シーランドの野望

註・これは『ヘタリア』の二次作品です。

多少、対象読者年齢は高めで、なおかつBLです。(しかし、国の擬人化だからBLもなにもないような気も……)

更に、かつてある同人誌に発表した事があります。

そこをご承知の上、ご覧下さい。<(_ _)>


『シーランドの野望』

その日。
シーランドがどうしてその場所にいたかは定かではない。
しかし、いたものはしょうがない。 なんのかんの言っても無駄である。

そうして、シーランドは見てしまったのだった。
フランシスとアルフレッドに愛撫されるアーサーの姿を。

「手、休めないで」
アーサーがアルフレッドを扱くように愛撫する。
「もうイきそうになってる。 本当にいやらしい子」
フランシスが触れていた先端から真珠のような露が湧出し、そして喘ぎも……。
「だめ! そんなにしたら…………っ! いやぁっ!! ああっ!!」
「辛そうだから、口でしてあげるね」
「もう勘弁して……お願いだから……ああん」
「されてる顔、撮られてるよ? でも我慢するんだよね? アーサーは紳士だから」
「無理……無理だよぉ……フランシス」
「エロ大使なんだから……見られてる方が燃えるよね。 ほら、もう出そうだし」
「はあ、はあ、あん……あ……やん……ふ、ふら……やっ」
「出していいよ、坊ちゃん……」
「や……イっちやう……イっちゃうっ!! だめ……!! お、お願い……もう勘弁してぇ……助けて」

定かではない、といったが、実のところ理由はわかっている。
立派な、しっかりとした国になるべく、アーサーを観察していたのである。
しかしながら、どうやってそこについたのかはシーランド自身にすらわからない。 気がついたら、アーサーのそんな姿を見ていたのだ。
(ななな、なんなんですかあれは……)
その瞬間は何が何だかわからない。 経験値が足りないからしょうがないのだ。
慌てて物陰に隠れてからあらためて今の光景を反芻するシーランド。 頭に血が上り、心臓がどきどきばくばくいっている。
混乱の極みにあった彼には、どうやってその場から離れたのか記憶になかった。

夜になっても、ショックは薄れるどころかどんどん増幅されるようであった。
就寝しようと思っているのにもかかわらず
(……アーサーは、アーサーのくせに、どうしてあんな色っぽく鳴きやがってたですか)
悶々とするシーランドなのである。
無理矢理に目を閉じても、まぶたの裏にアーサーの悩ましい姿が浮かぶ。 もともと刺激の強い情景であったが、それは実際の姿より更に蠱惑的に彼の官能を直撃した。

そういう夜が何日か続き、正常な思考が成り立たなくなっているシーランド。
(も、もしかすると)
アーサーの媚態によるカルチャーショック、略してアーサー・ショックによって発想が妙な方向に行ってしまうのだった。
(あれが国として認められる秘訣じゃねーですか?)
そんなわけは確実にない。
そして、余計な茶々が入らなければその勘違いの妄想はそれだけの話で済んだ筈なのである。
だが、そうはいかなかったのだった。

(おやおや、見てしまいましたか……)
アーサーがそうなるようお膳立てした張本人・本田菊は当然ながらシーランドの動向に気がついていた。
本人に言わせると
「萌え師のたしなみ」
ということになるのであるが、端から見ると『悪事をするときは周囲に気を遣う』ということ以外の何物でもない。
しかしながら、アーサーの痴態に目がくらみ、その直接の相手のことすらよく目に入っていなかったシーランドである。 一歩離れて撮影していた菊のことなど認識の範疇外であった。

