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年明けのおかまバー「しろうさぎ」by御美子

カランコロン

「オオクニ※ちゃん、いらっしゃい。やっと顔見せてくれたのね。年明け早々、日本列島大変だものね」
「そうなんですよ、ママ。『神も仏もない』なんて言われて。どうしたらいいものやら」
「神様たちも、苦労が絶えないわね」
「ふむふむ。『神も仏もない』と言われたとな」
「えっと、どちら様ですか?」
「あら、ごめんなさい。先客がいるの忘れてたわ。こちらはアレちゃんよ」
「えっ? もしかして、古事記の編纂に関わったという…」
「そう。古事記の内容を全部暗記してた稗田阿礼(ひえだのあれ)ちゃん。オオクニちゃん、会うの初めて?」
「はい、私たちの話が人々の間で伝承されるようになったあとにお生まれになった方なので。お噂は伺ってたのですが、こんな所で会えるなんて」
「あたしが言うのも変だけど、『しろうさぎ』って何でもありのバーなの」
「『しろうさぎ』は何でもありのバーとな」
「もう、阿礼ちゃんたら、何でも暗記しようとするんだから」
「すまぬ。昔からの癖なのだ」
「で、暗記力抜群の稗田阿礼さんが、何故ここにいらしたんですか?」
「この世とあの世を繋ぐ『しろうさぎ』の噂を聞き、神社情報を上書きしようと思ってな」
「オオクニちゃんが来る前に『推し神社』の話で盛り上がってたのよ」
「え? 『推し神社』って何ですか?」
「一言で言えば、推し活にご利益のある神社ね。推しに会えるとか、いいチケットが取れるとか」
「皆中稲荷神社、東京大神宮、三輪神社、車折(くるまざき)神社、藤森神社、厳島神社、北海道神宮、中でも大勢の芸能関係者が参る車折神社では『推しmamori』を授けてもらえるとか」
「一回で覚えちゃったの? さすがだわ、アレちゃん。スマホ検索して読み上げただけなのに」
「凄いですね、稗田阿礼さん。ところで、うちのスセリが、どうしてあんなに嫉妬深くなったか覚えてませんか。全く思い当たらなくて」
「そんなこともご存知ないのか? 須勢理毘売命(すせりびめ)の嫉妬深さは父親の須佐之男命(すさのおのみこと)譲りに決まってるではないか。姉の天照大神(あまてらすおおみかみ)の仕事を嫉んで、海を治める仕事を放りだしたくらいのお方だ」
「確かに、あの気性じゃ仕方がないか。でも、優しかったスセリが、私に辛く当たるのは何故ですか?」
「それは、蛙化現象だな。先ほどママさんから教えてもらったばかりだ」
「あら、その言葉も使いこなせるようになってたの?」
「蛙化現象って何ですか?」
「以前は好意を抱いていた相手に嫌悪感を感じることとな」
「そんな。私は何も悪いことはしていないのに」
「オオクニちゃん、忘れちゃったの? 八上比売(やがみひめ)や、他の女とのことがあったじゃない」
「その通り。他の女性との間には180人も子供がいるのに。須勢理毘売命との間には子供がないのだから。それだけでも十分な理由になる」
「そんなこと言われても、できなかったものは、しょうがないじゃありませんか」
「あんたたち出雲大社で二人くっついて鎮座してるんだから、仲良くしなくちゃ」
「その通り。須勢理毘売命には、縁結び・夫婦和合・家内安全・厄除けのご利益があるんですぞ」
「お二人からそう言われては従うしかありませんね。スセリに浮気を疑われるので、そろそろ出雲大社に戻ります」
「オオクニちゃん、ファイト! この一年も頑張るのよ」
「私もそろそろ失礼する」
「あら、阿礼ちゃんは、もう少しゆっくりしてけば?」
「神社情報をアップデートする必要が生じたら、また寄らせていただく」
「そうね。暗記力勝負の受験シーズンは稼ぎ時だもんね。じゃ、また寄ってちょうだい」

カランコロン

注)オオクニ=(おおくにぬしのみこと)

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