大学受験で一科目捨てる作戦は可能なのだろうか。
今回はこれについて考えてみたい。
まずどうして捨てるという作戦をとるのかと言えば「その科目が苦手だから。勉強するのも苦痛だから」というのが思いつきそうだ。しかし問題が簡単であれば捨てると大差をつけられてしまう。よってその大学の受験生から見ても出題が難しいことが必須条件となるだろう。
あとは配点が極端に低い場合だろうか。これには難関校のように二次試験科目の数が多く、一科目あたりの配点が全体に対して小さくなるということも含むだろう。

今回なぜこんなテーマを考えたのかと言えば、一橋大の世界史を見て腰を抜かしたからだ。
昔から一橋の世界史が難しいのは知っていた。自分は昔よりは歴史に関心が出てきて歴史系の動画を観たりして「そういうことだったのか。全然わかっていなかったなあ」と思っていた。そして難関校の今年の出題をいろいろ見ていて、昔よりは少しはわかるかもと思って一橋の世界史を見てみた。
「なんじゃこりゃ。さすがにこれは高校生には厳しすぎないか…」
大問3問で全て400字の論述問題だ。
中世ヨーロッパ経済が交易を広げていってヨーロッパ全体の市場となる過程、奴隷制を廃止していく過程での各国の動き、唐の混乱のもとでの周辺国の動きといった3問だったが、手が出そうなのは3問目ぐらい。
冊封体制下で、周辺各国の興亡や中国内部の異民族が攻めてきたとかを書けばいいのかなと思った。
他の2問は解答見ても、「そういうことだったんだ…全然知らなかった…」となってしまった。
恥ずかしいことに知識レベルでも聞いたことないこともあった。
ただ社会なので選択科目だ。日本史はやっていないのでわからないが、地理も見てみる。世界史よりはマシだがやはり難しそうだ。
世界史は一問一答レベルの暗記でも骨が折れるうえに各国の縦の歴史の流れとともに横のつながりも意識しなくてはならない。
そのうえ「経済圏の広がり」とか「奴隷制という一つの制度を巡ってどのようなダイナミズムが世界で繰り広げられたか」といったテーマを設定して暗記した事柄をつなげて論述できなくてはならない。その背景や問題意識までも意識して勉強するのは高校生には難しすぎないか。

実際受験生がどの程度できているのか正確にはわからないが、他の受験生もどんぐりの背比べなのであれば、作戦としては共通テストだけしっかりやって、あとは埋められるところを本番埋めるというのもアリなのかもしれない。

一科目捨てる作戦で過去にあったのは、東大理一理二でなんと「数学を捨てる」という作戦だ。
京大理学部と並んで東大理一は理工系最難関だろう。そこで数学を捨てるとはどういうことか。
90年代の東大理系数学はかなりの難問揃いだった。理工系最難関だからこそその力を存分に試したいという出題だったのだろうが、少々やりすぎだった。
大学への数学では「ただただ受験生を痛めつける」「過ぎたるは及ばざるが如し」などと評された。
対策しようにも雲を掴むような状態になっていたと思われる。
理工系なのに数学はセンターしかやらずに二次試験の数学を捨てにいく受験生が実際一定数いたのだ。
当時東大は英語や理科が簡単で、ちゃんとやってちゃんと得点する算段が立てやすかったのもあるのかもしれない。
また英語、理科簡単、数学激ムズという傾向が「固定されていること」も一科目捨てる作戦成立には不可欠だ。
東大はこの作戦をさせないためだろうか各科目の難易度は90年代末からは年ごとにバラけるようになった印象がある。
あとは東大理系は国語の配点は低めで、全問記述のため「対策してもそんなに変わらない、無理」という人で国語を捨てる人はある程度今もいるだろう。

一橋の社会の難しさも固定されていればよいが、もうちょっと易しくなることもあったりして、二次試験対策が有効になることがあれば、いい感じに差がついてしまうため捨てる作戦は不可能となる。
一橋もおそらく旧商科大のプライドとして経済の骨のある内容をしっかり出して、志望してくる受験生を「もてなした」つもりだったのだろうが、気合いが入りすぎではなかろうか。

出題者側は、勉強する意欲を削ぐのは賢明とは言えない。そこは意識しておいてほしい。少なくとも「このような勉強が本物の中身ある勉強です」というメッセージを出題を通して出すべきだ。さもないと重要科目の勉強を放棄させることになる。

今このような作戦があり得るのは、単科医大などで他学部に気を遣わず難問を出しているところぐらいだろうか。しかし国公立医学部は上から下げてくる受験生が多いため難しくしても差はつきそうだ。数学全部を捨てるのは厳しく、せいぜい理論化学がどうしてもダメで捨てるというぐらいか。

科目数が多く、難易度が固定されていること、並みの上位受験生でもまず解けない、他の科目で相当稼げる、そんな条件が揃わないと一科目捨てる作戦は厳しいだろう。
読者のみなさんの中で、「ここは捨てれるよ」というのをご存知の方がいればコメントで教えてもらえるとありがたい。