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奥村繁信 (財)合気会 合気道九段に聞く

道からはずれた現代教育の再生に向けて
これからの君たちに託するもの

 
「今、教育で一番欠けているのは、感動です。生徒に感動を与えるだけの先生がいない、ただ知識だけ」

大正生まれ、満州建国大学で勉学に励んだ奥村師範は、現代の、ハングリー精神に欠けた若者たちの姿に苛立ちを隠せません。彼らを育てた教育を批判しながらも、若者たちを「道」に戻すには、「時間はかかるけど、教育しかない」と、お話しになりました。
(取材 2006年11月18日 合気会本部道場にて)
※所属や肩書きは、季刊『道』に掲載当時のものです。


60年経って失われたもの

 戦後60年経って、教育がいかにだめになったかというのは今見てもわかる。今朝の新聞を見ましたか。文部大臣が、「君たちは決して一人ではありません、命を大切にしてください」と広告を出している。テレビでもやっている、とにかく自殺しないでくださいと。今、登校拒否が12万人ですよ。学校の先生がノイローゼになって、先生の登校拒否が4千人いるという。教頭や校長が首くくったとか、そういう時代になってきた、この60年間にね。

 僕ら古い人間からすると、自分たちがやらせておいて、こういう結果になったと。結局、家の崩壊なんです。家の崩壊がすべて諸悪の原因になっていると僕は思う。「ホテル家族」になっている。みんな鍵を持ち、自分の部屋を持って好きな時に起きてきて冷蔵庫をあけて食べ、好きな時に出ていく。一家で飯を食べて一家で話し合うというのは、今ないでしょ。父親の権威もなくなった。少子化少子化と言いますが、今の月給じゃ妻子を養えない。物価も土地も交通費も高いでしょう。

 武道のほうは60年経ってどうなったかと言うと、たとえばメルボルンで柔道が優勝すると、ガッツポーズとって、ファンに投げキッスする。負けた人はくやしがって泣いている。そういう武道になってしまっている。坐礼もなくなった。嘉納治五郎先生の思想もなんにもない。武道のいい面がぜんぶないわけです。完全にスポーツになってしまった。

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