「じ、実はちょっと聞きたいことがあるのですよ……」
もじもじしながら、おずおずと訊ねるシーランドに、にこにことオリエンタルスマイルを浮かべながら訊ね返す菊。
「聞きたいこと? なんですか?」
初めのうちは、自分が関わっているのを知った上でアプローチしてきたのかと思った菊。 だが、どうも彼の様子を見る限りそうではないようだった。
(ははあ、さては?)
その手の兆候を見逃す菊ではなかった。 萌え師の本領発揮といったところである。
実のところ、シーランドが菊に白羽の矢を立てたのはアーサー本人が原因であったのだ。
いつぞや菊に挨拶をしたところ、アーサーの牽制のために彼は挨拶を返してくれず、その時のことがシーランドの印象に残ってしまっていたのだった。
ちなみに、菊の方ではそんなことは過去のこととして忘れ去っていた。
「えーと、シーランド君、でしたね?」
「はい、シーくんはシーランドくんなのですよ」
そんなことで胸を張るな、とアーサーに注意されて以来、逆にしばしばそうするようになっているシーランドなのだった。 反抗期、というのでもないのだろうが、そういうお年頃なのである。

意味深な目つきで
「……おや、シーランド君、ひょっとすると」
軽くカマをかけるように水を向けると、打てば響く、といった感じでうろたえる。
「しししししし、シー君は覗いてなんかいないのですよ!」
語るに落ちたシーランドである。 無論、そのことについて追求するような相手ではない。
「そうでしょうとも」
にっこりと妖しく微笑む。 が、シーランドにはその含むところはわからない。
「わ、わかって貰えて嬉しいのですよ」

「話は変わりますが」
唐突に話題を変える菊。
「聞きたいこと、というのは何ですか?」
かくかくしかじか、とシーランドが話しだす。
「……というわけで、シーくんは立派な国になりたいのですよ」
「はい」
先を促すように相づちを打つ菊。
「それには、シーくんをみんなに認めてもらわなければいけないのです」
「そうですねえ」
「それで、まずはアーサーの野郎に認めさせたいのです」
「ふむふむ」
聞きながら菊はいかにも楽しそうに微笑んでいるが、シーランドにはその意味するところを考える余裕はない。
「で、でも……」
「はい?」
「どうやってそういう状況に持ち込めばいいのかわからないのですよ……」
「ほう?」
「それに、どうやるのかもわからないのですよ……」
微妙に論理が変であるが、自称萌え師の菊はその妙な部分で鋭い洞察力によってシーランドがアーサーに何を望んでいるのかを理解した。
シーランドもよりによってややこしい相手に相談したものだが、ある意味正しい選択だったのかもしれない。
『正しい選択』というのは、もちろんアーサーにとってではない。
「ああ、それなら『聞きたいこと』ではなく『教えて欲しいこと』ですね」
と訂正を加えた。
「教えて差し上げるのにやぶさかではないのですが」
「やぶさかって意味わかんねーのですよ」
「おや、それは失礼しました。 教えて差し上げるのはかまわないのですが、実地でというわけにもいきませんからね」
最近、某者とイイ仲なので、彼女にしれるといささか具合が悪いのである。
しばらく考えている菊の横で、シーランドは不安そうに菊の表情を見ている。
「そうです!」
ポン! と手を叩いて
「ウチのところの映像資料で学ばれてはどうでしょうか?」
「映像資料? ……なんかよくわかんねーですが、心ときめくフィーリングなのですよ」
それを聞いてニンマリと微笑んだ菊。 どのような映像を見せようとしているのか、シーランドにも伝わったくらいヨコシマな雰囲気であった。

菊が持ち出してきた映像資料、即ちDVDによるレクチャーが始まった。
その画面に映っているのはアーサーとフランシス、そしてアルフレッドだった。 少なくともシーランドにはそう見えたし、実際そうだったのである。
「こ、これはアーサー……ですか?」
「え? ああ、いえ他人のそら似です。 うちの家の役者さんですよ。 シーランド君の参考になるかと思いましてね」
もちろん大ウソであった。
「へー、世の中にはよく似たのがいるものなのですよ」
あっさりとだまされるシーランド。 根が純真なのか、菊を信じ切っているのか、そこのところはよくわからない。

