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雨と水仙

水仙ほど冷たい雨が似合う花は無いと思う。

この時期は、本当に暦と天気がぴったり合って驚くことが多い。
今日から二十四節気のうちの『雨水』。

最近は近隣トラブルに耐えかね鬱蒼とした日々を送っていた。
自分の心身の疲弊とは対照的な立春の陽光は、まるで、私を励ましているように感じる日もあれば、辛く感じることもあった。
そんな中、今日の雨は、この窓ガラスを打つ雨音は、私の渇きを潤してくれる。

目を閉じて、2月の雨音に浸かりながら、少しずつ沈んでいく。
心の中の小さな薄暗い部屋で膝を抱えているだれかに近づいて、そっと頭を撫でようと額に触れるとき、
だれかが私に触れたような気がした。

亡くなった祖母の手の温もり
幼い頃の私の眼差し
暖かくてくすぐったくて触れられない
懐かしさとも少し違う 過去の優しさに包まれて
雨音の深淵から水面の明るさに気付いたとき
息をしようとひたすらに手を伸ばして

真っ白な照明に照らされた六畳一間の仕事部屋で、
一時の白昼夢から覚めたとき、部屋がやけに広く静かに感じた。
私しかいない部屋で、窓際に飾った水仙だけが私を見ていた。

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