「今を疑え」と問いかける小説
あんたにもスキな小説ってのがあったりするかい?
俺の場合、小説ファンと言えるほどの数は読んでいないんだけれども、それでも何度も読み返すほどスキな小説ってのはある。
多分だけれども、そう言う小説って俺自身の人生観に結構影響を及ぼしている気がするんだよね。
まあ、小説に限らずアニメにゲームにドラマに映画と数々のメディア作品から影響を受けていると思う。
今回はそんな俺に影響を残したと思う小説について思い出してみる回だ。
ちっと俺の趣味話に付き合ってくれよな。
スキな小説
多分、俺が一番スキな小説は何かって言ったらこれになると思う。
知る人ぞ知る、栗本薫さんの若き頃の傑作SFのレダだね。
栗本薫さんと言えばグイン・サーガが有名というか代表作になるんだろうけれど、俺としては断然こっちのレダの方がスキだったりする。
栗本薫さんって結構色んなタイプの話を書いていて時代小説もあれば、グイン・サーガのようなファンタジーものもありつつ、結構な数のSF作品も書いている。
このレダはそんなSF作品の一つってわけだ。
と言いながら、この作品をシンプルにSFにジャンル分けして良いのかってのは俺自身としては若干抵抗がある。
確かに描かれている世界観はSFなんだけれど、描かれている内容はサイエンスというよりも、実に哲学的な話だと思うんだ。
言ってみれば文学系SFって感じか。
主人公の少年イブは科学技術を前提としながらも、実に精神面での考察をすることが当たり前とされる社会の中で育ってきている。
最も重要視されている学問は「会話術」。
ヒトがヒトと関わる方法がいちいち全てにおいて理屈と学問で固められている世界。
ヒトとの関わり合いを重要視するため、美しくあることはヒトの義務とされる世界。
そんな世界で自分の能力についても精密にカテゴライズされる少年イブ。
それを当たり前のこととして受け入れ、そもそもそんな風にすべてが体系立てられて作られているシティそのものに美しさを感じている少年イブ。
その前に突如として現れた、「美しくない」女性のレダ。
レダを通じてイブは実に多くの「ユニーク」な考えを自分のものにしていくという物語だ。
レダの魅力
この小説の魅力って何なのかって改めて考えてみると、実に多くの「普段は考えていないこと」を気づかせてくれることにあると思うんだ。
この小説が発表された頃には、完全に市民権なんてものを獲得できていなかったLGBTQの有り様も語られている。
ってか、今読み返してみるとLGBTQが完全に受け入れられた世界観ってこう言う世界になるんじゃないかって思うくらいだ。
そもそも子孫を残すことに対して個別の家族というシステムを使わなくなっているから、純粋に「恋愛」ということについて向き合うという考え方になっている。
その対象には性別って垣根が無いって感じ。
なんつーの?
街のヒト全員ノンバイナリーな感じ?
そして、その性愛についても学問として体系立てられていて、疑問を差し挟む余地なく共有されている。
会話学もそうだ。
こう話しかけたら、こう答えるってのが学問として成立している。
その中には会話を拒絶する方法まで体系立てられている。
ありとあらゆることがシステマティックに構成されている世界観なんだよね。
で、少年イブもそのシステマティックな世界観を受け入れているわけだけれども、レダとの出会いを通じて徐々に自分の中にある違和感を顕在化させていかれるって感じで話が進むんだよ。
で、この違和感の顕在化ってのがレダという小説の魅力の骨子だと俺は思うわけよ。
俺たち自身もさ、今過ごしている身の回りの世界について当たり前のように認識しているじゃんか。
そして、その認識について疑うなんてことはあんまりないと思う。
でもさ。
21世紀のグローバル社会で物理的な戦争が世界中で共有される形で起こされるとか思ってたか?
このレダって小説は1983年発行なんだそうだ。
そんな昔に「今を疑え」というテーマをぶっこんでくれた。
それがこのレダなんだよ。
なあ、あんたはどうだい?
あんたの考え方の根っこを作った作品ってなんだい?
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