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災害時における健康管理

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
令和六年元旦夕刻に、令和六年能登半島地震が発生しました。今なお被害の全貌は判明していませんし、余震や今後更なる大地震が起こる可能性、大津波の可能性に震えている方も多いと思いますが、被害が少しでも少なく済むことを、心から祈念しております。
そしてこの投稿がひとりでも多くの方に参考になれば幸いです。

【「災害対策」は災害前だけでは無い】

世間一般で言われている災害対策は、実災害時に困らない様に、事前に物品を準備することや、困った時に必要なスキルを身につけておく、と言う様なことが言われています。
それらは無駄ではありませんが、被災時の健康管理と言う意味では、まだまだ周知徹底されてないと思います。

【「災害」とは何か】

災害とは、自然災害(地震、台風、噴火、津波など)、人工災害(戦争、テロリズム、感染症パンデミック、放射性物質広域汚染、など)がイメージしやすいですが、米国の災害医療研修教育プログラムを採用している日本では、災害医療研修の際に「資源の供給が需要を下回った時」と言う定義をとっており、その様な認識を持っておくと、様々な状況における災害対策に有効かと思います。

平時医療では目の前の患者に最大限の資源をいくらでも注ぎ込むことが出来ますが、災害時には、限りある資源を本当に必要な人に如何に配分してより多くの人を救えるか、と言う判断が必要になります。
その為に必要なのが冷酷とも言える「トリアージ」と言う考え方です。

自分で歩ける人は「緑」として経過観察のみ。
自分で歩けないがしばらく大丈夫な人は「黄」。
自分で歩けず応急処置で安定させ迅速な治療が必要な「赤」。
自分で歩けず応急処置をしても搬送に耐えられない「黒」。
として判定を行い、緑と黒は基本的に放置することになります。
定期的にトリアージはやり直すので、緑が赤になったり、と言う様なことも起こり得ます。

一般の人達もコレを知っておくと、自分や身の回りの人達が本当にヤバい状況なのか、と言う判断ができると思います。悪用して早く診てもらえる様にすることも出来ますが、医療チームはそう言う状況へのトレーニングも受けてますのですぐにバレますし、よけいな負荷を医療チームにかけるだけです。

【被災時の健康管理】

とは言え今回の能登半島地震の様に、実際に被災されてしまった場合には、既にある物だったり、着の身着のまま避難所に避難された方もいるでしょう。そう言った方々が出来ることはなんなのか、についてまとめてみました。

【自分自身で出来る健康管理】

人間が自分で出来ることは、大きく分けて4つに分けられます。「呼吸」「食事」「運動」「メンタルケア」。加えて「環境を最適にする」と言うことも含めて5つとする場合もあります。

【呼吸】

ストレス環境下にあると、どうしても息を吐き切ることが出来ず、浅い呼吸になりがちです。常に深い呼吸をする必要はありませんが、朝や晩に鼻から吸って倍の時間をかけて息を吐く、と言うことを意識してみて下さい。自律神経のバランスが数分で整い、ストレスケアや睡眠の質の改善に役立ちます。

【食事】

避難所などに届く料理は、予算や保存の関係上、「糖、炭水化物、脂質」の塊であることが多いです。体力の維持やメンタルを安定させる為には、むしろ炭水化物は控えめにしましょう。

もちろん餓死するかどうかと言う極限状態の場合には、炭水化物や糖や脂質の塊であれ、命をつなぐ為に食べる必要がある場合は、手に入る食べ物や飲み物で命をつなぎましょう。

とは言え、炭水化物や糖は代謝時にビタミン・ミネラルを消耗しますので、中長期的には健康を損なうことは、理解しておきましょう。野菜ジュースやフルーツジュース、甘い缶コーヒーなどは、有用成分も入ってますが、多く含まれる糖の悪影響がありますので、毎食配食に付いてくる場合には、1日1本や数日に1回程度飲む様にしましょう。

被災者が健康を損なわない様にする為には、水分が確保出来るのであれば、水分は十分に補給しておきましょう。カフェインが含まれるお茶類やコーヒーなどでも、飲んだ量の半分程度の水分補給にはなります。アルコール飲料は水分補給にはなりませんので、精神安定の為に飲まれる場合は、平時以上にチェイサーとして水分補給を意識しましょう。

1日3食に加えてお菓子を間食にする必要は全くありません。「配食された物を全て食べない」と言うことも大切です。夏など腐敗や食中毒が懸念される場合には保管しておくことは危険ですが、今回の様に気温の低い季節の場合には保管しておけます。本当にお腹が空いた時に食べれば良いですが、ストレスが強く全くお腹が空かなくても、水はしっかり飲んで、1日1食は食べる様にしましょう。

