見出し画像

【ふしぎ旅】大倉の笠地蔵

新潟県新潟市につたわる話である。

 昔、法順寺に地蔵さまが立っていた。
 ある時、新潟の魚屋がイワシ売りに来て、側を通ると雨に降られ冷たそうな顔をしていた。
 魚屋は可哀そうに思い、笠を買ってきてかぶせ
「雨にたたかれなくてよいでしょう」
 と言って帰った。
 その後、別の魚売りが前を通ると、急に雨が降ってきた。
 魚屋は地蔵様のかぶっていた笠を借りて、自分でかぶって帰り、返すことがなかった。
 するとある夜、地蔵さまがこの男の夢枕に立ち「笠を返しなさい」と言った。
 このため男は恐縮し、さんざん詫びを言って返したと言う。

小山直嗣、『新潟県伝説集成下越篇』


法順寺 山門

 法順寺は、新潟市南区旧味方の大倉集落内にある。
 立派な山門があり、山門を通ると本堂が見える。
 境内に檀家の墓地があり、昔ながらの集落の寺といった感じだ。

法順寺 本堂

 さて、伝説の地蔵であるが、見回した限り、寺の周囲や境内には地蔵さまはいらっしゃらなかった。
 同じ集落内、寺から少し離れたところに、小さなお堂があり、中にお地蔵さまが見えたのではあるが、どうにも個人の土地の様にも見えて、近づいて中を拝顔することが出来なかった。

法順寺近くにあった地蔵堂

 なんとなく、昔は法順寺の入口であったと言ってもおかしくはないような位置なので、あるいはこれがそれなのかもしれない。案内はないので、確信は得られなかったが。

法順寺近くにあった地蔵堂

 恩返しなどの親切に報いる話でなく、もらった笠をとられて恨み節を唱えるという、あまりにも人間臭いところが非常に好きなのだが、あまり美談でもなく、また おこしたことも災害や病気などの禍ではなく、夢枕にたったというだけなので、呪いを恐れて地蔵さまを必要以上に祀るなどということも無さそうなので、話だけが残ったという感じなのだろうか。

 その昔、お寺がまだ身近なものであった時代、お寺のお地蔵さまと周囲の住民たちが、共生しているような、そんな長閑な時代があった頃の話なのだろう。

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

お読みいただきありがとうございます。 よろしければ、感想などいただけるとありがたいです。