見出し画像

海外で博士号を取った人達のその後

こんにちは。最近は地元宮城の田舎でもだんだん暖かくなってきて、日中はあの桃太郎の家来の一匹にも入っているキジがよく鳴いています。とても警戒心が強く、50mくらいまで近づくと地面を高速で走って逃げます(以外にも、キジは走るのがメインの鳥で、あまり高く飛んだりできません)。

さて、今回の記事では、私を含めて、海外に留学に行って、博士号を取得した後にどのようなキャリアを送っている人たちがいるのか、私が知っている範囲で書いていこうと思います。

前提として、理系の博士号を取るために留学した人たちに限定して書いていこうと思います。今回紹介するのは、以下の方々です。

私:ポスドク(アメリカ、国立研究所)→研究以外の専門職(日本、民間企業)
Aさん:ポスドク(アメリカ、大学)→助教(日本、大学)
Bさん:ポスドク(イスラエル、大学)→助教授(アメリカ、大学)→准教授(アメリカ、大学)
Cさん:研究職(日本、国立研究所)→研究職(日本、民間企業)
Dさん:ポスドク(イギリス、大学)→研究職(日本、国立研究所)→准教授(日本、大学)
Eさん:ポスドク(アメリカ、国立研究所)→研究職(日本、外資系企業)

私:ポスドク(アメリカ、国立研究所)→研究以外の専門職(日本、民間企業)

まずは私ですが、アメリカの国立研究所でポスドクをしました。たまたま私の博士課程の研究に近い分野でポスドクを募集していて、指導教官が私を推薦してくれたこともあり、採用されました。採用プロセスは、CVと呼ばれる履歴書+職務経歴書のような書類を提出する→面接に呼ばれる→45分のプレゼンと45分のQ&Aを行う→その日の午後に採用のメールが届く、という感じでした。日本みたいにSPIのようなテストを受けさせられることは無いです(アメリカではSPIのようなテストはなく、CV+面接が基本です)。お給料は、年俸制(ボーナスなし)で大体80,000USドルくらいでした。

その後は、法学と工学の中間領域にある専門職に転職して日本で働いています。

Aさん:ポスドク(アメリカ、大学)→助教(日本、大学)

Aさんは、私がイギリス留学中に同じ大学の英語のプレゼンのクラスで一緒で仲良くなった方です。専門は機械工学だったと思います。イギリスの大学で博士号取得後は、一時帰国して、日本学術振興会の海外特別研究員 (通称、「海外学振」)に採用されてから、アメリカの東海岸の大学でポスドクをしていました。2年のポスドク期間を経て、現在は日本の大学(旧帝国大学の一つ)で助教をしているようです。海外学振は、おそらく返済不要の奨学金のようなもので、ポスドクを行う国と地域にもよりますが、年500〜600万円くらいが生活費として支払われると思います。

Bさん:ポスドク(イスラエル、大学)→助教授(アメリカ、大学)→准教授(アメリカ、大学)

Bさんは、イギリスの大学の先輩で、私が留学した時にはすでにイスラエルでポスドクをされていました。Bさんは優秀でかつ雄弁(自分をアピールするのが上手い)なので、同じイギリスの大学に客員教授として来ていたイスラエルの先生に気に入られて、イスラエルでポスドクを2年したようです。その後、アメリカの助教授のポジションに応募して採用され、今では准教授まで昇進されています。グリーンカードも取得されて、このままアメリカで暮らしていかれるようです。

ちなみに、アメリカの大学で採用されるには、CVを送る→リモートで面接(30分くらい)→リモートでプレゼン(多分60分くらい)→現地に呼ばれて最終面接(なんと、まる1日かけてプレゼン+主要な教授陣全員と個別に面接+夕食会で雑談をこなすことで、総合的に判断されます)。成田祐輔さんも、同じプロセスで助教授に採用されているはずです。私は考えただけでめまいがします。

Cさん:研究職(日本、国立研究所)→研究職(日本、民間企業)

Cさんも、私が留学したイギリスの大学の先輩で、イギリスの博士課程で3年研究した後に、日本の国立研究所に研究員として採用されて帰国されました。その研究所は、アメリカの助教授ように5年で何か目立った成果(学会から賞をもらうなど)しないと終身雇用にならない研究所だったのですが、聞いた話によると、Cさんはその研究所の上司の方とソリが合わず、成果は上げていたものの、5年の任期後に民間企業の研究所に転職されたようです。民間企業だとお給料は上がったものの、利益に直接つながる研究しかできないため、自分のやりたい研究ができず少し窮屈な思いをされているようでした。企業の利益と自分の興味関心との折り合いをどのようにつけていくかで苦心されているようでした。

