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無銭飲食した話

「気にしないで〜〜!お腹空いてるんだろう??」

埼玉県のとある峠の茶屋での出来事です。

鎌北湖を出発して10キロほどの林道を上りくだりランニングしながら目的地に到着。プランではすぐに引き返す予定でした。

なんとも風通しの良い、景色の良さそうな茶屋が目に飛び込んできます。はと我に帰ると席について"とろろ蕎麦"を注文していたのです。

!

すぐに気づきました。カバンを探ったら財布が見当たらない。車の中か!
「ごめんなさい、今の注文キャンセルで!財布忘れました!」
猫ダッシュで厨房に飛び込みました。

その後に発せられた店主の言葉が冒頭のセリフであります。

予想外の返答に戸惑う私。人情に触れた喜びを噛み締めながらお言葉に甘えて蕎麦を啜りました。

するとまた店主の大きな叫び声が耳に飛び込んできました。

「好きなだけ持ってって~~~。」

お店に山菜を置いているのですが、お客に持たせようとしている様子。
埼玉の奥地にこんな茶屋があるのです。

私が忘れた価値がそこにありました。

医療において「無料のサービス」って難しいですよね。良かれと思ってサービスしたものが患者さんご本人にとって無駄に終わる、もしくは悪化の原因と取られると強烈な不満をぶつけられます。そのために私たちも及び腰になってしまう…そんな今の社会。

息苦しい…生き苦しい。そう、正直思います。
そんな中オアシスのような体験でありました。(後日訪問し、無事精算は済ませした。)

そんな出来事から二ヶ月余りのギラギラ夏真っ只中。私はまた同じ場所にいました。11時前で例の茶屋は開店前。広大に広がる深緑の景色を眺めていると、背中をまあるくした老婆が私にとぼとぼ歩み寄ってきます。

例の茶屋の向かいに、大河ドラマに出てきた渋沢何某の名前のついた茶屋がもう一軒あります。そこから現れた彼女は汗だくの私を見上げて言いました。

「冷たい水いるかい?喉乾いただろう?」

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