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『プリズム』参加者レポート(15)

レポート作成者:匿名

とても楽しいワークショップでした!とにかくとにかく、人のことを好きになれる空間だったなと思います。

事前にTwitterで「どうやら漫才をさせられるらしいぞ、」という情報を手に入れていて、はじめかなりどきどきしていたのですが、まずこれがめちゃくちゃおもしろかったです。
簡単な自己紹介をしたあとに、事前の打ち合わせなく初対面の人と二人で漫才をする、というもので、私は漫才を人生ではじめてやったのですが、自分の言うことに絶対に反応してくれる人が隣にいるという状態ってこんなにうれしいのか、と思いました。普段は喋ることに対して少し苦手意識をもっていても、みんなの前に漫才の形式でたつと自然と話すことが出てきておもしろかったです。
漫才といいつつも、「笑わせようとしなくていい」と事前に長谷川さんがおっしゃっていて、変に緊張せずにすんだこともとても有難かったですし、それでもすべての組に笑いが起こっていて、それも気を使った笑いとかではなく、見ていてどの組も人も本当におもしろくて、人というのはその人ということだけでおもしろいものなんだな、ということを知れた時間だったように思います。自分の話をするのがめちゃくちゃうまい人もいれば、相方のおもしろさをすごく引き出せる人もいて、それぞれの人の魅力が、たぶんその人自身が意識していない部分の魅力までこちらが読み取った気になれる時間でした。
初対面の人が何十人といる空間でしたが、その漫才の時間で全員のことがもれなく好きになって、それが本当にうれしかったです。

そしてその後に、エンニュイの過去公演の台本を演じてみる、という時間に移ったのですが、その脚本がものすごく面白かったです。
これは私の偏見ですが、よくある演技ワークショップの台本って役者に力をつけさせるためか、解釈の幅がめちゃくちゃ広い台本が用意されて、脚本がおもしろいかどうかではなく、役者が脚本をどう面白くできるか、ということを主題にしているものが多いんじゃないか、という気がしています。
対して、長谷川さんの用意してくださった脚本は、まず、ワークショップでやるひとシーンにしては長い。15頁ありました。でも、なんかまず脚本のことがすごく信用できたなという感覚があります。
しっかりとしたテーマと着地点のある脚本ではあったのですが、脚本の性質として、シーンの「目的」みたいなものが登場人物の外にあって、登場人物たちはただ、それぞれの喋りたいことを喋るだけで、それだけでテーマが勝手に発生してくれる脚本だなと私は感じて、そういう、人前でやる以上必要な責任みたいなものを、観客とか脚本の流れが負ってくれているのを感じました。
このワークショップ全体を通して感じたのが、そういう、自分以外に責任が分散してくれているという感覚で、長谷川さん自身がまずわたしたちがすることに対して「正解とかはないからね」という態度をずっととってくださっていたし、漫才では一緒にお客さんの前に立ってくれる相方がいるし、自分がやったことをきちんと聞いて見てくれる他の参加者の方々がいて、「ちゃんとやらなくちゃ」とか「おもしろいことやらなくちゃ」というような怖いタイプの緊張感がだいぶ薄かったことがかなり良かったなと思っています。
もちろんやる上で何かをしなくちゃいけないので緊張はするのですが、「まあおもしろくなるやろ」といういい意味での責任放棄をしているくらいが一番自由だし、おもしろい発想が生まれやすいし、見ている側も安心しておもしろがれるのではないかなと思いました。

自分が演じる登場人物に対する信頼もつくりやすかったです。脚本は当日にいただいたので、演じる前に一度か二度ほどしか読めないのですが、どの登場人物もそれぞれ日常で思っているささいだけど切実なこと、についてしゃべっていて、その主張がまた面白い。世界の2割くらいの人が共感してくれそうな主張で、なんとなく分かるなあ、というものもあれば、全然何をいっているのか分からない、というものもありました。
最終的に台本をはずして演技をしなければならなかったのですが、台詞の丸覚えはできないので、その主張自体をちゃんと理解しなくちゃいけないし、アドリブ的に他の役者から主張を掘り下げる質問が飛んできたりもするので、脚本にない解釈を加えたりしなくちゃいけない。でも、他の参加者の方が演技しているのを見る中で思ったのは、自分の主張を精いっぱい説明しようとしている瞬間が、どの人もとてもおもしろく感じられるなあ、ということでした。
人に理解されないかもしれないけど自分が切実に感じていることをどうにか人に伝えようとする人は、見ていて本当に飽きないんですね。その人がしゃべっていることは登場人物の主張であって役者自身の主張ではないはずなのですが、とても切実でずっと聞いていられました。
シーン全体の目的とか、自分の役の役割とか見栄えとか考えず目の前のやりたいことに向かうことが、役者がその登場人物として存在するためにとても必要なことなんだよな、ということを確認できたような気がします。

今回の演技のひとつの目標として、「その人自身と役の間を目指す」ということを言われました。それは、自分自身のおもしろさも、役のおもしろさもどっちも信頼するということなのかなという気がしました。印象的だったのが、本読みと本読みの間の話し合いの時間に、「謝るのはなしで」というきまりです。自分や、一緒にやっているひとに対する不安感がうまれそうでも、いったんないことにしたほうが絶対にそのあとうまくいきやすいよなと思いました。
といいつつ、私自身はいろいろと反省してしまった部分があって、今後の課題だなとおもったのですがとにかく、すべては安心と信頼で、お客さんと、脚本と、登場人物と、共演者と、自分への安心と信頼があれば、どんな人でも魅力的に存在できるのではないだろうか…!

今回のワークショップでやった内容は、演劇をつくっていく上ではあくまではじまりであると思います。作りこまれたもののおもしろさもあるし、テーマを意識して演じなくちゃいけない瞬間もあるし、数回読んだだけでは気づけない登場人物の魅力に気づいていく作業もこの先にあると思います。でも、どんなに作品作りや稽古や役作りが行きづまって辛くなっても、今回のワークショップにあった楽しさは忘れず保ち続けたいと強く思いました。

とてもうれしい瞬間がたくさんあるワークショップでした。参加して本当に良かったです。ありがとうございました!

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