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キャリア形成に有利な研究室の選び方(化学系の場合)

研究室選びは人生最大のインパクトがある

私は幸運なことにアラフォーまでなんとか研究者として給料をもらって生活している。これまでの人生を振り返ると、最もインパクトがあった選択肢は、研究室選びだったと思っている。どの大学のどの学部に行くかもかなり大事ではあるが、研究室の方が最終的なインパクトは大きいと思う。

逆に希望大学に行けなかった人は研究室選びでなんとでもなるので安心してほしい。良い研究室がない場合や大学名が気になる場合は他大学の大学院を受ければ良い。学歴ロンダリングと揶揄されることもあるが、向上心は素敵なことだ。外野の声など気にせず、自信を持ってほしい。

ここでは、これから研究室を選ぶことになる学生に向けて、キャリア形成に有利な研究室の選び方を伝授したい。研究者としてキャリアを始めたい学部3年生を対象としている。

おそらく教科書を斜めに読んで、なんとかテストを切り抜け、単位を取ってきた人も多いだろう。研究室の選択が成績順だったりすることもあるので、その時は運に任せるか、修士で研究室を変えよう。修士で研究室を変えるのは大変ではあるが、気に入らない研究室で過ごし続けるよりはよほどマシである。

また、研究に見切りをつけての文系就職を目指すことになった場合でも戦略は有効ではあるが、コスパは悪いかもしれない。学生生活を満喫することを選択する場合は、以下の選択法は参考にせず、最もコスパ良く卒業できる研究室を選ぶこと。旧帝大であったとしても、ほとんど学校に行かず、ペラペラの修論で修士が取れる研究室が間違いなくある。そして、最終的に研究を志さなくても全く問題ない。4年間なんとなくでも理系の生活を送っただけで間違いなく、あなたの人生の武器になる。研究室に所属した経験のある中学教師とか銀行員とか公務員とか素敵じゃないか。

研究者のキャリア形成とは

ちなみに私は学部&修士の研究室と博士の研究室の2箇所を経験している。研究室を選ぶ際に、研究分野の興味関心だけでなく、キャリア的なことも考えていた抜け目のない学生であった。その戦略は結果的にうまくいったと思っている。これから研究室を選ぶ学生の皆さんに参考になるのではと思い、まとめてみようと思った次第である。ちなみに私は化学系の専攻で、専門分野は有機化学やケミカルバイオロジーである。ただし、他の分野の方も参考にできるのではないかと思っている。

研究者のキャリア形成とは、例えばアカデミアでのポスドクや助教のポスト獲得だったり、修士や博士新卒としての企業への就職だったりする。もちろん、最近だと博士取得後に自身の研究成果を元にベンチャーを立ち上げる強者も出てきている。

もちろん研究者のキャリアはその後も続く。はじめの一歩をうまく進める手助けになれば本望である。

研究者のキャリア形成に有利な研究室とは

研究生活すら想像できていない学部3年生にとって、キャリア形成に有利な研究室選びと言ってもピンとこないだろう。誤解を恐れずに端的にいうと、キャリア形成に有利な研究室とは、業績を出しやすい研究室である。研究室における業績というのは、学会発表、論文発表、特許出願等の対外発表を指す。これらの業績は職務経歴書(履歴書の仕事版のようなもの)にも記載できる、個人の実績となる。

この業績を獲得するには、もちろん個人の資質や努力に依るところも大きい。それでも、研究室選びを失敗すると努力が報われず、散々な目に遭うことも多い。私の友人でも研究生活に疲れ、精神的に病んでしまった者も少なからずいる。

まずは研究分野選びから

化学系の場合、ざっくり物理化学、理論化学、無機化学、有機化学、高分子化学くらいの研究室に分けられるだろうか。ちなみに日本における化学分野の企業への就職は比較的簡単な状況なので、どの分野でもそれなりの企業は選択肢となり得る。

ただし、研究者としてのキャリアを考える際は、最低限自分が興味関心が持てる研究内容を選ぶことは必要だ。なぜなら研究というのはほとんどが失敗に終わり、長時間労働(とは思ってなくても)が求められるなかなか辛い活動である。なので、最低限自分が興味関心がある分野を選ぶ。そうは言っても学部生にとっては最先端の化学研究はわからないことだらけで、HPを見たとしても判断するのは難しいだろう。その場合は、これまでに受けた授業や実験で興味が持てたものを担当した教員が所属する研究室を検討するのが良い。わからないものはつまらないので、興味が持てたということはある程度向いている可能性も高いのだ。

キャリア形成に有利な研究室とはズバリ立ち上げ直後の研究室である

賛否両論かもしれないが、立ち上げ直後の研究室を選ぶのが最もハイリターンだと確信している。特に教授の退官後に新しい教授が赴任してきたのではなく、文字通り空っぽの場所にできる研究室がおすすめだ。理由を述べていく。

先輩や同期の学生が少ない

学生の人数は研究室を選ぶ際によく話題に出る。先輩が多いから、実験を色々教えてもらえたり、就職活動のサポートをしてもらえると言ったものだ。ただ、これは検討はずれなことが多いと思っている。博士の先輩といえど、数年実験しているに過ぎないことが多い。もちろんそのテーマについての知識や実験技術は学部生や修士とは比べ物にはならないと思う。それでも、可能ならポスドクや助教といったスタッフレベルに指導してもらえる環境をとりに行くべきだ。

