お茶の飲み方について

註・これは『ヘタリア』の二次作品です。

多少、対象読者年齢は高めではなく、なおかつノーマルカップリングです。(しかし、国の擬人化だからノーマルも何も……)

更に、かつてある人のリクエストに応えて書いたモノで……でもまあそろそろ時効かなと。(;^_^A

そこをご承知の上、ご覧下さい。<(_ _)>

お茶の飲み方について

ここはアーサーの家の庭園。
いわゆるティータイムというやつである。
招待を受けた本田菊は多少緊張した面持ちで、野外用の椅子に腰掛けていた。
このような席は初めてだからでもあるが、家の方が気になっていることもあった。 『彼女』を連れてこられなかった事が心残りだったのだ。
そういうわけで、カップにお茶を注いでいったのがメイドだったか執事だったかもよく認識していないほど上の空な菊なのだった。
「あ、おい菊」
一口飲んでから
「は、何でしょう?」
と聞き返そうとする。
だが、そうはいかなかった。
「!」
声にならない声を上げて飛び上がる菊。
「遅かったか……」
思わず目を覆うアーサーであった。
「今言おうと思ったが、底に手を当てない方がいいぞ。 下手するとヤケドするから」
そうなのである。
正式な紅茶というものは熱されたティーカップに注ぎ入れるから、取っ手だけを持って飲むのがマナーである。 また、当然ながらそうしないとアーサーの言う通りヤケドをするのだ。
「そ、そういうことは早めにお願いします……」
フィンガーボウルに両手を突っ込みながら、多少恨みがましい目でアーサーを睨む。 が、天然な彼には通じていないようだった。
「悪い悪い。 ウチでは常識だからな……うっかりしてたんだ」
ひどいヤケドにならなかったのは幸いであったが、しばらくの間左手の指がヒリヒリしていた。 その後の時間、菊がさっきまでに輪を掛けてくつろげなかったのは言うまでもないだろう。

「……それはまた……その……災難でしたね」
心配げに菊を見つめる梅。
「全くです……『郷に入れば郷に従え』と言いますから、それを失念していた私も迂闊でしたけどね」
自嘲気味にいう菊の前には、湯気の立った湯飲みが置いてある。
もちろん、そのお茶は梅がいれて出したのである。
「ありがとうございます」
礼を言って軽く会釈する菊。
「いえ……お口に合うといいんですけど」
それには答えず、にっこり微笑み
「はー」
一口飲んでほっとする菊。 もちろん、湯飲みの底に左手をあてがって、である。 そこのところは何か妙にこだわりがあるらしい。
「やっぱり落ち着きますねえ、湯飲みの方が」
アーサーのところでの体験がだいぶこたえたのだろう。
(……本田さんてば)
本当にほっとしている様子の菊に、自分もなごむ梅であった。
「いい陽気ですね」
「はい」
そんな会話をしていると、偶然にも二人の胸に浮かぶ想いがあった。
それは、
『まるで長年連れ添った夫婦のようですね、私たち』
ということばであった。
そして、その想像に二人は同時に赤面し、互いに顔をそむけた。
当然、相手の動向は目に入っていない。

(な、長年本田さんと連れ添ったなんて、しかも夫婦だなんて……わ、わたしったら大胆……でも夫婦だったら朝、本田さんが出かけるときに、く、唇と唇を……)
それ以上は想像するだけでなおも顔が火照ってしまう梅である。
腐女子な彼女は様々なアレなことを日頃想像したり描いたりしているのだが、菊の場合に限っては特別らしい。

ややあって、心の旅路から戻ってきた彼女は、
「本田さん……?」
いつもと違う彼の様子に小首をかしげた。
「名前で」
幾分ぶっきらぼうな調子で唐突に告げる菊。
「え?」
「名前で呼んでもらって良いですか?」
梅に顔をあわせずに、あさっての方向を見ながら言っているのは照れの為なのが窺い知れる。
「…………」
梅にもそれはわかるようで、鼓動が早くなってしまう。
「………………」
長いようで短い沈黙が流れた。
「……い、いいんですか?」
顔を合わせないまま、優しい声で、だがぼそりと
「……私がお願いしてるんです」
と言った菊は、これまた唐突に振り向いた。
その瞬間、目があった二人は、頬を赤らめるのと同時に顔をそむけあった。
そして、梅のあとをつけ、隠れて覗いていた香港は
「な、何をやっとんだ、まったく……」
と、やきもきと焦れったくなって精神的に地団駄を踏んでいたのは言うまでもないのであった。

おしまい

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