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「“群れ”から“個”へ」ミカヅキBIGWAVEが語るFuture Funkの未来~ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2023

『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』(佐藤秀彦著、New Masterpiece編)の4刷重版記念企画として昨年実施し、大好評のうちに完結した短期集中連載「ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2020-2022」がはやくも復活!
 今回は、昨年Yung Baeの米ツアー参加が話題となったミカヅキBIGWAVEさんのインタビューをお届けします。

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Vaporwaveから派生したサブジャンルとして認知されつつも、Yung Baeのフジロック参戦が発表されるなど、今年に入ってもまだまだ大きなトピックが絶えない“Future Funk”。そうした状況下で、Yung Baeの全米ツアーに参加し、Saint PepsiやMACROSS 82-99などFuture Funkの主要アーティストたちと名を連ね、ヴァイナルのリリースでも話題を振りまく日本人がいる。Future Funkコレクティブ〈ピンクネオン東京〉のメンバー、ミカヅキBIGWAVEその人である。
 本稿では彼の語る制作環境やエピソードを通して、現在のFuture Funkがどのように展開されているのかを探ってみた。
(聞き手:ΔKTR)

――ミカヅキさんは2016年10月に「彼女はLonely Girl」をBandcampで発表して以来、Future Funk(以下FF)をベースに長年作品を発表しつづけているかと思います。そもそも、FFを知ったのはいつごろだったのでしょうか? 現在までの活動の来歴を教えてください。

FFというジャンルを認知して聴きはじめたのは2016年ごろです。それ以前からもサンプリングミュージックが好きで聴いていましたが、Soundcloud(以下SC)でStationという機能が公開されて偶然出合ったLordsunの「あなたは知らMagic City」という曲をきかっけに、「アニメ × 80~00年代J-POPサンプリング × 変な日本語のタイトル」のFFに本格的に興味を持ちました。

Lordsun「あなたは知らMAGIC CITY」
(2015年8月6日、Soundcloud アップロード)

 そのあとすぐに「ミカヅキBIGWAVE」というアカウントを作り、近所のブックオフでみつけたジャンクCDからサンプリングしてSCに1、2曲公開しました。最初は放置していたのですが、多くの英語コメントとLikeがついていることに気づき、楽曲をコンスタントに上げるようになりました。
 その後〈ピンクネオン東京〉を作り、楽曲制作だけでなく国内のクラブイベントに出たり、中国ツアーの『Mikazuki Bigwave China Tour』や、USツアーに参加したり、VTuber楽曲の作曲やリミックスを手がけるなど徐々に活動の幅を広げてきました。

上海、Arkham(2019年6月14日)

――FFを作りはじめるまえから、トラック制作はされていたのですか?

はい。ミカヅキの名義ではないのですが、いまでいうEDMみたいな楽曲を趣味で作っていました。あとはアニメソングをハウス調にリミックスしたFuture Bassのようなものを作ったりしていたので、そういう要素はいまでも混ざってるような気がします。

――Lordsunの楽曲がFFを作るきっかけになったとのことですが、その際にVaporwaveを作ろうと思わなかったのはなぜですか? その当時でもアニメのアートワークや変な日本語タイトルのVaporwaveはあったと思うのですが。

私の場合、Vaporwaveを知るまえにFFの魅力にハマったというほうが正確かもしれません。 FFはVaporwaveを元に派生したとよくいわれますが、私は反対方向から入ったようなかんじです。FFの、原曲をだれも思いつかないようなダンサブルなビートに改変してしまうところにとても魅了されました。
 あと2014〜15年ごろは〈Spinnin' Records〉やその周りのレーベルを好んで聴いていて、EDMに若干飽きはじめていた時期でもありました。そんなときに出合ったFFには、やはり日本語でしかもアニメのアートワークというところにまず衝撃を受けた覚えがあります。