そういう観点から考えると、立ち上げ直後の研究室では学生に対するスタッフ・の比率が高いため、直接指導してもらえる時間が多くなる。私も研究を始めた時には助教にほぼマンツーマンで指導してもらった。実験手技ももちろん役に立つが、研究の進め方を叩き込まれるのが最も役に立った。

また、学生が少ないと学会参加に行くチャンスが増える。ある程度の結果が出ると学会発表という業績を出せるチャンスが来るのだ。コロナの今でこそオンライン学会が多いが、本来学会は地方や海外に出張するご褒美の側面もある。特に海外での発表は旅費が高くなるため大人数では行きにくいし、学生が多いと公平性の観点から誰か1人だけ行かすのも難しい。その点、学生が少ないと行っておいで!となりやすい。実際私も学部時代にイギリスの学会に参加した。人生はじめての飛行機が学会発表であった。

デメリットととしては、同年代の話し相手が少ないこと、企業への就活の情報が得にくいこと、はじめての学生だと研究生活のスタイルを確立しにくいことが挙げられる。対処法としては、他研究室の同期とプライベートで飲みに行ったりすることをお勧めする。

これらデメリットを差し引いてもメリットが上回ると思う。学部生の配属が少なく、同期が少ない、ポスドクや助教が多い研究所等の協力講座が特におすすめである。

優秀かつ勢いのある若手PIである

昨今のアカデミックポジションの競争は凄まじい。地方大学の助教の倍率が100倍とかになることも珍しくない。教授に至っては助教や准教授のポストを勝ち抜いた研究者の競争である訳だから、ポストの獲得難易度は想像を絶する。日本の科学技術の凋落がメディアで騒がれているが、今のところ、化学分野の若手PI(研究室主催者、主に教授)のレベルは十分世界と戦えると思う。もちろん、PIとして成功するかは未知数であるが、勢いがあり現役バリバリの研究者の研究室で研鑽を積む経験は魅力的である。

勝負テーマにありつける可能性

立ち上げ直後のPIにとって、学生は貴重な戦力である。そして、研究室の運営を軌道に乗せるためにも、まずは最も優先順位の高い有力研究テーマを与えることになる。考えてみてほしい、各学年5人ずつ研究テーマを与えるとすると15人いたら15テーマである。本当に15個もオリジナリティ溢れる勝負テーマだろうか?もちろんやってみると化けるテーマも多くあると思うが、やっぱり本当にやりたい勝負研究テーマは最初の2,3個なのではないだろうか。こういうテーマを担当するとPI自らが積極的に関与してくれ、結果として業績につながりやすい。

研究室の設備が最新

新しくできた研究室は文字通りピカピカだ。研究機器は5-10年すると不具合が出たり、最新のものに比べで性能や操作性で劣ることがある。最新のものを使えるだけで効率よく結果を出せることに繋がる。例えば昔ながらのNMRで手動でシム調整とかしてる場合ではないし、手でカラムしてる場合ではない。教育的に良くないとかの意見もあるだろうが、使えるものは使って最速で結果をだすのが正しいに決まっている。

潤沢な研究費

ここからはどちらかと言うと確認しとくべきポイントである。まずは研究費だ。優れたPIの能力とは研究費を取ってくる能力に他ならない。日本の研究や科研費の獲得実績を確認しよう。基盤Aとか基盤Sとか特別推進とかERAROとか新学術とか色々あるが、年間数千万円の予算が有れば最高だ。くれぐれも研究費がなくて、市販の化合物を数ヶ月かけて自分で作るような研究室は辞めておこう。あなたのすべきことは、前人未到の研究なのだ。研究室のコスト削減なんか誰も評価しない。

論文実績

上でも述べたように近年PIになるためには相応の業績が必須なのであまり心配はいらないかもしれないが、どんな論文を出しているか見ておこう。化学系ならJournal of the Chemical Society (略してJACSジャックス)やAngewandte Chemie International Edition (通称アンゲヴァンテ)が一流とされており、毎年採択されているかが目安だ。さらに、Nature ChemistryやNature communications等のNature姉妹誌、Science 
Advanceといった論文が有れば超一流である。NatureやScienceがあった場合はスーパー研究者である。

また、これまでの論文で第一著者が学生であるか、スタッフであるかも確認できると良い。できるなら第一著者で出せる文化のある研究室の方が良いと思う。

学術振興会特別研究員の実績

学術振興会特別研究員とは、博士課程の学生が研究計画をつくって応募して、採用されると月額20万円の給与と100万円程度の研究費がもらえる仕組みである。倍率は20%程度である意味ステータスとなっており、キャリア形成を考えた時に実績の一つとしてアピールできるものだ。

さらに研究費ももらえるので、原理的にはすきな研究資材を買ったり、海外学会に参加できる。研究室によっては研究室に没収されるところもあるそうだが。。

これまでに採用者が複数名いる研究室では、教授の名前がその分野で通っている、魅力的な研究テーマが多い、申請書の指導体制がでかていることの証拠となるのでおすすめである。

教授の人柄

ここにきて意外かもしれないが、教授の人柄も最重要ポイントである。かなり減ってはきている印象だが、研究能力は高くても人間としての社会性が欠落している教授も少なからず存在している。面倒見が悪かったり、人間関係がうまく構築できないと、不幸になる。出来るだけ話をしにいって確認しよう。

以上の点を踏まえて研究室を選んでみてほしい。書き殴ってしまったので質問が有れば是非コメント頂きたい。修正したいと思う。

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