時間や場所へのアクセス方法に関する質問が多いです。
2. フロアマップ・配置: お客様は店舗の配置やフロアマップに関する質問が多いです。
3. プロモーション・イベント: お客様は現在行われているプロモーションやイベントに関する質問が多いです。
4. 商品・サービス: お客様は商品やサービスに関する質問が多いです。
5. 駐車場・駐車料金: お客様は駐車場の場所や駐車料金に関する質問が多いです。

これらは一般的な分類であり、商業施設によっては、分類内容が異なる場合もあります。

回答文

こんな風に良い感じに分類してくれます。もちろん商業施設に応じて手直し等は必要でしょうが、これらの分類に応じて既存の情報を整理しておけばより効率的に回答してくれるでしょう。

もちろん、学習させることでより高い精度や複雑な前提条件から判別させることも可能ですし、今後学習コストが著しく低減する可能性もあります。ただ、現状で学習させずとも様々な場面でAIチャットボットを利用できるというのは脅威になり得ます。

既存システムへの組み込み

先ほどの質問の出力形式を変えることができます。

表形式での出力

このように表形式で出力できるならExcelファイルへの埋め込みも可能ですし、少し工夫すればそれを使って質問内容の統計を取ることもできるでしょう。Excelで利用可能となればプログラミングできない人でも簡単に使えるようになります。また、例えば説明資料についてPowerPointで出力させることもできるようになるでしょう。例えば現状でも下記のようなことができます。

資料の作成

ここまでできるのでPowerPointの資料として出力することは難しくないですし、画像生成系のAIを使えば良い感じの背景やイラストを挿入させることもできそうです。もちろん、このまま使うことはできなくても全体構成を作ってもらって手直しするだけで出来上がる、ということはもう実現可能なのです。自動運転やカメラのオートモードのように大半の部分を機械に任せておいて人間がほんの少しだけ介入する、という世界が大幅に拡がることになります。

他にも、例えばJSONで出力できます。

ここは大規模な商業施設です。
お客様が受け付けに質問してくる内容を5つぐらいに分類するとどのようになるでしょうか。分類名を'title'、分類の説明を'description'として、JSONのリスト形式で出力してください。

質問文
[
{
"title": "営業時間に関する質問",
"description": "営業時間や休日に関する質問。例:いつまで営業していますか?"
},
{
"title": "商品に関する質問",
"description": "商品に関する質問。例:この商品はどこで買えますか?"
},
{
"title": "サービスに関する質問",
"description": "サービスに関する質問。例:駐車場はありますか?"
},
{
"title": "施設内に関する質問",
"description": "施設内に関する質問。例:トイレはどこにありますか?"
},
{
"title": "イベントに関する質問",
"description": "イベントに関する質問。例:今週末は何かイベントはありますか?"
}
]

こういった出力方法を選べるということは、既存のシステム内に埋め込むことが容易ということを示しています。
例えば自然言語での出力しかできないのであれば、アウトプットとして利用できるのは音声か文字情報ぐらいになります。そのため既存のシステムと共存させることは難しく、専用のアプリやデバイスで提供されることが多かったように思います。

これまで先進的な技術が登場しても、それをシステムや業務に組み込むことが難しい場合が多々ありました。例えばGoogleで検索した結果やWikipediaに載っている情報があったとしても、それを実際のExcelやPowerPointにまとめ上げるのは人間の仕事だったのです。また、自然言語としてAIの出力が得られたとしても、それを既存の設備やデバイスと連動させるのはプログラマーの仕事でした。出力形式の自由度が上がることでこういった作業が必要なくなります。全くゼロになるわけではありませんが、5人でやっていた作業が1人になる可能性はあります。

人類総プログラマー化

ChatGPTはプログラムのコードを生成することもできます。
例えば下記のような方法です。

温度センサーAと加湿度センサーBが寝室には置いてある。
加湿器にはスイッチCが接続されている。
最適な状況になるようにスイッチCを制御するPythonのプログラムを教えて欲しい。

