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「暗示」による花粉症

「造花を見ただけで花粉症の症状が出る」というのは有名な話ですが、ご存知でしょうか?

「造花を見ただけで花粉症の症状が出る」という現象は、心理学的な反応や「条件付け」の一例としてしばしば引用されます。この現象は、特定の刺激(この場合は造花)が実際にはアレルゲンを含まないにも関わらず、アレルギー反応(花粉症の症状)を引き起こすというものです。これは心理的な要因や条件反射による身体反応の一種と考えられています。心理学の分野で広く知られるプラセボ効果や条件付けの理論、特にパブロフの犬の実験に関連する研究から派生した概念です。これらの理論は、人間の認知や条件反射が身体的な反応にどのように影響を及ぼすかを説明しています。心身条件反射療法(PCRT)では最初に無意識的な心の「信号」とIgE抗体などの免疫系に関係する「信号」とが混線した状態に、花粉のアレルゲン情報の「信号」が条件付けされて誤作動記憶となり、花粉のアレルゲンを吸引、あるいは単に造花を見るという引き金(条件)だけで、症状が出るように脳が誤学習して、症状を引き起こすメカニズムが構築された結果であると考えています。

実際に造花を見ただけで花粉症の症状が出るという報告は、条件付けやプラセボ効果、さらにはノセボ効果(ネガティブな条件付けがネガティブな結果を引き起こす現象)の例として、心理学や医学の文脈で議論されることがあります。近年、花粉に関する情報番組やニュースが増えてきているので、花粉情報を見たり聞いたりすることで、花粉症の症状が出たという患者さんも少なくはないように感じています。テレビ番組では連日のように花粉症対策の話題が出てきます。あたかも花粉対策をしなければ、花粉症になるかのようなニュアンスを与えているようで、多くの人々が錯覚しているのではないかと思われます。心理学的には身体の過敏度が「暗示的」に高くなり、花粉症になりやすい人が多くなるのではないかと懸念しています。PCRTではこのような「暗示」によって引き起こされる症状の誤作動記憶を「意味記憶」や「エピソード記憶」として、誤学習を書き換える施術で根本的な症状の改善を促しています。

テレビの情報番組には、花粉症が根本的に治るという前提がほとんど取り上げられず、対症療法を推奨している現状です。言い方を変えると、暗示的に花粉症は治らない症状であるという風潮が感じられ、花粉症を根本的に治すことを前提にしている治療家にとっては、厄介な問題だと感じます。基本的に人間には「適応力」が備えられており、「花粉や微粒子などのアレルゲンに慣れる」という習性や機能を本来持ち備えているはずです。そのように花粉を身体に慣れさせて、花粉への適応力を身につけて、花粉症を根本的に治すという考え方を持つことが大切だと感じます。

心理学的な観点から見ると、ある情報が人々の認識や体の反応に影響を与えることは確かです。これは「ノセボ効果」とも関連しており、人々がネガティブな情報を受け取ることで、その症状を経験する可能性が高まる現象です。花粉症に関する情報も同様に、人々の期待や不安を高め、症状を悪化させる可能性があります。この現象は、心理学と身体の相互作用を示す「精神神経免疫学」の分野で説明されることがあります。「精神神経免疫学」の分野は、心理的な要因が免疫システムにどのように影響を及ぼすかを研究しており、心と体の密接な関係性を科学的に解明しています。心理的ストレスや不安がアレルギー反応を含む身体の状態にどう影響するかを明らかにしています。この理論に基づけば、情報の受け取り方や心理的な状態が、花粉症の症状に影響を及ぼす可能性は大きいと言えます。

花粉や大気汚染などのアレルゲンを身体に慣らして、身体に適応力や免疫力を身につけるという考え方をサポートしてくれる理論として考えられるのが、『笑うカイチュウ』(講談社、1994)の著者である藤田紘一郎教授の衛生仮説です。藤田紘一郎教授による「衛生仮説」は、現代社会における過度な清潔さがアレルギー疾患の増加につながっているという理論で、アレルゲンへの曝露を通じて免疫システムが適切に発達することを支持しています。この仮説によれば、子どもの頃に様々な微生物やアレルゲンに曝露されることで、体の免疫システムはそれらに対抗する方法を学び、より強く適応する能力を育てることができるとされています。したがって、適度なアレルゲンへの曝露は、体が花粉などのアレルゲンに対して自然な耐性を発達させる助けとなり、長期的にはアレルギー症状の軽減につながる可能性があると考えられます。

藤田紘一郎教授の提唱する「衛生仮説」は、子供時代にある程度の細菌やアレルゲンに曝露されることが、アレルギーや自己免疫疾患の発生率を下げることに寄与するという理論です。この理論は、ある程度の「汚れ」にさらされることが免疫システムの適切な発達に必要であると提案しています。大人においても、徐々にアレルゲンに暴露することで、身体がアレルゲンに適応し、自然な耐性や免疫力を発達させることが可能であると考えることができるし、この理論に基づく実践的な応用を試す価値は大いにあると考えられます。つまり、適度なアレルゲン曝露が免疫系のバランスを整え、アレルギー症状の軽減につながる可能性があるということです。

花粉症に関する情報の受け取り方、すなわち人の心理状態に及ぼす影響と、適応力や免疫力を高める治療アプローチの重要性が世間一般に強調されることで、社会全般にアレルゲンに対する適応力を高める風土が高まり、社会的な視点でも長期的な利点につながる可能性があります。例えば、ニューズ番組で、「今日は花粉量が多くなるので、無理にならない程度で花粉が身体に慣れる工夫をしていきましょう。」そして、道端のインタビューで、「今年の花粉に対する感覚はどうですか?」という質問に対して、「今年は身体がだいぶん慣れてきたと思います・・・」というような回答や「もう、花粉には慣れて、アレルギー症状は治りました・・・」などの回答が当たり前のようになってくると、花粉症は激減していることが予測されます。つまり、現代の「花粉などのアレルゲン」を避けるという風潮から「アレルゲンに慣れる、慣れさせる」という風潮へのパラダイムシフトで、アレルギー患者が減る可能性が大きいということだと思います。

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