親愛なる修羅の町北九州

この間書店で町田その子さんの『コンビニ兄弟』なる本を購入した。本作品は福岡県北九州市にある門司港が舞台になっており、かなり人気を博している作品らしい。

あの門司港が舞台になっているなんてーー。
私はあまりの懐かしさにかなり興奮した。嬉しくて小躍りした。小躍りしながら少し怖くなった。
というのも、私は過去門司港のすぐ側に住んでいたのだ。

門司港はとても魅力的な街で、というのは観光地としてのバナナの叩き売りだとかアインシュタインが食べたカレーだとか作られた観光地としての一画はまあどうでもよく(でもレトロはとても美しいからオススメ)、
めかり公園から見た関門海峡の美しさ、本州へ行けば直ぐに唐戸市場へ行ける(ここで食べた寿司は人生で一番美味しかった)、小倉へ車で20分くらいで着く、というところから通勤に1時間近くかかるにも関わらず門司港に的を絞って物件探しをした。

しかし観光地、物件は全然無いし家賃はめちゃくちゃ高い。そこで私は門司港と新門司(魔境)の中間地点で二階建てメゾネットタイプの物件を契約した。

住んでみてわかったのは、門司港はフレンドリーな人が多いということだ。毎日女のくせに汚い作業着で通勤していたので好奇的な眼差しで見られていたのかもしれないが、コンビニでは毎朝話しかけてくれて、たまにオヤツやアイスをくれた日もあった。
スーパー、喫茶店などさまざまな所で顔を覚えて優しく接してくれたのを覚えている。
私が東京へ向かう日にはケーキを焼いて持たせてくれた人もいた。

そんな優しい人々には申し訳ないが私が最も印象に残ったのは寂れた商店街の小さなパン屋である。
店名は伏せさせていただくがここの小麦と米粉の食パンは私が今まで食べた食パンの中で最も一番美味しいパンであった。
東京に越してきて2年になるがあそこの食パンを超えるものには出会えていない。高級食パンブームが巻き起こった今でさえ出会えていないのだ。なんてこった。
米粉のしっとり感と小麦のふんわり感が絶妙にマッチしていて、お米の優しい甘さと小麦の香りが最高だった。
私のパン作りの原点(趣味レベル以下の癖に原点を語るな)である。

これまでの文章で2回も"人生で一番美味かった"があるようにあの辺は本当にご飯が美味かった。
というか九州は全部ご飯が美味しかった。

少々興奮しすぎました。失礼。
では範囲を広げて北九州全域について話そうとしよう。

修羅の町、とネットで言われているが、
門司に住む前は北九州の主要駅・小倉駅のそばに住んでいたものの、893屋さんに出会った事はまずないし、とても平和に過ごした。

ただ印象的だったことといえば.市民性である。

夏、めっちゃ祭する。

コロナ禍の今はあまりしていないだろうが、
北九州周辺も含めると7月〜8月の間は毎週のように祭りがどこかしらで開催されていた。
太鼓の練習の音も、北九州の夏の風物詩である。

お祭り好きが多いから、というのは短絡的だし、あまりにも失礼ではあるが、申し訳ないけれどあまり品の良いと感じる人はいなかった。あの独特な方言のせいもあるかもしれないけれど、私は銭湯で婆さん同の喧嘩の仲裁を2回したし(当たり前だけど全員全裸)、結構言いたいことをはっきりいう人が多く最初はかなり戸惑った。慣れてしまえばかなり楽になった。

なので人とは一定の距離感を保ちたい人は少々難しいが、飲み屋はたくさんあるし、ご飯は美味しいし、道は広いからとてもいい街である。

今でも何度も帰りたいと思う、寧ろ実家より帰りたいと思う、
北九州へ来たらまた、美しい海沿いの国道を通って、あの食パンを買って、会いたい人たちに会って、居酒屋を回って、豚骨ラーメンで〆て、ブラックサンダーを食べて、髪も洗わず化粧も落とさず眠りにつきたい。
なつかしきただれた生活。

私が「コンビニ兄弟」を手に取ったときの"怖さ"はきっとーーまた北九州シックになってしまうのが怖かったのだろう。
そうやってまだ私はこの本を読み終われないでいる。

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