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スケールアップや設備変更の壁を乗り越える製造データ解析術

第18回SONAR研究会(2021年10月13ー15日)にて講演させてもらった.講演題目は「データが蓄積されるまで待てない!ときに役立つモデル構築技術」で,製造現場あるあるな問題に対して,どのようにデータ解析を適用していくかを,産業応用事例と共に紹介した.

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例えば,スケールアップ.ラボ実験の結果を踏まえて,より装置サイズの大きなパイロット設備で実験を繰り返し,最終的にコマーシャルスケールでの生産を実現する.ラボ,パイロット,コマーシャルでは装置サイズも操業条件も,センサーの種類や数も異なる.このため,例えば,コマーシャルスケールの生産設備で仮想計測(ソフトセンサー)を実装したくても,スケールアップ直後にはデータがないためモデルを構築することができず,データが蓄積されるのを待ってからモデルを構築することになる.

このような場合,ラボとパイロットのデータを用いて,コマーシャルにも適用可能なモデルを構築することができれば,無茶苦茶凄くないだろうか.これを実現したのが,第一三共のスケールフリー・モデリングだ.

K. Yaginuma et al.: Scale-free soft sensor for monitoring of water content in fluid bed granulation process. Chem. Pharm. Bull., vol. 68, no. 9, pp. 855–863 (2020).

オープンアクセスで論文を無料ダウンロードできるので,興味のある方は是非読んでみて欲しい.このスケールフリー・モデリングでは,変数選択が決定的に重要な役割を果たしている.

転移学習例

そして,設備,原料,運転条件の変更.このような変更が行われると,これまで使用していたモデルが使用できなくなる.特に設備の変更では,センサーの種類や数が変わることもあり,小手先のモデル更新ではどうしようもなくなる.

仮想計測結果を推定制御に利用しているような場合,設備変更後にモデル再構築が完了するまで,自動制御ができず,手動制御に戻さなければならない事態に陥ることもある.そうすると,そのダウンタイムが経済損失を招く.この問題を解決したのが,リコーのケミカルトナー製造設備での転移学習適用事例だ.

Frustratingly Easy Domain Adaptation (FEDA) を拡張して,異質な転移学習(Heterogeneous Transfer Learning)に適用可能な方法とし,またガウス過程回帰(GPR)とバギングを併用する(弱学習器を信頼性に基づいて取捨選択する)ことで予測モデルの精度を実用上十分なレベルに向上させた.

リコー概要

結果的に,ケミカルトナー品質自動制御システムのダウンタイムを従来の1/4まで削減することに成功した.

リコー結果

これらの産業応用事例は,製造現場あるある的な問題を解決したもので,SONAR研究会の参加者にも興味を持っていただけたようだ.

参加者アンケートでは,「転移学習の興味深い講演を聞かせて頂いて大変満足」「我々の分野や業務にどう適用するかは結構悩んでいる。さすが加納先生と感心した」「ラボからパイロットそして量産と常に改善の早急化が求められる中、当社プロセスにも数々適用できる箇所が見いだせた」「今までまさに探していた試作段階データからの商用データの予測方法を知ることができ、非常に有意義な講義でした」「ぜひ自社でも活用したいと思います」「製造業への具体的な展開事例が確認できて局所PLSを検討してみたい」等々,大変好意的なコメントを寄せていただき,とても有り難い.

SONAR研究会(主催:SONAR研究会幹事会,後援:株式会社ワイ・ディ・シー)での講演は,毎年恒例となっており,楽しみにしてくださっている方もおられるため,その期待に応えられたのであれば大変嬉しい.

3日間のオンライン研究会の最後,エンドロールで私の講演の様子も流していただいた.なお,講演は事前にスタジオで収録し,質疑応答は研究会内でリアルタイムに実施した.

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© 2021 Manabu KANO.

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