キャンドルジュンさん会見で語られた広末さんの気になる言動。芸能人の躁的防衛という心のメカニズム。②

①では双極性障害について、他の病気に比べると自身も周囲も病気の認識を持ちにくいゆえの問題とともに積極的に医療機関などに相談してほしいということを述べた。

②では自分の臨床経験に基づいて双極性障害について気づいたことを2点ほど述べたい。さらに芸能人が多くとりがちな心のメカニズムとしての躁的防衛についても少し触れたい。

まず引用エピソードにもあったが、「過度なプレッシャーがかかったりだとか、不条理なことに出くわしたりとかそうなってしまうと」普段と違う行動に出るとのことであった。
私の経験でも「何かを頑張らなきゃ」と思ったときに躁状態に転じる患者さんが多いように感じる。仕事や学業でのがんばりどころ以外にも、家族や親族での行事や集まり、清掃や料理などの活動をきっかけにすることも見られ、これは「家」を大切に考える中高年女性に多い印象だ。
不条理なことにぶち当たったときも、「はねのけてがんばる」と考えて急激にアクセルがかかるのかもしれない。
「がんばらなきゃ」と思ったときこそ、自身で昂りすぎないように気を付けたり、周囲の人に伝えておくということが大切であるように感じている。

もう一点は、2年に一度とか3年に一度といったように決まった期間で躁状態がやって来る人がいることだ。例えば春に気分が高揚しやすいなどのように一年の中で気候などの要因でタイミングが決まっているならわかりやすいし、バラバラだというならそれもわかるが、2年なら2年に一度のように決まった期間でくる人がいる。これに関しては私はなかなか不思議に感じている。

次に芸能人の躁的防衛についてだ。これについても芸能人全員でないのはもちろん、広末さんについての話でないことも先程と同じだ。またこれは防衛という心のメカニズムの一種であり、病気ということではない。自身の不安や心が壊れてしまうことから自身を守るためのメカニズムであり、誰でもやっていることだ。防衛機制という言葉の方が馴染みがあるかもしれない。「すっぱいぶどう」とかフロイトの抑圧あたりが有名だろうか。
その中の一種に躁的防衛というものがある。この防衛の本質は「否認」という働きだ。

まず躁の反対であるうつについて話すと、うつ状態では「自分は病気なのではないか」「自分は経済的に破綻してしまうのではないか」「自分は何か罪を犯したのではないか」などの微小妄想というものをもつ状態になることがある。うつでエネルギーが落ちて自身を小さい存在に感じてしまうといったところか。ちなみに重い状態になると現実に全く合わないことを言ったりする。例えばテレビで事件の報道がされているとき、「自分が悪い」などと思うようになる。一般の人でもわかるレベルのかなりしっかりとした妄想となることもあるのだ。
うつ状態ではなくとも「何か病気なのではないか」とかお金のことについて過度に心配したりと不安になることは普通にあるだろう。危険から身を守るのに適切な不安は必要なものだ。
ここで否認という働きが登場する。「寝なくても平気だ。身体なんて壊さない」「高いもの買ってもそれだけの価値がある。より大きいリターンがあるはずさ」などと普通なら問題となりうる事態を否認することで気分の高さを保つのだ。心配すべきものとして「ある」ものを「ない」と言いきってしまう。ちなみに抑圧は「ある」ものを気まずそうに覆い隠すといったイメージか。
そして芸能人は躁的防衛のメカニズムをとることが多いということがわかっている。
ものすごい数の人が見ている状態で歌を歌ったり、トークをしたりする。どんな角度から批判やつっこみがくるかわからない。普通なら人前で披露するに値する芸なのか完全には自信を持ちきれないことだろう。「こんなこっ恥ずかしい恋愛ソング人前で歌うのか」このような不安や懸念をぶちやぶる勢いが必要なのだ。迷いを表に出せばもっと中途半端な印象を与えてしまう。よほど自分に酔っていない限りはそれらの懸念を否認して高さを保ったままそこを越えなくてはやってられないのかもしれない。
特に最初にメディアに登場するときなどはそうなのではないだろうか。だれコイツ?状態の中で、お行儀のいいことだけして覚えてもらえないのか、キャラを思いきって立てるのか。
90年代に「電波少年」の企画で有名になり、CDデビューまで果たすが、一発屋として一度消え、久しぶりにテレビに登場したときの有吉さんが忘れられず印象に残っている。毒舌芸人というキャラ設定で登場したようで、誰のことだったかは忘れたが、誰かを揶揄することを言おうとしたとき、表情がとてもこわばっているように見えた。有吉さんは初めてのメディア登場ではなかったが、久しぶりに出てきて毒を吐くわけで、「は?」という反応をされてしまう可能性だってあるわけだ。周囲の先輩芸人さんのフォローもあり、乗りきった形だった。

「あの人はカメラが回っていないところでは物静かだ」なんていう話もよく聞くが、これも躁状態はずっとは続かず、気分はいずれは落ちる運命にあるということだ。普段抑うつ的な人が芸能人には多いということもよく言われている。
その極端な落差それ自体の苦しさ、そしてもしかしたらそのようにしか生きられない苦しさを想像せずにはいられない。


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