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「雇用調整助成金」ってなに?わかりやすく解説してみた!

新型コロナウイルスの感染拡大によって経済や雇用に重大な危機が迫るなか、「布マスク2枚配布」ほどのインパクトは無いものの、注目を集めているのが、政府の打ち出した「雇用調整助成金の補助率を9割にする」という方針です。

わかりにくい。。。
私も、まったく初見の時は難しすぎて意味がわかりませんでした。

「給料の9割を政府がくれるんですか?」という声が多くありますが、それは正しくありません。なので、わかりやすく説明します。

雇用調整助成金とは?

「助成率9割」という言葉が独り歩きしているがゆえに(むしろ政府もそれを狙っているのでは?というのも邪推ではない気がしますが、)他の各国が行っているような、各個人に対する「所得補償」のための制度だと勘違いしてしまっている人が多いようです。

しかし、この制度は「雇用を最低限守ること」を目的としたものであり、所得補償よりかはステージがひとつ下がります。

その仕組みはこうです。

・現在、会社の都合(一時的な売り上げの低下など)で企業が従業員を休業させた場合、その分は賃金を払わなくて良いわけではなく、企業は従業員に「休業手当」を支給しなければならない。
・この「休業手当」として企業が従業員に支給した金額の一部を、政府が企業に補てんするのが「雇用調整助成金」

そう、この制度は、政府が各個人に賃金の一部を助成する制度ではなく、企業が従業員に休業手当を払うにあたっての企業側の負担を軽減する制度なのです。
これがなければ、企業は一時的な売り上げの急減があった場合、休業手当を支払って会社の負担をさらに増やすより、会社を守るために従業員を大幅に解雇してコストカットをした方が良くなってしまいます。そこで、この制度があれば、企業は従業員を解雇せず、休業手当を支払っても、負担が少ないので、解雇はされにくくなるのです。このように、雇用調整助成金は一時的な経営状況の変化に対応し、雇用を維持するために効果を発揮します

では、これが「所得」を守るかと言われれば、それは正しいようで正しくはありません。雇用調整助成金はあくまで、「休業手当への支援」です。この休業手当は従業員を休業させた場合に企業が従業員に「賃金の6割以上(まあ、太っ腹じゃなければだいたいはジャスト6割)」を支給するものであり、「助成率9割」とは、その6割の9割、いわば休業させた従業員の賃金の54%を政府が企業に渡すものなのです。あくまで、私たちが受けとるのは休業手当の方であり、雇用調整助成金の補助率が9割になろうが10割になろうが2割になろうが、私たちが休業を余儀なくされた場合に受け取れるのは従来通り、賃金の6割なのです。

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資料:雇用調整助成金と休業手当のしくみ

雇用調整助成金の課題

さて、この制度も万能ではありません。いくつか問題点も指摘されています。

① 早急な対応ができない

この制度は、企業側が政府に申請しなければ適用されません。申請をしても、政府側の手続きに時間がかかり、申請から助成まで、2か月弱を要することもあります。このように、一律型ではない制度であるがために、対応に時間がかかってしまうのが、この制度の弱点のひつとです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済への影響は急速に進行しており、本当にこの制度で雇用を守りきれるか心配です。

② 雇用が必ずしも維持されるとは限らない

9割を助成されるというのは、解雇者を一人も出さなかった中小企業の場合であり、大企業では助成率75%です。また、解雇者を出した場合には中小企業で80%、大企業では66%にとどまります。結局のところ休業手当ての100%を助成されるわけではないので、コストカットとして解雇が行われる可能性は十分にあるわけです。現に、非正規雇用を中心に失業者が急増しているとの報告もあります。失業してしまえば、休業手当は受け取れません。事態はより深刻です。

③ 生活の保障としては弱い

あくまで休業手当として受け取れるのは賃金の6割程度であり、これだけで生活を維持し続けるのは困難です。また、上記の通り、失業してしまえば休業手当も受け取れません。雇用保険に入っていれば失業手当を受け取れますが、非正規雇用者では雇用保険に加入していない方が多くいるため、まったくの無収入に陥ってしまいます。このように、雇用調整助成金はあくまで、雇用を維持しやすくするための制度であり、所得や生活をどのように守るかはまた別に考えなければなりません。

他にも、雇用調整助成金によって、「ゾンビ企業を延命させてしまう」「景気低迷が長引けば、結局のところ受給期間終了後に多くは失業する」などなど、様々な指摘があります。

おわりに

雇用調整助成金の雇用維持への効果は当然ゼロではないはずです。助成率を上げるのは合理性のある手段と言えるでしょう。しかし、あくまで雇用を守る手段のひとつに過ぎないという点は注意が必要です。この政策をもって「日本でも給料の9割が保障される」というミスリードが発生しているのであれば、人々がさらなる生活保障を政府に求めるための原動力を奪ってしまいます。政府もわざと勘違いを招いているわけではないと思いますが(と信じたいが、)できる限りわかりやすく、ミスリードを生じさせない説明が求められます。加えて、所得や生活の保障も欠勤の課題であり、早急な対応が必要です。


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