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ドヴァ・坂本CTOの人生観を変えた、“アフリカでもらった言葉”【前編】

2021年からドヴァで取締役を務める坂本大地さんは、CTO(最高技術責任者)として技術部門全体を統括する。普段は沖縄県で暮らしており、横浜・みなとみらいのオフィスで働くエンジニアと遠隔でやり取りする。また、沖縄・名護に拠点を構える、ドヴァのグループ企業・オキットの業務にも携わる。一言でいうと、【テクノロジーを愛してやまない人物】だ。


◆テクノロジーオタク道

その片鱗は既に小学生の頃に現れていた。自宅にあったPCにソースコードを打ち込んでゲームを作ったり、ワープロで簡単なワークフローを組んで、自営業だった親に仕訳伝票ツールとして提供したりしていたそうだ。
 
中学生になると、NECの「PC-9821」シリーズが自宅にやってきた。それによってパソコン通信ができるようになり、「オタク道まっしぐら」に。とりわけ原子力発電をはじめとした電力系に強い関心を持ち、高等専門学校(いわゆる、高専)に進学した。
 
ちょうどその頃、インターネットの可能性を肌で感じることになる。

「新聞配達しながら学生をやっていたわけですけど、お客さんから新聞を解約すると言われたことがあって。別の新聞にするのかなと思ったら、フレッツ・ISDNで新聞がネット配信されるからもう紙はいらないとのこと。それを聞いて、もしかすると社会が変わるのではと思いました」
 
当時の彼女(現在の妻)が情報系大学に通っていてPCを持っていたため、課題レポートをやってあげる代わりにPCを借りて、インターネットの世界にどっぷりと浸かるようになった。
 
「こんなに進んでいたのかと、その時に初めて気が付いたんです。TCP/IPとか難しいことを知らなくても、普通に誰でもインターネットにつなげるということに」
 
社会人になるにあたって、IT業界に飛び込むのは必然だった。

◆人生を変えたアフリカでの出来事

企業に就職した坂本さんは、回路設計のエンジニアとして働くようになった。ただし、当時は人手不足で若手には次々と仕事が降ってきた。その一つが光伝送装置に関する開発および運用だった。

この装置は本来、電話局間で用いられるものだったが、途上国の3G携帯電話のバックボーン整備で活用され、結果的にバカ売れした。ただし、不具合が生じるとメンテナンスなどのために坂本さんも駆り出された。東南アジア、南米、そしてアフリカと、ありとあらゆる国に訪れたと坂本さんは振り返る。そんな最中にした体験が、坂本さんのその後の人生を大きく左右することになる。

東欧のとある国にて
アフリカ ザンビア共和国

2008年、訪問先のアフリカで坂本さんはトラブルに巻き込まれる。搭乗予定だった飛行機が飛ばなくなり、帰国できなくなったのだ。
 
「しょうがねえなと思って、空港に手続きしに行ったら、ホームレスみたいな格好で、日本語訛りの英語を喋る男性がいて。よく見ると日本人なんですよ。話を聞くに、歌を歌いにボランティアでアフリカに来たのはいいけど、重労働をさせられ、身ぐるみ剥がされてしまったそうです。でも、音楽ができたから、それを面白いと思ってくれた現地の大工の棟梁が彼の面倒を見てくれて、帰りのエアチケットまで取ってくれたようで」
 
しかし、飛行機が飛ばずに途方に暮れていたところを、坂本さんが見つけたというわけだ。そこでホテルに泊めてあげたり、ショッピングモールや床屋に連れて行って身なりを整えてあげたりしていたら、帰国前にかの棟梁がお礼を言いたいと連絡をしてきた。実際に会って話をすると、棟梁は坂本さんに対し、別のことについても感謝を伝えたのだ。

「この国に携帯電話が普及したことで、俺の人生は大きく変わったと言っていて。なぜかと聞くと、今までは動物を狩りしながら暮らしていたため、狩場を巡って住民同士の殺し合いが結構あったそうです。でも、携帯電話を手に入れたことで新たな仕事が生まれ、違う形で生活を継続できるようになったと。お前たちが安くて最先端の機器を作ってくれたおかげで、自分たちの暮らしや国がどんどんいい方向に変わっていったと喜んでいました」
 
その棟梁の言葉を受け止めた坂本さんは、自分の仕事に対する意義を強く感じた。そしてまた、社会を進化させて、多くの人たちが幸せになるための仕事をしたいと考えるようになった。