――創立メンバーとして名を連ねているコレクティブ〈ピンクネオン東京〉への参加は、どのように決まったのでしょうか。

当時すでに海外ではFFコレクティブがいくつか活動しており、シーンが盛り上がっていたのですが、日本にはまだ存在していないように見えました。FFはJ-POPをサンプリングして盛り上がっている界隈なのにです。なので日本にもそういう界隈を作って盛り上げられればいいなと思い、国内で活動している人をSCやツイッターで探して連絡をとり、私、Kissmenerdygirlさん、Nekuraさんを中心に結成するに至りました。

――昨年9月にアメリカで行われたYung Baeの『Groove Continental: The Tour』にミカヅキさんは唯一の日本人として参加されました。現地での反応はいかがでしたか? 参加までの経緯なども教えてください。

きっかけはYung Baeからのオファーでした。それまで向こうでのDJの経験はなかったですし、US勢のファンのみんなとも会えるいいきっかけだなと思い、すぐオファーを快諾しました。
 現地での反応ですが、面白いことに盛り上がりやファンの方々の熱量はぶっちゃけ東京のほうがすごいと感じました。Saint PepsiなんかがDJをしていても、意外と横揺れが多いというか、飛び跳ねて盛り上がるような場面はツアーを通してあまり多くなかったような……。お客さんの層としては、日本では“オタク、アニメ、80sシティポップ、Kawaii, J-POP”、向こうでは“Funk、Disco、Pop Music”という印象でした。

広州、Mao Livehouse(2019年6月15日)

――ご自身のBandcampでは、カセットからピクチャーレコード、ステッカーパック、ポスター、ラバーストラップ、アパレルまで多岐にわたって販売され、いずれも即完売となっています。これらのリリースはすべてご自身で企画されたものなのでしょうか?

はい。基本的には作りたいものを自由に個人で作っているだけです。自分の手で作って、梱包して発送してというのが楽しくて続けています。イメージとしては、実際に存在する公式アニメグッズを模倣したりして、ミカヅキちゃんを“公式キャラ”のように見せられたらいいなと思いながら、いまも画策中です。知り合いや街中の人に「それ、なんていうアニメのキャラ?」と言ってもらえたときは少し嬉しいです(笑)。 

――セルフリリースにあたって、各国のファンからの反応やコメントで印象的だったものはありますか?

「ひとりで全部やってるなんて狂ってる」といわれたときは「確かに」と思いました(笑)。

左から:ミカヅキちゃんラバーストラップ、『海辺のSENTIMENTAL』カセット、『わたしの小さなGALAXY』12"レコード

――2020年9月19日リリースの『わたしの小さなGALAXY』ではFuture Funkにとどまらず、Lo-fi Hip Hopの手法を取り入れた楽曲も発表されていました。アプローチの変化にはなにか理由などがあったのでしょうか。

当時はコロナ禍が始まりひとりで自宅に閉じこもることも増えたので、心境に変化があったのかもしれません。
 だれかと会うこともないのでひとりで海辺に行ったり、Lo-fiのビートを作ったり街中を散歩してみたり、若干気持ち的に落ち込むことが多かったのですが、独りの「寂しさ」とそれを「楽しむ」ということをコンセプトにして『わたしの小さなGALAXY』を完成させることができました。

――FFは楽曲の形式的に、サンプリングからトラックメイクが始まることがほとんどですが、サンプリングする元ネタを選ぶ際に心がけていることはありますか?

あまりルールなどは決めていません。街中にひっそりと建っている中古CDショップに行きジャンクCDを買い集めて、そのなかから良いなと思うものを探すってかんじです。なので、そのときの気分や心境で楽曲のスタイルが変わることも多いです(笑)。リリースしていない曲もたぶん100曲以上はあります。強いていうなら、英語詞の楽曲より日本語の楽曲を編集しているときのほうが楽しいですね。変なフレーズを直感的に生み出せたりするので。

――YouTubeからではなく、フィジカルのCDからサンプリングされているのはなぜですか?

