幼い子の手のやけどの手術|形成外科の仕事
歩き始めた子供の視界には何が見えているでしょうか?
今まで見えていなかった物が手の届く距離にあるので、ワクワク楽しくて仕方ないでしょう。
そこに見えるもの…炊飯器、ポット…
1歳児は「危険なもの」と認識しません。炊飯器のポットからシュウシュウ音を立てて吹き出る、白い蒸気。興味を持たない訳がありません。「手」をかざしてしまいます。
やけどします。
こどもの皮膚はペラペラに薄いので、ダメージが深くなります。
ベストを尽くして治療を行っても「変形」や「こわばり」などの後遺症を残すことに。
指は機能を司る臓器。機能を失うことは大きなハンディキャップになります。
以下は、「治療経過を皆さんと共有する許可」が得られた、貴重な写真です。
左手のやけど(幼児)
ひきつれ変形
1歳の時に蒸気でやけどしました。治療で皮膚はふさがりましたが、変形が残りました。これを瘢痕拘縮といいます。
中指から小指にかけて、手のひら側のやけど。傷が縮んでしまい、「パー」が出来ません。
見かけの問題だけではないのです。機能の問題なのです。
治療(手術)
こわばりを解く手術を行いました。瘢痕を切り開いただけで、これだけの皮膚欠損(皮膚不足)があることが分かりました(注:何も切除していません)。
皮膚の欠損した場所に、本人の足から皮膚を移植しました。「全層皮膚移植:Full Thickness Skin Grafting」です。皮膚の移動です。発想としてはシンプル。
1週間で血管が伸びて届き、移植片が栄養されるようになるのです。つまり生着するのです。が、うまく生着してくれるかどうか(移動した皮膚が生きてくれるかどうか)がとても心配で、ドキドキしながら見守るのです。
治療の結果
治療から3年。「パー」ができます。つっぱりはありますが機能は保たれているようです。物を持ったり掴んだりも支障が無いそうです。機能回復の手術。コレも形成外科の仕事なのです。
今後成長とともに変形が強くなる可能性もあるし、本人の希望によって修正手術もあり得るでしょう。
皮膚の採取場所は足の内側です。左右からいただきました。傷跡が残りました。
移植する皮膚は自分のカラダから貰います。他人の皮膚は生きません(拒絶されます)。自分の身体のどこかに犠牲を作るのがこの手術の宿命。
別ケースですが、「私の皮膚を使ってください」と訴えた親もいらっしゃいましたが、残念ながらそれは不可能なのです。😰
予防が大事
1歳児の行動範囲の急拡大は予想を超えます。炊飯器やポットの蒸気の出口に手が届くことのないよう、十分に気をつけてください。
最近は「熱い蒸気の出ない商品」もあるようですよ。
一度ヤケドしたら振り出しには戻せません。「神の手」をもつヤケド治療医師は存在しません。くれぐれもご注意を。
以上形成外科医の仕事の紹介でした。
※写真の共有に承諾をいただけたこと、心より感謝申し上げます。
ちなみに野口英世氏は幼い時に囲炉裏に転落して手をヤケド。成長してから手を開く手術を受けたんですよね。でも機能的な手ではなかったそうです。小学生の時に読んだ伝記『野口英世』。当時の自分が将来その手術をするなんて思うよしもなかったです。
あとがき
このような治療は、全身麻酔を担当してくれる麻酔科医、点滴のサポートをしてくれる小児科医、身の回りのケアをする看護師などのスタッフが充実した、入院設備のある医療機関で行われます。
献身的で優しいスタッフばかりです。この場を借りてお礼を申し上げます。m(_ _)m
可能ならTwitter,Instagramも覗いてみて。 https://twitter.com/dr_kanaz https://www.instagram.com/dr_kanazawa/ いただいたサポートはJETSTREAMのペンの購入に使わせていただきます。