2024年4月28日(日)

昨日の記憶はもはやない。昼から『ゆきゆきて、神軍』。しきりに報いは受けてきた、まだ受ける覚悟はある、と繰り返す奥崎謙三。終戦23日後に処刑が行われたことについて、そう易々と口にする関係者はいない。しかし殴ってまで口を開かせようとする奥崎。元兵士たちは「遺族が恥をかかないように」などと社会の変化も捉えられていない。奥崎は、語ることこそ償いだ、弔いだ、次の戦争を防ぐものだ、と言う。そして殴る。戦後世代の私たちは「語り部」に”語っていただく”ことしかできない。無理に口を開かせることができたのは奥崎だけだった。

続けてジム・ジャームッシュ『ミステリー・トレイン』。今回もブシェミは不憫だった。ほんとブシェミいい顔。なんというか細かいところが気になる。なんでブシェミは看板に釣り糸引っ掛けてたの?とか永瀬正敏は果てた後何の処理もしないのかよ、とかトラックのエンジンの調子悪いのはなんなのよ、とかそういうこと。『ゆきゆきて、神軍』の後はあまり難しいことを考えられないのでなんか楽しいな〜で終わった。でもそれでよかった。

でもその後何をしたか全く覚えてない。

家に帰ってスマホ見てたら寝落ちしていて、起きたら朝の8時で、二度寝して9時に起きた。

起きて『限りなく透明に近いブルー』を開いて読み終えた。腐った食べ物、汚い虫、ドラッグ、セックス、暴力。「空っぽ」で「何かを見よう見ようってしている」主人公リュウが見る(まさに見るだけの)世界はあまりに汚くて有害。その世界は米軍基地のすぐそばにあって、そこで働く黒人米兵たちによって「黄色い人形」にされるリュウ。

誰より純粋に冷静に世界を見つめてきたリュウはついに壊れ、「黒い鳥」を幻視する。黒い鳥は「あまりに巨大」で、「その全体を見ることはできない」。リュウの都市を破壊した黒い鳥をリュウは「殺さなきゃならない」。黒い鳥は「こちらへ飛んで」来て、リュウはグラスの破片を自分の腕に刺す。

この黒い鳥は戦闘機だろうか。だとすればそれはアメリカの、あるいは軍事力の象徴で、そこに米軍基地のそばという舞台設定が生きてくる。それによって「黄色い人形」にさせられるというのも示唆的だ。その際にリュウの口に突っ込まれるジャクソンのペニスはミサイルだろうか。普通とは逆の象徴が面白い。

 ポケットから親指の爪程に細かくなったガラスの破片を取り出し、血を拭った。小さな破片はなだらかな窪みをもって明るくなり始めた空を映している。空の下には病院が横に広がり、その遠くに並木道がある。
 影のように映っている町はその稜線で微妙な起伏を作っている。その起伏は雨の飛行場でリリーを殺しそうになった時、雷と共に一瞬目に焼きついたあの白っぽい起伏と同じものだ。波立ち霞んで見える水平線のような、女の白い腕のような優しい起伏。
 これまでずっと、いつだって、僕はこの白っぽい起伏に包まれていたのだ。
 血を縁に残したガラスの破片は夜明けの空気に染まりながら透明に近い。
 限りなく透明に近いブルーだ。僕は立ち上がり、自分のアパートに向かって歩きながら、このガラスみたいになりたいと思った。僕自身に映った優しい起伏を他の人々にも見せたいと思った。
 空の端が明るく濁り、ガラスの破片はすぐに曇ってしまった。鳥の声が聞こえるともうガラスには何も映っていない。
 アパートの前にはポプラの側に、きのう捨てたパイナップルが転がっている。濡れている切り口からはまだあの匂いが漂っている。
 僕は地面にしゃがみ、鳥を待った。
 鳥が舞い降りてきて、暖い光がここまで届けば、長く延びた僕の影が灰色のパイナップルを包むだろう。

村上龍『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)、p.156-157

泣きたくなるくらい美しい結末。

家を出て、鴨川へ行く。外は暑くて、絶好の鴨川日和と判断したわけだがそう判断した京都の住民は多かった。謎の大人集団や羽を麦わら帽に挿したいつものおじさんやウクレレ弾いてるいつものおじさんや大勢の親子連れや、ビーチみたいな格好をした白人女性たちや、やたらにくっつく男女が大勢いて、いろんな人がいて、いろんな人がいるということそのものを寿ぎたくなった。

小沢健二のアルバム『刹那』を聴きながら歩くともうゴキゲンで、でも「さよならなんて云えないよ」や「強い気持ち・強い愛」で泣きそうだった。

スポーティな男性二人がやってきて、あっという間に半裸になって汗拭きシートで体を拭いて、寝転がった。汗拭きシートの人工的な匂いが風に乗ってこちらに流れてきた。どうして半裸になるのだろう。短パンをギリギリまでたくし上げていたからほぼ裸に近い。体を焼きたいのだろうか。筋骨隆々の体を見せたいのだろうか。

彼らの前を黒い短パンに半裸で黒い帽子を被って黒いギターケースを背負った白人男性が黒い自転車に乗ってやってきた。彼はまったく筋肉質ではなく、自転車に乗っているせいで曲がった腹には皺ができるくらいの痩せ型だった。彼の格好は可笑しかったが嫌味のなさが好ましかった。

橋の下で『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』。男女がやってきて、橋脚の両端に立っている。彼らに特に意図はないようだが、両者と私を結ぶとちょうど二等辺三角形ができる地点に座っていた私から見ると、映画みたいな光景だった。橋脚の真ん中に貼ってある「落書き等の禁止」のプレートがいい味を出していた。

それでその後は銭湯だった。それで完璧だった。帰りは小沢健二『LIFE』で、やっぱりゴキゲンだったけれど「ラブリー」や「ぼくらが旅に出る理由」で泣きそうだった。


オモコロ「【30分チャット】4月第4週のオモコロまとめ」(オモコロ編集部、2024年4月27日更新)

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