正直、特に理由はありません。ただ、そもそもYouTubeからサンプリングをするっていう発想じたいがなかったですね、音質的にも気持ち的にも。何の気なしにフラっと近所のブックオフに寄って知らないアーティストのCDをジャケ買いして、それを聴きながら街を散歩していたときに浮かんできたアイデアを部屋に帰って音にする、みたいな生活をしていました。それが、ただただ自分にとって気持ちのいい習慣でした。そんなジャンク扱いだったCDたちが、最近は“昭和シティポップ”として値上がりしていて悲しいです(笑)。

――たしかに少し残念ですね(笑)。私は、昭和歌謡や和モノのシーンとFFのシーンは、お互い近い場所にありながらも乖離している部分があると思っています。両者の距離感についてはどう感じていますか?

私も別物だと思っています。音楽をジャンルで括るのはあまり好まないのですが、 FFはすごくポップで、ある意味クラブミュージックやダンスミュージック、ものによってはEDMに近い雰囲気を持っています。なのでファンの層は違うのかなと。FFのようなダンスミュージックの良さと、和モノの良さを兼ね揃えたシティポップは、両者の架け橋のような存在ですよね。

――かつてはFFといえばインターネット上のリリースだったのが、日本でもマクロスの初来日をきっかけに、開催されたイベントやヴァイナルのリリースなど、現実に起こったことも話題にのぼることが増えた印象があります。最近でもNight TempoやYung Baeのフジロック出演などが話題ですが、FFは今後どのように変化していくと思いますか?

“群れ”から“個”になるようなかんじですかね。「Future Funk」というジャンル全体が好きで楽しんでいた人たちが、それぞれのアーティストの個性ある楽曲を聴くようになり、シーンが細分化されていくんじゃないかなと思います。“Future Funk”のファンではなく、“Future Funkのアーティスト”のファンになるというか。うまく言語化できないんですが……。FFとしてジャンルが大きくなったぶん、より個が求められるようになる気がします。

――各々のアーティスト性が重要になってきているかんじは、たしかに顕著になっていますね。

これまでどおりサブカルチャーとしてこっそりやるには、すでに最大値なんじゃないかなと感じています。むしろオーバーフローというか……。なので勢いが落ちてまた居心地のいいサイズ感に戻るのか、あるいは別のジャンル名が付いて新しいトレンドとして生まれ変わるのか、私も今後の展開が楽しみです。

――ミカヅキさんはFFの代表的なアーティストとして世界的に聴きつづけられていると思います。次回のリリース予定や今後の展望などをお聞かせください。

これからはFF的なリリースもしつつ、オリジナル楽曲も増やしたいと思っています。いままでの編集方法などを取り入れながら、オリジナルのスタイルを築いていきたいですね。ほかのシーンの人とのコラボももっと展開してみたいです。ミカヅキちゃんのグッズも、より手の込んだものを作れればいいなと思っています。

――最後の質問です。Saint Pepsiの『Hit Vibes』がリリースされたのが、2013年5月31日です。 FFの誕生からもうすぐ10年が経とうとしています。ミカヅキさんがFFを制作しはじめた当時、これほど長く聴かれるジャンルになると考えていましたか?

いえ、考えてなかったです。彼らに魅了されて趣味として作りはじめただけだったので、こういう状況になるとは思ってもみなかったですし、そんなSaint Pepsiと一緒にアメリカを回ってDJをして、楽屋でお酒を飲みながら話をしていたなんて、いまだにあれは夢だったんじゃないかと思っています(笑)。少なくとも私は、作り手も聴き手もこのFFというジャンルが大好きで、そのお互いの熱でシーンが成り立っているんだなと年月が経つごとに実感しています。

『Groove Continental: The Tour』でのひとコマ。左からミカヅキ、Saint Pepsi、Vantage、Night Tempo、ミカヅキちゃんのコスプレはHirariann

(2023年2月7日 チャットインタビューにて収録)

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