『VIVANT』最終回〜別班と公安の思惑(創作)
なぜ、憂助に撃たれたベキ、バトラカ、ピヨの3人の遺体を上原内閣官房副長官の家を火事にしてまで煤同然で発見させる必要があったのか。
なぜ、憂助はノコルに「皇天親無く 惟徳を是輔く。花を手向けるのは まだ先にするよ」と言ったのか。
満足度ナンバーワンのドラマ『VIVANT』の最終回で気になったシーンの間には、実はこんなやりとりがあったのではないだろうか。これは、そんなインスピレーションを受けて書いた創作です。
引用部分はドラマのセリフで、丸々創作した箇所は目次に【創作】を付けてあります。
〇内閣官房副長官 上原邸
不敵な笑みを浮かべたベキが上原副長官に銃を突きつけると、憂助は反射的にベキ、バトラカ、ピヨの3人を一瞬で撃ち倒していた。すぐに我に返った憂助が、苦悶の表情で倒れ込むベキに駆け寄る。
目を閉じた父を抱きしめる憂助を、上原副長官は声もなく見つめるだけだった。
〇内閣官房副長官 上原邸…別班の思惑【創作】
父を抱きしめ続ける憂助の脳内に、突然あの声が響いた。
F「<そろそろ司令に連絡したほうがいいんじゃないの? 憂助。もうじき公安がやってくるぞ>」
慌てて父から離れ上原副長官に聞こえない場所まで移動すると、憂助は司令に電話をかけた。
憂助「ベキ、バトラカ、ピヨの3人を制圧。上原副長官はご無事です」
櫻井「ということは3人は生きてるのね?」
憂助「殺すには惜しい人材です。テントとして活動していた時の情報も 国防にとって極めて有益でしょう」
櫻井「では、ブルーウォーカーこと太田梨歩と同様、協力者として引き込みましょう」
憂助「ただ、殺されたとなるとテントの解体に納得しないモニターの敵対的な行動を招く恐れもありますので、自害したことにできないかと」
櫻井「わかりました。まもなく公安が到着するでしょうから その方向で調整してください。対処に必要なものは至急手配します」
電話を切ると間もなく、野崎ら警視庁公安部・外事第4課が到着した。
〇警視庁公安部…公安の思惑【創作】
憂助が上原邸に向かう前、警視庁公安部ではベキ、バトラカ、ピヨの3人が逃亡したうえ、その手助けをしたのが新庄で、しかもテントのモニターであることも発覚し混乱が続いていた。そこにベキの復讐相手が判明したと憂助から連絡が入り、佐野部長と野崎ら外事第4課が上原邸へと急行していた。
佐野「まさか 元公安部外事課 課長の上原史郎が復讐相手とはな…」
野崎「…何か?」
佐野「自分のキャリアのためなら非道なことも厭わないという噂どおりだったということだ。そんな人間が今の地位まで昇り詰めたんだ、他にも表沙汰にできないことがあるだろう。できれば弱みを握っておきたいと思ってね。内閣官房副長官という立場のうえ我々の先輩だ。余計な干渉を避ける材料は あるに越したことはない」
野崎「部長も なかなかのワルですね」
佐野「裏の諜報部隊の別班が着実に任務を遂行している一方で、我々表の諜報部隊の公安はここにきて失態続きなんだ。組織防衛も考えざるを得ないだろう。それにしても、まさか新庄がモニターだったとはなぁ、そんな兆候あったか?」
野崎「いえ、全く気づきませんでした。モニターの山本を失尾したのが新庄にしては珍しいと思ったのですが、今にして思えば仲間を逃すためだったんですね。してやられました」
〇内閣官房副長官 上原邸…別班と公安の共闘【創作】
上原邸に到着すると、状況把握のため単独で乗り込んだ野崎が憂助を見つける。
野崎「上原副長官は無事か?」
憂助「はい。3人は私が倒しました」
意味ありげな憂助の表情に気づいた野崎が、上原副長官と家族に話しかける。
野崎「公安です。これから後始末に取り掛かりますので 別室で休んでいてください」
上原副長官と家族が別室に移動するのを見届けると野崎が切り出した。
野崎「生きてるな?」
憂助「はい」
野崎「全員 急所を外すとは 相変わらず神業だな。で どうするつもりだ」
憂助「ベキをはじめ この3人は極めて優秀です。生かして協力を求めるのが得策かと」
野崎「表向きは死んだことにするわけか」
憂助「ええ。ですが 殺されたとなるとテントの解体に納得しないモニターがどういう行動に出るか予測できないので 自害したことにできないかと」
野崎「なるほど…じゃあ ここ 燃やすか?」
憂助「…は?」
野崎「3人は焼身自殺し上原副長官の家は全焼。そうすれば大きなニュースになって確実に知れ渡るし、モニターの連中も少しは溜飲が下がるんじゃないか?」
憂助「いや それにしても家を燃やすって 副長官が納得しますか?」
野崎「これも国防のためと説得するさ。それにテロリストが3人も死んだ家に住み続けたいとは家族も思わないだろ」
佐野部長の意図を汲んだ野崎には火事にすることに別の目的があったが、この時の憂助は気づいていなかった。
〇内閣官房副長官 上原邸近く(夜)
後始末が終わると、父の最後を伝えるため憂助がノコルに電話をかけた。
消防車のサイレンと警鐘が鳴り響く中、暗闇の中で真っ赤に燃えさかる上原邸を遠くから一瞥すると、表情を引き締め憂助は立ち去った。
〇ホテル ニューオータニ(朝)
状況を報告するため、上原内閣官房副長官と家族が滞在しているホテルの一室を野崎が訪れていた。
〇ホテル ニューオータニ(朝)【創作】
報告を終え部屋を出た野崎は、不敵な笑みを浮かべながら歩き出した。
野崎「暴走したのは あなたでしょう、上原副長官。今回、骨董品や絵画などを運び出したことで資産の実態を把握できた。おそらく表向きは存在しないものもあるでしょう。あなたが暴走した時の材料にさせて頂きますよ」
こうして、別班は上原副長官が元公安部外事課 課長時代に独断で指示したバルカの潜入任務の失敗を揉み消した証拠を掴み、公安は上原副長官の資産の実態を把握した。やがて上原副長官を中心にした日本の中枢を揺るがす別班と公安の攻防戦へと発展することになるとは、この時は誰も予想していなかった。
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