見出し画像

2020.12.29

3年前に突然、飛蚊症の症状に襲われた。目の前を虫が舞い、視線を逸らすとその逸らした先に虫は追ってくる。ヤクなんてやった覚えはないのに何故に幻覚などみるのか、と慌てて眼科に行って初めて「飛蚊症」という存在を知った。加齢や老化現象による眼球の病気で、治療方法はなく、その目の前の虫さんに馴れるしかないらしい。

言われた通り数日後、虫さんは目の前から消えていた。馴れたのか、あるいは症状自体が失くなったかは分からない。

普段は能天気でテゲテゲな僕だが、昔から「目」だけは異常に敏感だった。「先端恐怖症」というんだろうか、尖った物の先や突き出された指先を見ることができない。フロントガラスの目の前に小さなごみやシミが付いてるだけで、気になって運転どころではなくなってしまう。

3日前、その消えていた虫さんが突然また目の前に現れた。飛蚊症が再発したのだ。今度の虫さんは複数ではなく、ひとつの大きな輪になって視線の先をクネクネと追ってくる。目を閉じてもしばらくはその残像が残っている。今回はかなりしつこい虫さんだ。
 

夕方、同窓のHが久しぶりに乗車した。そして同じく同窓の友が26日に亡くなったことを聞かされた。心筋梗塞による突然死だったそうだ。人間というのは不思議なもので、一度しか会ったことのない唄者の死を聞いた時には瞬間に悲しみが溢れたのに、高校時代を一緒に過ごした友の死を突然聞かされても、その瞬間も、そして今でも、まるで悲しみの感情はわいてこない。

Hも同じようなことを言っていた。友の死顔を目の当たりにしても全然実感がわかなかったそうだ。亡くなったその友と仲が良かった彼は、今だに友の死が受け入れられずにいるのだろう。

この2年の間で4人の同窓が逝ってしまった。いったいいくつの死をこれから見なければならないのだろうか。

と、ぼんやり考えながら運転していて、ふと気がついた。目の前から虫さんがきれいさっぱり消えていたのだ。いくら探しても視線を逸らしても虫さんは見つからない。たぶん、悲しみの感情は全部「目」に集約されて、亡くなった友が虫さんを退治してくれたのだろう。ありがとう友よ。

思えば飛蚊症が突然再発したのは3日前。友が逝った26日だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?