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つくば市の高齢化状況について[3]


こんにちは。つくばに住む研究者です。

前回に引き続き、つくば市の高齢化問題について考えていきます。
つくば市は2022年度では最も人口増加率が高い自治体であり、全国の自治体と比較しても低い高齢化率となっています。今後、つくば市はどのようにして高齢化社会を迎えるのでしょうか?

まずは平成27年(西暦2015年)10月に国立社会保障・人口問題研究所によって実施された人口推計(”つくば市人口ビジョン”)をみてみましょう。

平成27年10月発行の”つくば市人口ビジョン”より

分析のサマリは以下です。

・推計では,総人口そのもの は 2035(平成 47)年まで増加基調にありますが,生産年齢が減少を始めるの は 2030(平成 42)年となっており,その後急速に少子高齢化社会へと進行し ます。
・老年人口は右肩上がりで増加していき,年少人口や生産年齢人口の増加は見込 めるものの相殺され,今後の人口増加の大半は結果的に老年人口によるものと なります。
・2040(平成 52)年には高齢者人口が現在の倍になると予測されます。

平成27年10月発行の”つくば市人口ビジョン”より
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/4shihyo/siryo2.pdf

この推計では人口が25万人を超えることは予測されていません。当時の想定以上に人口増加率が高くなり、予測が困難であったのだと思われます。

コーホート分析結果を使った将来人口の推計手法については、同団体より資料があります。前回までに整理したコーホート分析のデータを用いて、将来のつくば市の人口推計をしてみます。人口推計をする上で重要な指標となるのは、次の3つです。

  1. 生残率:ある年において年齢 x~x+4歳の人口が、5年後にx+5~x+9 歳として生き残っている割合

  2. 純移動率: 5歳階級ごとの転入超過の割合

  3. 子ども女性比:t 年の 0-4 歳の人口(男女計)を、同年の15-49歳の女性人口で割った値。出生率の代替として用いられる。

高度な人口推計では子供女性比について、より特殊出生率と近づけるために市区町村のデータを用いるなどの工夫をしたりするようですが、今回は大枠での人口推移や高齢化について知ることが目的であるため、割愛します。また上記の3指標意外にも「0-4 歳性比」を考慮することでより正確な推計となります。これは自然出産における男女の出生割合が1.05対1と若干非対称であることに加え、人為的な性別選択が行われるケースが存在するためですが、今回もこの指標については省略したいと思います。

それでは、いくつかのシナリオについて、つくば市の将来の人口推計をしてみましょう。

つくば市の将来の人口推計

シナリオA:流入が継続する場合

まずは2018年〜2023年の間の生存率、純移動率が継続していくものとして人口推計をします。つくば市の過去5年間での人口増加率は非常に高いため、恐ろしい推計になりそうです。結果はこのようになりました。

つくば市の人口推計(2018~2023の移動率が継続する場合)

もしも直近5年のように人口が推移する場合、つくば市は全く高齢化問題を迎えないことになります。人口は増加を続け、2068年には50万人を突破するようです。
とはいえ、流石にこんな将来は有り得なさそうですね。他のシナリオについても考えてみましょう。

シナリオB:流入が徐々に減少する場合

もう少し現実的な想定をします。例えば人口の移動率が5年ごとに半分になると仮定します。これでも常に流入人口は増え続ける訳ですが、つくば市の子供女性比は0.2を下回っているため、どこかの時点で高齢化に転じていくはずです。結果はこのようになります。

つくば市の人口推計(移動率が5年ごとに1/2になる場合)

増加率が5年ごとに1/2になる場合、10年後には他の市区町村からの流入が殆どなくなり、徐々に高齢化が始まります。生産年齢人口の割合は2033年以降に減少に転じます。2048年ごろには人口のピークを迎えますが、その時点での高齢化率は30%以下であり、現在(2023年時点)の日本全体の高齢化率よりも低くなっています。2073年の高齢化率は39.3%でした。

シナリオC:流入が急速に減少する場合

さらに悲観的な状況を考えてみます。増加率が5年ごとに1/4になる場合です。この場合はさらに高齢化が早く進むことになります。

つくば市の人口推計(移動率が5年ごとに1/4になる場合)

増加率が5年ごとに1/4になる場合、2043年ごろに人口のピークを迎え、2048年には高齢化率は30%程度になります。

シナリオD:流入が鈍化するが出生率が改善する場合

これまでみてきたように、流入が今後も続く場合を除き、当然ではありますが、人口減少は避けられないようです。流入に頼らずに人口構造を維持するには、出生率を改善する以外に現実的な方法はありません。
どの程度の出生率の改善があれば人口を維持できるのかシミュレーションしてみましょう。

移動率についてはシナリオBと同じように、5年ごとに1/2になると仮定します。合計特殊出生率(と相関の高い子ども女性比)が5%の改善を得る場合について、即ちある年の0~4歳の人口が子供女性比*1.05で計算される場合の人口推計は以下のようになります。

つくば市の人口推計(移動率が5年ごとに1/2になるが,子供女性比が1.05の改善を得る場合

子供女性比に5%の改善があるだけで人口の変化の様子が大きく変わります。このシナリオでは人口のピークが訪れるのは2063年であり、その時点での高齢化率も32%程度です。高齢化の速度はかなり緩やかになります。
(なお、余談ですが、10%の改善がある場合では、人口は2073年以降も増加し続ける結果となりました。)

つくば市は全国でも数少ない不交付団体であり、財政は非常に健全な自治体です。しかし、少子化対策に力を入れなければ遅からず全国と同程度の高齢化を迎えます。幸いなことには、現在時点での人口構造からすれば、現実的な出生率の底上げにより、人口を維持できる可能性は十分にあると言えそうです。とはいえ生産年齢人口の維持は難しく、技術を駆使して労働生産性を改善することが求められそうです。

それでは。

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