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王道にして最高のクロスオーバー作品──『やる夫は騎士として生きるようです』(ネタバレ無)

仕えた主君のために、命を懸けて戦う者は?
御伽話の中でお姫様に仕え、守る者は?

多くの人は質問に、あるいは問題の正解として「騎士」と答えるだろう。
仮に違う答えを出しても、最初から騎士と明示されていれば納得するだろう。
けれど実際のところ、そういった「騎士らしい」ことをしないまま終わる・・・
そんな騎士は世の中にはたくさんいる 。

この物語の主人公も、そんな風に考えている。
自分もそんな伝説のような騎士ではなくただありふれた騎士の一人だと・・・
だが・・・人生というものはどう転ぶかわからない。
この物語の主人公、ニューソクデ・やる夫の人生も・・・





「やる夫は騎士として生きるようです」は11年前にしたらばのやる夫板IIにて投稿された、◆GLSPdb.jQ2氏によるファンタジー系長編スレである。

これは所謂やる夫スレと云われるもので、掲示板サイトで扱われるキャラクターのやる夫・やらない夫御三家(ローゼンメイデン、涼宮ハルヒの憂鬱、らき☆すた)等版権キャラを中心に、アスキーアートとセリフで雑談したり小説を書いたりするものだ。

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上…常識的な一般人のやらない夫
下…クズでニートのやる夫


自分で言うのも何だが、「今更?」と思う。

やる夫スレを見ていたのは確か6-7年前でそれっきり止めていて、それから何故唐突にやる夫スレを見始めたのか。


ぶっちゃけ理由は単純で、有無を言わさず始まるカオスなクロスオーバーが見たくなったからである。

本作品のあらすじをやる夫Wikiより引用すると、

やる夫は国に仕え、その命を国に捧げる存在「騎士」である。

だが、彼はある時期からやる気を失い、職務に対しても覇気が無く、同僚であり友人でもあるやらない夫から叱咤激励されながら怠惰な日々を過ごしていた。

そんな折、やる夫の国を訪れていた隣国の姫君・翠星石の帰途護衛任務が、やる夫・やらない夫の2名に下される。二人は驚き戸惑いつつも承知し、姫君一行と隣国へと旅立つ。

「いやいや待て翠星石って誰だよ!?」と突っ込む暇を与えてくれない程自然な流れで別作品のキャラクターが登場するのだ。主人公のやる夫・やらない夫がキャラクターの登場自体に疑問を持つことは無いので、「ローゼンメイデンに登場する翠星石」ではなく、「隣国の美しい姫君」として認識して接する。

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それ以外にも(人によるが)全く知らない、若しくは名前と見た目しか知らないキャラクターはどんどん出てくるが、やる夫スレを読む上では正直なんとかなる。
ニコニコ大百科でキャラ名で検索して、ツンデレや悪役、女たらしなど大体の性格さえ掴めればOKだし、何なら作者ごとに性格が変わっていたりする。二次創作のストーリーなので、その点を踏まえていれば殆どのやる夫スレを楽しむことが出来る。

もちろん、登場キャラクターの出身作品にまつわるネタが入ることがあり、既に知っている人からすればニヤリとなる瞬間もあるだろう。
二次創作から興味を持った人が一次作品に触れることもあるので、好奇心を刺激する場所としての一面でもある。

繰り返すが、あくまでもこの系統のスレは二次創作である事を念頭に置く必要がある。二次創作のネタを一次作品と誤解するとえらいこっちゃになるので注意しよう。(経験談)

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当キャラクターはかなり多くのスレで扱われているので覚えておくと得かも



さて、そろそろ本スレの話をしよう。
上記のあらすじの通り、有名無実の騎士であるやる夫と騎士としての志を持つやらない夫は、一国の姫君を護衛する重要任務に就くことになる。

しかし、ただの護衛で終わるはずが無かった。
異質な痕跡、姫君の様子、暗躍する上層部。千年前より伝わる伝承、女神ホーリエ。混乱に次ぐ混乱の中で、やる夫は「騎士」とは何かを考える。

…クロスオーバー作品と前置きしているのに矛盾に思うかもしれないが、世界観がしっかり構成されているのが読んでいて楽しめるポイントだった。
また、本作品では裏テーマとして中世ならではの身分階級による苦しみが描かれており、これがキャラクター達の影を支えている。もちろん当時の掲示板特有のネットスラングをふんだんに使ったコミカルなギャグシーンも多くあるので、笑いとシリアスの加減が非常に良い。

個人的に注目して読んでほしいポイントは、姫君の護衛である蒼星石と一介の騎士のやらない夫の関係だ。

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護衛任務を通して少しずつ心を開いていく蒼星石と、彼女の圧倒的な強さに惚れるやらない夫の二人。ページを更新するにつれて変化する情勢の中で、この二人の魅力は作品中で最も輝いていく。

他にも語りたい名シーンはあるのだが、このような王道ファンタジーは中盤から終盤にかけてのストーリーの展開が熱く、それ故にネタバレになる部分が多いので割愛させて頂く。

いつもとは違う今年の夏、蝉の音なんて忘れて本作品をじっくり読んでみてほしい。


以下、作品リンクとやる夫スレ紹介記事


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