「起きている間に食べない時間を確保する」と言うやり方を否定する医師や専門家もいますが、生活習慣が原因の二型糖尿病の前段階とも言える、「インスリン抵抗性」を改善させることが報告されている他、1日14-16時間食べない時間を作ることで、細胞内老廃物を積極的に分解し再利用するオートファジーが活性化されたり、サーチュイン遺伝子が活性化することで、若返りが期待できるとも言われています。

例外的に、妊産婦や乳幼児や成長期の青少年は、無理にその様な短断食を行うと必要な栄養補給が出来ない場合があるので、無理に行う必要は無いと言われます。肥満傾向の場合には試してみても良いとは思いますけどね。

食事のバランスの目安としては、
・炭水化物が主の主食
・蛋白質が主の主菜
・野菜が主の副菜
を容積比で1:1:1にすると良いです。

厚労省や農水省は3:1:2を推奨しますが、多くの人には「糖質過多」「蛋白質不足」になりがちですので1:1:1を意識し、過剰な主食は残して保管しておくか、廃棄した方が健康の為には良いです。

【運動】

避難所でボディビルをやりましょう!とか毎日10km走りましょう!なんてことは必要ありません。
全く動かないでいると、血栓が出来やすくなり「ロングフライト症候群(いわゆるエコノミー症候群)」と言う杯血栓塞栓症を起こすリスクが高まります。
立ったりしゃがんだりを10回程度繰り返したり、肩や股関節を満遍なく動かす、その場でジャンピングを10回程度行う、と言う様なことを30-60分ごとに気がついたら行うだけで十分です。座ったり立ったりし続けなければいけない場合には、踵の上げ下げだけでも血栓症の予防効果があります。

【メンタルケア】

いつもと環境の違う避難所生活であったり、自宅であっても頻繁に起こる余震にビクビクしながらの生活は、ストレスフルになります。
可能であれば、お互いの状況を伝え合い、共感し合える家族や知人がいると最高です。朝晩に挨拶したり、話をするだけでもかなりストレス発散になります。

先ほどお伝えした深い深呼吸をしながら瞑想をする、と言うことも有効です。もし可能であるならば、ぜひ他の被災者の方なども一緒になって行うと、より相乗効果でリラックス出来ます。
避難所で、希望者が参加できる瞑想プログラムとかを開催できる余裕があると素晴らしいですね。趣味としてヨガなどをやられてる方が講師役をしても良いと思います。

そして回りの人達は全て被災者であることを意識しましょう。対応してくれている役所職員、警察官、救急隊員や自衛隊員のご家族は、行方不明だったり、亡くなられたかも知れません。極限状態にあると、そう言うところまで頭が回らず、「お前らに私の何が分かるんだ!」と感情を爆発させたり、「被災した人達の前で談笑しやがって、税金で養われているクソどもが」と言う様な発言をしてしまう人もいますが、被災地にいる人達は多かれ少なかれ被災者です。
先ほどのヨガや瞑想の話ではありませんが、むしろ自分が普段している仕事関連のことで、何か他の被災者に貢献できることは無いか。皆が辛い状況だからこそ、そう言う気持ちが大切です。

そして可能限り睡眠の質や時間を確保しましょう。そんなの無理や!と言う方もいらっしゃるでしょうが、目を閉じてリラックスする為の呼吸を意識して行うだけでも、睡眠に近い休養効果があります。夜に眠れなかった場合は、休める時にこまめに仮眠を取るようにして下さい。睡眠不足はストレスになるだけでなく、免疫機能も弱めるので、感染症にかかりやすくなります。

特に最前線で活動されている役所職員やボランティアなどの方々は、ストレスも強いですし、滅私奉公の感覚で休みなく働き続け、燃え尽き症候群の様になる人も少なくありません。指揮官はたとえ人員が足りなくても、交代して休みを取れる様な環境を整える意識を持ちましょう。

【環境】

コレは一番難しいことですが、何も「南国のリゾート地」の様な極楽環境に身を置く、と言う様な意味ではありません。もちろん寒い時期であれば、暖かい環境を確保出来るならそれに越したことは無いでしょう。
避難所に滞在せざるを得ない人達の中で、自己中心的なトゲトゲしい態度でわざわざ周囲の人達を不快にさせない、と言う様なことでも良いんです。
出来る限り、より良い環境に自分や周囲の人達をおけるように心がけましょう。

そして真夏に下水道が破壊されたり津波などによる水害が起きたりすると話題になりますが、災害後は様々な感染症が起こりやすいです。
環境が落ち着くまでは、基本的な感染対策を励行する様にしましょう。

参考までに過去のnote記事リンクを載せておきます。

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