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リーダーもマネジャーもいない、フィンランドのデザインエージェンシー

今日はヘルシンキのデザインエージェンシー・Reaktorへ遠足に。

・企業紹介にビジョンもミッションも出てこない(し、社員も知らない)
・株は社員内でシェア
・案件は社員の興味・関心で決まる
・ほぼ完全にフラット。リーダーも部長もプロマネもいない。

と、なかなか尖った話を聞かせてもらいました(ちなみにホラクラシーだねえ〜と言ったら、なにそれ?と言われた)。

ちなみにかなりデジタル寄りからスタートしたので、割とビットみのあるビジュアルが印象的。今回お邪魔したミーティングルームの名前は「Hello World」でした。

Reaktorは'00に設立された(デジタル寄りの?)デザインファームで、社内には650+の社員、125+のデザイナーがいる。9ヵ国に支社を持ち(日本にも)、内約500名程度がフィンランドに在籍。

僕の同級生が最近就職したので(修士在学中のまま、フルタイムで…。フィンランドみを感じます)、色々と話を聞くことができた。

Reaktorでは分散型の組織体制を採用していて、案件ごとにチームが組成され、チーム単位で動く。

問題はここからで、社内には部課長職がない(CxOはいる)。誰もマネージしないし、指示する人も、納期に責任を持つ人もいない。逆にいえば、全員が(チームとして)責任を負っている。とりわけプロマネ職として生きてきた身としては、これが本当に謎。

それでどう機能するの?と問うと、全員が「なんでかわからないけど、ワークしてるんだよ」と言う。誰かがあまり仕事をしなかったらどうするの?と聞くと、「いや、私たちは互いをトラストしてるからね」とフィンランドらしい答え。これが本当に身体的にしっくりこないというか、それでうまくいくわけないだろう、と思ってしまう自分がいる。フィンランド人は本当にどこでも信頼、と言うのですが(例えば幸福度ランキング世界一の理由は、市民と政府のあいだの"トラスト"だと彼らは言います)、彼らのいうトラストは、僕が身体的にまだ全く理解できていないので僕はあまり信頼していない。笑

けれども、なんとなく理解したのは、アアルト大学で僕らが取り組むグループワークのように仕事が進行しているのだな、ということ。階層とピラミッドで仕事を分割し、それを束ねて成果になるのではなく、"チームで"クライアントと期限や成果を握り、そこにチーム単位で仕事の分担・統合を繰り返してコミットする、と理解した。仕事を分割するというより、「分け持つ」イメージ。これなら、小さい企業を想像してみれば、なんとなくどういうことが起きているのか想像することはできる。けれども、友人も言及するように、個々人の責任は大きい。指示はこないし、自分で自分をモチベートしなければならないし、分担された業務は専門家としてこなさなければならない。それをこの会社規模でやっているのが、おそらく相当すごい。

僕の友人もそれが入社のキーだったと言う。これまでは、[責任も裁量権も大きいが - できるPJTの規模は小さい] ⇔ [ビューロクラティックだが - 社会インパクトは大きい]という二項対立があったのが、その二項対立が成立しなくなってきている。ここでは、自律分散型で、大きな裁量権を持ちつつ、大規模なPJTに取り組むことができる。そのことは、人材市場において相当な強みになっているのではなかろうか。

(想像だけど、おそらく)社内には育成・研修とかないのだろうから、こういう仕組みを成立させるには採用投資がほとんどキモで、その関門を超えた人々としての相互のトラストがあるのではないかと思う。事実、Reaktorの名前はアアルト大学にいると本当によく聞く。学生のイベントにもどんどんスポンサーを出すし、今回僕が参加したような企業訪問会も本当によくやっている。

友人が言っていたのは、この企業には学習文化がある、と。そうだろうなと思う。緊密なチームワークは相互学習を支えるし、個々の裁量権が大きいからモチベーションも高い。案件を自分で拡張できるから、新領域への興味も拡がる。海外案件も、社員が勝手に広げてたりするんだよね〜、と言っていた。

ちなみに、当然それが常に最適だというわけでもなさそうだ。自律分散型の結果、ナレッジマネジメントが本当にダメダメだという。案件や知識が全く整理されておらず、それどころかクラウド上に集約されてすらいない。だから、以前の案件を確認するために、たくさんコミュニケーションをとらなくちゃいけないのが大変だ、と笑っていた(ちなみにこのナレマネがうまくない感じ、割と🇫🇮あるあるなのでは、と最近感じている…。あるいは森の前職がコンサルだから標準化が上手だっただけかもしれないが。アアルト大学にいても、年に何度も起きるアクションが全く標準化されていなくて、簡単な1アクションのために20回はメールのやりとりがいる)。

こんな働き方はプロマネ業の長い自分からすると全く理解できなくてほとんど恐怖なのだが、一方でアアルトで1年ちょい過ごした身として、割と"わかる"自分もいる。これが実際の労働現場でどうなっているのか、体験してみたい気持ちは結構ある。今回は偶然Reaktorの話を取り上げたけれど、色々と話しを聞く限りこの働き方って、🇫🇮ではおそらく必ずしもマイナーでもないのだろうなと思う(例えば、エスポー市行政なんかも、あなたの上司は?とか、組織のピラミッドはどうなっているの?と聞いても「え…上司?わからない…」とよく返されます。本当にそういう世界観なんだと思う)。こういうフィンランドの組織文化、もう少し深堀りたい(身体的に知りたい)気持ちがあります。

ちなみにヘルシンキ大学のほぼ真横にあり、さらに(ヘルシンキ大学と一緒に…?)THINK CORNERというワークスペースを運用しているよう。大学生への強い焦点がここからも感じられる。

ちなサブ情報。
・新規案件は社員の興味関心ベースではあるが、基本的には新規事業チームがあって、案件はその人たちがとってくる役割
・新入社員だろうが誰だろうが責任はフラットで、評価は社員間の相互評価で実施
・チームメンバーはフェーズごとに出入りしながらPJTが進行

最後に人材の流動性みたいな話をすると、僕の同級生で先日からReaktorで働き始めた友人はもちろんのこと、とある他の社員も「ここでは2018年から働いていて、ついこないだの夏、アアルトの修士を卒業したところだよ〜」と言っていた。こういうキャリア形成の軽やかさ、当たり前にまなびが働くことや暮らすことの横にある生き方は、すごくフィンランドらしいし、いつものことながら本当に羨ましいなあと思うのでした。

また何か思いついたら、いつでもお誘いください〜!あと12月初旬から年末にかけて、日本にしばし帰ります。


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