見出し画像

出版業界の特殊性

あんたもこの世界で生きていくにあたって、業界動向なんてものを気にしていたりするかい?

俺たちシステムエンジニアは各業界のお客様を相手にシステムをこさえる仕事をしているわけだが、当然お客様の業界ごとに実に様々な事情ってやつがある。

俺がシステムエンジニアになった時に担当させてもらった業界は出版業界なんだけれど、あの業界は今になって考えてみるとものすごく特殊で、ある意味では利権が世界を形どっているような業界だった。

あんたは本ってものがどんな事情で出来上がっているのかって知っているかい?

今回は、そんな出版業界をシステムエンジニアの目線から振り返ってみる回だ。
まあ、興味本位で付き合ってくれよな。

日本の出版業界の特殊性

あんたは意識したことがあるかどうかわからないけれど、日本の書籍販売って結構特殊な世界だ。

何しろ再販制度でガッチリ保護されているからね。

なに?再販制度ってなんだって?

そう言うときのWikipedia先生だな。

再販売価格維持(さいはんばいかかくいじ、英語: resale price maintenance)は、商品の生産者または供給者が卸・小売業者に販売価格を指示し、それを遵守させる行為。再販売価格維持行為(再販行為)、再販売価格の拘束とも称する。商品の供給元が小売業者の売価変更を許容せず、定価販売を指示すること。
出典:Wikipedia

要するに定価でしか売らないってことが業界全体で決まっているってことね。

これって世界的に見るとレアで、イギリスにしてもフランスにしても再販制度を導入してみるも、結局の所は定価での販売は維持できていない。

アメリカなんて、ハナから定価販売なんてやろうともしていないしね。

再販制度の功罪

この再販制度ってやつは、何つーんだ。闇が深い。と同時に俺たちの文化形成に一役買っているところがある。

再販制度を維持するために書店は委託販売という形態での商売をしている。
ざっくり言えば、期間内に売れなかった本は返品して、その仕入れ代金を戻してもらえるって仕組みだ。

このことがどんだけ異常なことか、あんたはイメージできるだろうか?

一般的な小売業の場合、当然ながらその商品が売れるものなのかどうかは、小売業者が主体となって判断する。
その商品が売れるかどうかのリスクを小売業者が負っているわけだ。

なので、小売業者は必死に売れる商品を探すし、売れる様に陳列するし、なんなら売れるように自ら広告を出したりする。

でもさ、あんたは「書店」が書籍の広告を出していることって見たことあるかい?
電車の中にある中吊り広告で雑誌やら書籍やらの広告があったりするけれど、それって全部出版社が出している広告だよね?
書店が広告出すなんて聞いたことが無い。

それもそのはず、実のところ書店は普通の小売業であれば負っている「在庫リスク」ってやつを全く負わずに販売ができるからなんだ。

だって、売れなかったら返品してその仕入れ代金返してもらえるんだもんよ。

その結果どんなことが起きると思う?

書店はありとあらゆる新刊本を置いて、多品種小ロットでの販売を行う事ができるようになる。
そもそも書店は自分の店に置く書籍を選びすらしなかったりする。
取次という書籍の卸業者が「あんたのところでは、多分コレが売れるよ」っておすすめが来て、それをそのまま仕入れるわけだ。

街角の書店に並んでいる書籍のラインナップを比べてみたことがあるかい?
どこの書店でも似たような本が売られていると思わないか?

そいつは、書店が自らの判断ではなくて、取次だったり出版社のおすすめに従って商売しているからに他ならないんだよね。

出版社の売上計上タイミングの特殊性

で、出版社の立場でもこの再販制度ってのはものすごい大きな影響を与えている。

返品されることが前提での書籍づくり。良くも悪くもここに本質があるんだよね。

日本の出版業界の中心は、出版社でも書店でもない。実は取次が中心なんだ。
なぜだって?
出版業界において、取次ってのは流通を担うだけではなくて、金融業としての働きがあるからなんだ。

そのことをわかりやすくしてくれるのが出版社の売上計上のタイミングだ。

出版社が売上を立てるのは、実は取次に書籍を出荷した瞬間に立つ。

で、取次はその書籍を流通させるわけだけれど、同時に書店からの返品を受ける。そうなると、出版社は返品の分だけ売上が「マイナス」される。

わかるかい?

この仕組で出版社の立場でものを考えると何が起きるのか?

出版社としては、作った本がすべてヒットすればいいけれど、何がヒットするのかなんてものを百発百中でできるわけがない。
そうなってくると、売れるかどうかわからないけれど、とりあえず出した本ってのが出てくる。ってかメインになってくる。

で、当然売れない本は売れないので、返品される。

返品されると売上がマイナスになるので、キャッシュフローを維持するために出版社としては新しい本を作って取次に収めることで、マイナス分をチャラにしようとする。

で、そんなチャラにするための本は売れないので返品される。
そうなったら、また新しいチャラ本を出版社は作る。

こうして、巷には誰が読むのかわからない本で満ち溢れていくってスンポーだ。

な?こう考えると取次って卸業者でありながら金融業者でもあるだろ?

でもこの状況のおかげで、様々な新刊本を楽しめるってのも一つの事実なんだよね。
俺たちはたとえ一介のサラリーマンであっても、フリーターであっても内閣総理大臣であっても、同じ本を読むことができる。
アメリカとかだと、そんなことはなくて、経営トップ層が読む書籍と末端の社員が読む書籍は明確に分かれているらしい。

日本では再販制度が書籍に適用されているので、全国どこに行っても同じ本を普通に手にすることができる。

このことが日本の文化に与えた影響って結構でかいと思うんだよね。

知識のベースを共有しているっていうか、ある意味での平等性みたいなものがそこにあると思うんだ。

とは言え、今は変化の時代。
この状況もいつまで続くかわからない。

だとすれば、俺たちはどうしていくのが良いんだろうね?

あんたはどう思う?

書籍という文化の前提はネット時代の今も生き残っていけると思うかい?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?