Dさん:ポスドク(イギリス、大学)→研究職(日本、国立研究所)→准教授(日本、大学)

Dさんは、イギリスの別の大学に留学して博士号を取得された方で、専門は私と同じ土木工学です。博士号取得後はそのまま同じ大学に残ってポスドクを1年された後に、Cさんと同じ日本の国立研究所に採用されました。Dさんは、イギリスの博士課程+ポスドクの研究でイギリスの学会がら賞をもらうほどの業績があった優秀な方だったので、日本の研究所で(確か)2年ほど過ごされた後に、日本の旧帝国大学の准教授に(助教を経ずに)直接採用されました。今では、40代半ば手前で若くして教授をされているようです。Dさんのように研究者としてのキャリアの初期に賞などを受賞していれば、その後のキャリア形成は難しく無いのかもしれません。

Eさん:ポスドク(アメリカ、国立研究所)→研究職(日本、外資系企業)

Eさんは、私が留学していたイギリスの大学の日本人会の会長をされていた方で、バイオが専門の女性研究者です。Eさんは留学時点ですでに結婚されていて、旦那さんは日本で仕事をされていたようです。博士号取得後は、アメリカの西海岸の研究所でポスドクを数年されて、その後コロナワクチンで有名な外資系製薬企業に研究職として採用されたようです。ちなみに、製薬業界は、あらゆる業界の中でも最も利益率の高い業界の一つなので、安定感もありお給料も良いと思います。

まとめ

以上、私の知り合いの海外博士号取得者のキャリアをまとめましたが、やはり最もメジャーなのは、王道ともいえる大学での研究職を得ることのようです。大学の研究職の良いところは、自由があるところだと思います。何をやって、何をやらないか、を全て自分の判断で行うことができます。自分が夢中になれることをやってお金が貰えるのは、とても幸せなことです。

また、日本でも海外でも、一度「テニュア」(tenure)という終身雇用の地位(通常は、准教授まで昇進するとテニュアになります)まで上り詰めれば、よほど公序良俗に反することをしない限り、クビになりません。

お給料も悪くありません。日本でも教授まで行けば1000万円はもらえますし、アメリカだとその3倍はもらえます。EU圏の大学だと、逆にお給料はあまりもらえません(名誉がある職なので、お金はなくても文句はないだろうという考えなのだと思います)。

大学の先生の次に多いのが、公的な研究機関や民間企業の研究職です。こちらは、大学ほど自由ではありません(結果の見える研究をやることが多いし、人間関係も大学より複雑です)が、お給料は大学と比べて高いことが多く、ワークライフバランスも取りやすい傾向にあると思います。私のイギリスの指導教官は、教授まで上り詰めても土曜日に学生とミーティングをするなど、超多忙でした(研究を「仕事」ではなく「趣味」だと思える人でないと、あの競争には勝てないのだと思います)。研究は好きだけど、研究に全てを捧げることはできない人には、研究所が合っているかもしれません。

最後に、最もマイナーな選択肢として、私のような研究以外の職に就く方もいます。2020年の初め頃は、経営コンサルが博士号取得者を積極採用していて(2024年時点ではどうか分かりません)、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループなどに就職された方も少なくないと思います。なぜ専門と関係のなさそうな経営コンサルが博士号取得者を狙っていたかというと、博士課程では専門性だけでなく、自分独自の問題設定(研究テーマ)を決めて、その問題を検証する方法を考えて、実行して、上手くいかなければ問題を再設定して、再度検証する、という問題解決のエッセンスを身に付けることができるからです。そのような力は、どのような分野でも通用するため、海外では博士号のことを単に Ph.D.(Doctor of Philosophy)と呼んで専門で区別しません(医学や法学のDoctor of MedicineやJuris Doctorは専門職の学位であって、博士号ではありません)。

ここで紹介したのは私の知っている範囲の方々(かなり成功されている方々?)の話なので、バイアスがかかっていることは間違いないですが、少なくとも、手に職を付ける意味でも、他者から差別化する意味でも、海外で博士号を取るという道は選択肢の一つとして悪くないと思います。

とは言っても、海外留学にはお金がかかるもので、それが最大のネックの一つだと思うので、次回の記事では海外留学資金のゲットの仕方について書いていければと思います。

今回はここまでです。お読みいただき、どうもありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?