債権法改正と宅建業法

今年の4月に、いわゆる債権法改正がおこなわれた民法が施行されました。
それと同時に、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」で様々な法律が改正されました。

そのうちの一つに、宅地建物取引業法(いわゆる「宅建業法」)があります。
宅建業法第40条には、瑕疵担保責任に関する特則が定められています。

【改正前の第40条第1項】
宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第570条において準用する同法第566条第3項に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

【改正後の第40条第1項】
宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

債権法改正の内容をご存知の方なら、債権法改正によって「瑕疵」の呼び方が「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合」に変わったことに伴う改正だとお分かりになるかと思います。
そして、注意深くご覧になった方は、「数量に関して契約の内容に適合しない場合」が宅建業法第40条第1項の特則の対象外だとお気づきになったと思います。

私が初見で気付けたのはここまででした。
しかし、宅建業法では改正されていない部分なので気付きにくいですが、民法の条文を見返すと、最後の「同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない」という部分の「同条」(=民法第566条)の内容が変わっています。

【改正前の民法第566条】
第1項
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
第2項
前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
第3項
前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。

【改正後の民法第566条】
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

民法第566条の内容が、改正前は損害賠償請求や解除ができるという内容や(第1項)、除斥期間(第2項)でしたが、改正後は期間の制限に関する規定だけになっているのです。

改正前の宅建業法第40条は、瑕疵担保責任の期間制限だけではなく、解除権の制限や損害賠償請求権の制限も禁止する、瑕疵担保責任全体の特則でした。
しかし、改正後の宅建業法第40条は、どうしても期間制限の特則にしか読めないと思います。

そうはいっても、債権法改正に乗じてこのような消費者に不利な改正をするとも思えません。
実際、債権法改正によって宅建業法は実質的には変わらないという意見が見受けられます。
しかし、そのような解釈は文理上不可能ではないでしょうか?

今後の実務の動向に注目したいと思います。

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