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球団ヒストリー14.目に見えぬ功績

「お前ら、すごいな」

のちに2代目キャプテンを任されることになる磯辺一樹さんは、企業チームとの試合のあとチームメンバーにそう呟いた。

九州三菱自動車でプレーしていた磯辺さんは、たとえば三菱重工長崎やHonda熊本といった企業チームを前にすると緊張で普段通りの動きができないようなこともあった。
でもチームメイトたちは、いつものようにのびのびとプレーしている。歯が立たないとはいえ、名前にビビらないことを心底「すごい」と感じたそうだ。

ただそれは『社会人野球という世界』の厳しさを知らないということでもあった。

以前にも書いたけれど
試合当日に時間ギリギリ、ひどいときは遅刻して球場に現れたり、
車から降りてくるのにスリッパ履きだったりと
野球に対する姿勢が「草野球っぽい」と感じられてしまう選手がいたのは事実。
チーム内で、野球に対する姿勢に温度差があった。
それが「企業チーム相手でものびのびと試合ができる」といい面に出ることもあったわけだけれども。


遠征先のホテルで、飲み会の席で。
その伸びやかさを純粋に褒めつつも、磯辺さんは社会人野球という世界のことをコツコツとチームメイトに伝えていった。

ある遠征先でのこと。
勝ち進むと数日にわたるホテル暮らし。その間企業チームの選手たちは、朝食後に散歩をしていた。試合に向けて少しずつ、体を温め士気を高めているのだろう。チームのコミュニケーションを図る意味もあるのかもしれない。
その時間、ホワイトウェーブの選手たちはおのおの部屋でくつろいでいる。それが悪いわけではないが、このときみんなで散歩に出られたなら、チームの雰囲気は変わるかも…そう考えた磯辺さんはコツコツと声をかけ続けた。ともに散歩に出るメンバーは、一人、また一人と遠征ごとに増えていった。
宿泊先のコインランドリーで夜な夜なスパイクを磨いていることもあった。

いずれも本当に小さなこと。でもそれは『社会人野球』というものに対峙する姿勢を見せる意味もあったし、確実にメンバー同士のつながりを強めていった。
そしてそういうのって、目には見えないけれどもプレーしているときの信頼度だったり安心感だったりに出るんだと思うのです。観戦している私たちには、「なんかイイ♪」という“感じ”しか分からないんだろうけど。


いつも練習一番乗りですでにランニングを始めているキャプテン宮田さん、練習にはあまり参加できなくても自主練を欠かさずいざ試合となるとしっかりマウンドを守るエース竹山さん。この二人の背中は、近いようで実は遠いところにある。磯辺さんはそれに気づいてほしかったのだろう。
そしてその先には、自分たちクラブチームに負けることは恥!とまで感じ日々の練習を当たり前のこととしている企業チームとの大きな壁があることを知って欲しかったのだろう。

知らないだけで、もともとは野球に対する真摯な想いのあるチームメイトたち。磯辺さんの行動は、彼らに対する信頼の証でもあった。


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