質問文
# 温度センサーと湿度センサーからのデータを取得する
def get_sensor_data():
    # ここにセンサーからのデータを取得する処理を記述する
    temperature = 25 # 例:温度センサーからの値
    humidity = 40 # 例:湿度センサーからの値
    return temperature, humidity

# 加湿器のスイッチを制御する
def control_humidifier(temperature, humidity):
    # 最適な状況を判定する
    if temperature < 20 or humidity < 30:
        # スイッチをONにする
        switch = "ON"
    else:
        # スイッチをOFFにする
        switch = "OFF"
    return switch

# メイン処理
def main():
    temperature, humidity = get_sensor_data()
    switch = control_humidifier(temperature, humidity)
    print("加湿器のスイッチ: " + switch)

if __name__ == '__main__':
    main()

質問がかなり適当なので回答もそれなりに適当ではありますが、それなりにコードを返してくれています。特に「最適な状況」を20度以上、湿度30%以上と勝手に定義している点などはなかなかのものです。
これは、例えばSwitchbotの処理条件に自然言語が使用できるということになります。これはいちいち条件を入力しなくて良くなる、という側面よりも、プログラミングできない人でも利用可能になるという側面の方が影響としては大きいでしょう。プログラミングをしたことがない人にとってはそもそも「条件」という考え方が理解できない場合があります。プログラミング的な思考というのは条件分岐や繰り返し処理による全体構成の分解だったりするのですが、慣れていない人はそういった処理にうまく分解できません。(注意:これは知的能力の優劣というわけではなく、単に向いてるか不向きかというだけです。優秀な数学者でも部屋の片付けが出来ない人はいます)
ところがChatGPTではそれを勝手にやってくれます。
例えばLINEのトークの右上に「自動応答」ボタンが追加されて、そこに「この人からお金と仕事に関する話以外が来たら適当に返信しておいてほしい」とだけ入力しておけば勝手に返信してくれる、というようなことも実現できるでしょう。

ChatGPTのコード出力機能というのはプログラマーをサポートする非常に便利な機能ですしそういった利用が多いでしょう。しかし、ユーザースクリプトのように利用者に直接プログラムを書かせるということを簡単に実現できてしまうのです。これは全人類のプログラマー化を意味しています。
「そんないい加減なプログラムを使いたくない」
という人もいるでしょうし、ミッションクリティカルな場面では当然使うことはできませんが、世の中には「別にそこまで厳密じゃ無くて良い」という場面がかなり多く存在します。現実的にも、割といい加減なプログラマーがバグだらけのソフトウェアを平気でリリースしていますし、それを平気で使い続ける企業も多いのです。

まとめ

ChatGPTのAI技術は既存のAIから更に先に進んでいます。
一つ目は簡単な問題に対して学習が不要であることです。これは学習コストが問題となった多くの場面での活用が期待できます。
二つ目は既存システムへの組み込み容易性です。ここでいうシステムとはIT的なシステムもあれば、業務手順のようなシステムも該当します。Office系に支配されている業務手順においてはExcelやPowerPoint出力が可能なのは非常に強力です。
三つ目に人類の総プログラマー化です。誰もが簡単にITシステムをカスタマイズできるようになり、その昔「ユビキタスコンピューティング」と言われた「コンピューティング技術を意識すること無く利用できる」という世界そのものになりつつあります。

ちなみにこういった機能は実はChatGPT特有のものではなく、チャットボット系のAIなら昔から備えていた機能ではあるのですが、ChatGPTが無料で利用できる上に精度が高いということがまさに破壊的なところでしょう。

今後、ChatGPTだけでなくこの分野が更に技術革新していくと思いますが、その使い方を工夫することで他のビジネス分野で破壊的イノベーションを起こしていくことは間違いないと思います。

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