「よくわかったのですよ。 早速アーサーに試してみるのですよ」
かなりの急ぎだったため、細かいニュアンスなどは割愛したがシーランドとしては充分な学習成果であった。 確かにこういうことはいくら学習しても、実地にうつさなければ机上の空論が絵に描いた餅なのであるからその意味では彼の態度は正しい。
「そうですか。 がんばって下さいね」
笑顔で見送る菊。 明らかに面白がっている様子であった。

かくてシーランドはアーサーを呼び出した。
一応格下だと思っている相手の呼び出しに応えるのだからアーサーも律儀というか人が良いというか……。
一回目の呼び出しでアーサーがあっさりとやってくるとは思っていなかったシーランド。 多少戸惑ったが、そこで思い悩むような段階はとうに過ぎていた。

「まあダージリンでも一杯、なのです」
あまり慣れない手つきで紅茶をいれるシーランド。 手が震えていないのは、自信のあらわれか、はたまた少々イッているためか本人にもわからない。
「なんだシーランド、妙にしおらしいな……?」
(とうとう戻る気になったかな?)
などとのんきなことを考えているアーサー。 今までの『経験』が生かされていないらしい。 もっとも、以前の場合は菊本人がいろいろな仕掛けを施していたばかりか、撮影のためにカメラを用意してその場にいたのである。 それに対し今回は彼の姿は影も形もない。 油断してしまうのも無理はないだろう。
ましてやアーサーは『天然』である。

