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佐々木の将人 合氣道八段 山蔭神道上福岡斎宮名誉宮司

一瞬一瞬を明るく生きるのが人生だ

「ものを知らない恥がどれほど私を鼓舞したことか。無学であり、貧乏であり、19歳の時の失明、この三つが今の私を私に鍛えてくれたのです」
佐々木説法の異名をとる独特の語り口で、人生を語り、生き方を語る――
合氣道指導のほか、日本全国各地で精力的に講演活動を行なう佐々木の将人氏のエネルギーの原点にせまりました。
(取材 平成17年11月15日 合氣道神明塾道場にて)
※所属や肩書きは、季刊『道』に掲載当時のものです。


恥と汗、かけばかくほど磨かれる

―― 先生には本誌の「なるほど」に長いこと書いていただいていますが、一つひとつの言葉や漢字の意味を独得の言いまわしで解説され、それを生き方、考え方につなげてくださいます。思わず、「なるほど」そうか、と納得する。あるいは思わず笑いをさそわれる。そんなお話のなかに人生どう生きるべきかの指針が必ず盛り込まれています。本日は『道』という観点から、先生のそのような生き方の原点をお伺いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

 一つは合氣道のおかげです。人生の恩師中村天風先生が「貴様、武道をやれ」と。それはなぜかと言うと、「一瞬のうちに命のやりとりをする武道をやらなかったら命の尊さはわからん」と。インドのタゴールという哲学者が言った言葉に、「哲学なき政治、感性なき知性、労働なき富は国が滅びる」というのがある。今はまさに哲学なき政治である。今の学校は知性だけで感性がない。武道は知性じゃあできないですよ。「それいくぜ!」と「ぱっ」と手を出してそれを防がなきゃいけない。「やられたな、ああ、血が出た」じゃあもう武道じゃない。

 かくのごとく、合氣道の修行のおかげで感性が磨かれた。 感激、感動、感謝も感性から出る。

合氣道のほかに、戦中に感性は鍛えられました。当時、「お前こんなことも知らないのか」と言われて、ものを知らない恥がどれほど私を鼓舞したことか。私は小学校しか出ていないが、恥と汗によってかけばかくほど磨かれた。

 漢和辞典が半分磨り減るほど字を勉強し、それを記念にとってある。私は二十二歳の時に、高校の夜間部に入り、英語は友人にABCからローマ字を習った。思えば戦中派の我々は、分数も知らないほど勤労奉仕で勉強する暇がなかった。終戦後は焼け野原でしたから。とにかく食えなかったんです。貧乏ってもんじゃないです。飲まず食わずの貧乏です。

 高校時代「分数になぜ分母と分子という文学的なものが数学にあるんですか?」と聞いて怒られたことがある。昔から「聞くは一時の恥、聞かざるは一生の恥」と言うように、私はいつも耳学で徹底的にものを覚えていった。

 ただぼやっと見ていない、「なんだろうな」というところから覚えていくわけです。だから私の腹の中に、ものすごくいろいろなものが入っているんです。学者でもあるうちの息子暢榮が「なんでそんなことわかるんですか」とびっくりするんです。

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