◆沖縄での偶然の出会い

坂本さんはその後も伝送装置の開発に従事する傍ら、新たなテクノロジーに興味を持つ。それは「仮想化技術」である。

仮想化とは
コンピュータのリソースを抽象化することであり、ソフトウェアと物理的なハードウェアの間に抽象化されたレイヤーを提供することで、コンピュータリソースを管理するための様々な技術である。仮想化ソフトウェアを実行しているマシンは、さまざまなオペレーティングシステム(OS)で実行されているアプリケーションを管理できる。サーバー、ストレージデバイス、ネットワークリソースなどのハードウェアプラットフォームをソフトウェアで効果的にエミュレートまたはシミュレートする。一言で言えば、WindowsなどのOS内で別のOSを使用すること。

https://w.wiki/9Mms

「この技術をもっと発展させれば、伝送装置やネットワーク機器を仮想化できるのではないか。それによって携帯電話のシステム自体も仮想化できる。それによってもっと爆発的に普及するはずだと思いました」
 
業務外に時間を見つけては、個人的に仮想化技術の研究などに取り組んだ。すると徐々に社内にそのことが知れ渡り、同じような意識を持ったメンバーが集められ、ネットワークサーバやデータセンターの仮想化構築に向けたプロジェクトチームが結成された。
 
自己研鑽のためにいろいろなセミナーや勉強会に参加していた坂本さんは、2013年12月に沖縄で開かれた「OKINAWA OPEN DAYS」にも顔を出す。そのイベント会場の喫煙室で偶然鉢合わせたのが、ドヴァの社長だった。
 
「社長の第一印象は、サンダルを履いてチャラい、でかい兄ちゃんだなと(笑)。『どこから来たの?』みたいな感じで話し始めていたら、意外にも社会に対する仕事のあり方などが一致して、意気投合したんです」
 
そこからが急展開だ。坂本さんは翌2014年にこれまで勤めた会社を辞めて、沖縄の自宅に戻る。そして、米軍基地で働くと同時に、ドヴァの仕事も請け負うようになる。

2005年から沖縄に家はあったが、単身赴任生活が続いていた

「ちょうどオキットがIX(インターネットエクスチェンジ)を形作っている真っ最中だったので、トラブルが起きた時に一緒に解析したりしていました」
 
そうした副業的な関わり方が数年続いた後、社長から「もっとコミットしてほしい」と言われて取締役で参画することになったのが、今に至る経緯だという。
 
CTOとしての直近のミッションは、次期ネットワークの構築だ。オキットが提供する『OIX(オー・アイ・エックス)』を横浜のデータセンターを含めて拡大していく計画で、そのグランドデザイン作りと方式検討を今年中に終える予定である。

OIX®とは
インターネット上での映像配信技術の高度化による通信トラフィックを解消すべく、株式会社オキット(株式会社ドヴァのグループ企業)が沖縄県内にインターネット相互接続ポイント(IX)を設置する事で、通信が沖縄の外に出る事無く接続する事ができ、 ネットワークの高速化・通信コストの低減が可能となります。災害時にも、アクセスの集中による通信断等といったリスク回避にも有効となります。
また、インターネットはマルチホーム接続されおり経路も冗長されているため、通信障害があった場合も自動で別ルートを選択し信頼性の高いネットワークを提供します。


◆「私は多様性を信じたい」

長年ネットワークの仕事に関わる中で、どのような苦労があるのだろうか。
 
坂本さんは「大前提として、ネットワークは止めてはいけない」と前置きした上で、ネットワークトラブルの場合、どこに原因があるのかを特定、解明するのが難しいという。
 
「通信ネットワークはいろいろな人が関わって、最終的にエンドユーザーに提供するわけですけど、不具合が起きた時にどこが問題なのかを一つ一つ切り分けて調べなくてはなりません。他愛もない現場の工事ミスが原因になることもあります。そういったものを見つけるのはものすごく大変ですね。何だかんだで場数はかなり踏んできましたが」
 
かたや、ドヴァでの仕事において最も胸を張れるものは何だろうか。坂本さんは『OIX』だと即答する。従来は沖縄のデータセンター同士で冗長化していたが、それを沖縄と東京の2拠点に変えたこと。これによって障害などで片方が孤立しても、もう片方が動ける構成にした。ただし、坂本さん一人の力ではなく、ドヴァのチーム力の賜物だったと喜ぶ。

「現場主導で考えて、運用を止めずに構成を変えるフォーメーションを組みました。いいなと思ったのは、こういう方法があるねと彼ら自身が見つけてきてチャレンジしたこと。また、ラテラルシンキング(物事を多角的に考察する思考法)に則り、この方法が駄目だったら別のやり方で考えてみようと、本当に諦めずに取り組んでくれました」
 
坂本さんはチームで物事に立ち向かうことを重視する。
 
「私には偉大な先輩がいました。その人のように何でも一人でこなしてしまうスーパーマン技術者には憧れますよ。でも、組織としての総合力や将来性を考えた時には、多様性が重要だと思います。多くの人が知恵を出し合うことで、進化していく方法を私は選びたいです。ドヴァでこれができたのは本当に嬉しかった」
 
次回は、坂本さんが働く上で大切にしている信条などに迫っていく。
 
(後編に続く)

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