「……で、どうするんだ? 物置でもかまわねえのか?」
ティーカップ四分の一ほどの量を飲んで、シーランドに訊ねるアーサー。 独り合点の癖はなおっていないようだ。
「何のことかわかんねーですよ?」
「戻る気になったんだろ?」
単刀直入にズバリと訊くアーサー。 アルフレッドのKYが伝染ったのかもしれない。
「そんな訳ないのですよ」
ふくれっ面になって言い返す。
「シーくんだってもう大人なのですよ」
「お前のどこが大人だよ」
いかにも馬鹿にした口調で言って、再びティーを口に含む。 それを確認してから
「シーくん見たのですよ……」
「あ? 見たって何をみ」
ぐるん、と部屋が回るような感覚に襲われ、アーサーの身体ははぐらりとよろめいた。
「ふふふ、お茶に入れといたナンバントライのシビレグスリが効いてきたのですよ」
ほとんど棒読みだが、朦朧としているアーサーの意識を更に混濁させる効果があったので結果オーライである。 もちろん本当は菊が提供した薬なのだが、参考資料を丸暗記したためにこのようなセリフになるのだった。
「シ、シーランドてめなんてことしやがる……菊のとこの古い時代劇の見過ぎだぞ……っ」
確かに、かつて菊の家で人気を博していた東○時代劇ではそういうセリフと状況がよくあったらしいが、なぜアーサーがそんなことを知っていたかは謎だ。
「何とでもいえ、なのですよ」
そう言いながら、アーサーのシャツをはだけていく。
「あ……な、なにを」
抗おうとするが、身体が思うように動かない。 それをいいことにシーランドはアーサーの素肌に手を、そして唇と舌を触れさせていく。
「シーくんももう大人だと言ったのです」
そう言いながら、今度はアーサーの右手を取り自分のモノに……。
「ほら、わかんねーですか?」
痺れ薬が効いているので、その感触は半減している。 とはいえ、その脈打つモノは確かにシーランドの主張を裏付けているようだった。
「い、いつの間にこんな……」
「アーサーと一戦交えれば、国として認められる、とある人が教えてくれたのですよ」
それを聞いて、『ある人』が誰なのか悟ったアーサー。
「『一戦交える』ってのはそういう意味じゃねえだろ! ばかぁ!」
「うるさい口なのですよ。 コレでも咥えているがいい、なのですよ」
人体のある部分を模したモノを取り出して、アーサーの口に押し込む。
「う、んむぅ……」
参考にした映像を踏襲しているだけのシーランド。 生憎というか残念ながらというか、応用を利かせるほどの学習がなされていないからしょうがない。
それでも、妙に興奮してくるのに気づき、それが更に昂ぶらせてしまうのだった。
「んむぅ! むむぅ!」
シャツを半脱ぎにさせられ、後ろ手縛りのようなポーズをとらされてアーサーがうめく。
「ふふふ、なのですよ」
別にそんなことを言わなくてもいいのだが、レクチャーが促成栽培だったがために、意味をあまり考えずに口に出すシーランドであった。
そしてアーサーの肌を、細い指先が擽るように愛撫すると呻きを上げつつ背を仰け反らせる。 口をふさがれているため、まともに抗いの声を出せず、イヤイヤをするように首を振ってもがくだけである。
「ウブナネンネじゃあるまいし、なのですよ」
微妙に使いどころを間違えているが、すっかり感じやすくなっているアーサーは真っ赤になってしまった。
今までの『経験』が災いしている。 先ほど述べたのとは別の意味で『経験が身になってしまっている』のであった。
「アーサーのこの体はいったいどれだけの男を知りやがってるですか」
菊のところで覚えたらしいフレーズなのは明白だ。 
「へっへっへ、口ではイヤだと言っても身体は正直だ、なのですよ」
これもそうで、菊がどういう傾向の映像を見せたのか、充分以上によくわかる。
そんなお定まりの囁きを聞かされて、逆に身体を火照らせるアーサー。 図らずも、菊のところの偏ったビデオのシチュエーションが今の状況と上手くマッチしているのだった。
見てしまったアーサーへの愛撫を思いだし、そして見せられたビデオの映像を思いうかべて身体へ指を、手のひらを、舌先を、そして……。
中心部へと近づくごとにそのテクニックは激しさを増す。 稚拙といってよいのだがそれが若さを感じさせ、敏感になってしまった肉体を翻弄してくるのだった。
「あわぁ……もまぁ!」
口腔内のモノが邪魔で、そういう声しか出せない。
と、急にそれが引き抜かれた。
「あ……?」
次の瞬間、ふんわりと柔らかいものが押しつけられ、乱暴なくらいに激しく吸引された。
「んむっ! ……んんんむむむむ……っ!」
実地経験がないためと、当たり前の話だが映像には外側しか映っていないために『吸う』というテクニックしか……いや、そもそもテクニック自体を知らないシーランドのキスであった。 だが、それが逆にアーサーを刺激した。
「はあ……はあ……」
二人の息が荒くなり、その息づかいがハモった。 そして、ねだるように目を潤ませて訴えるアーサーに、シーランドはそのまま身体を重ねていくのだった。
「ああっ! こ、こんな!」
「へへへ、イイ声で鳴きやがる、なのですよ」
余裕は無いはずだが、それでも覚えたセリフをそのまま口に出すシーランドであった。 既にアーサーには聞こえていないので特に問題はない。
しばらくそうやって運動をくり返したのちに、二人は同時に達したのである。

参考にした資料が菊のところのビデオであったのはアーサーにとっては幸運だった。 シーランドにまで最後までされてしまっては立ち直れないところだったからである。
つまり、修正が入っていたためにシーランドは細かいところまでわかっていなかったのだ。
が、達したことは達したのでシーランド的には満足であった。
嬉しそうに笑いながらアーサーに告げる。
「こうやっていけば、シーランドくんはみんなに国として認められるのですよ」
痺れ薬の効力が消え、それでも動きにくい身体をなんとかだましだまし動かして起き上がりシーランドを見やるアーサー。 あきれ顔で
「……お、俺はともかく、他の奴にまでこんなコトをする気かよ……」
シーランドはそれには思い至らなかったようだ。
「え?」
ややしばらく考えていたが、大きなため息をついて
「よくわかんねーですが……やっぱり、急いでも良いことはない、ってことなのですよ」
と結論を導き出し、納得をした。
「……仕方ないのですよ。 立派な国になるべく、地道に頑張るのです……」

多少しょげた様子で帰って行ったシーランドを見送り
(やれやれ……)
と胸をなで下ろすアーサー。
しかし、彼は次なる魔の手が、ついそこまで迫っているのを知らない……。

おしまい


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