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[11月第2週] DAOレポート Vol.44 |USDC発行の”エリート”チェーンNoble 2024年にCosmos HubのICSチェーンになるのか?

CosmosエコシステムでUSDCを発行するNoble(ノーブル)の先行きをめぐって面白い「賭け」が始まった。

賭けの当事者は、Cosmos界隈で知的で面白いツイートが人気のバリデーターPolkachu(ポルカチュー)とATOMアクセルレーターのBendy(ベンディー)だ。賭けの内容は、もしNobleが2024年にICSチェーンになったらPolkachuがBendyに100ATOM(約15万円)をあげ、もしICSチェーンにならなかったらBendyがPolkachuに100ATOMあげるというものだ。

Cosmos界隈以外の人々にとってはマイナーな登場人物の話であり、金額も微妙だ。しかし、現在のCosmos Hub(ATOM)に対するフラステーレーションが垣間見える賭けとして筆者は注目している。

そもそもICSチェーンになるとはどいうことか?

ICSはInterchain Securityの略であり、Cosmos Hubのセキュリティを使って独自チェーンを運用する仕組みを指す。最近のアップチェーンのブームに乗ってCosmos SDKを使って独自チェーンを立ち上げたはいいものの、最初は実績も名声もないチェーンにとってセキュリティを確保するのは至難の業だ(dYdXなど既にイーサリアムで実績を上げたチェーンは別の話)。世界中から優秀なバリデーターを募り独自トークンのステーキングの割合を増やすことがセキュリティ向上につながる。Cosmos Hubには、現在180のバリデーターではアクティブに稼働しており、ATOMは総供給量の70%近くがステーキングされている。

Nobleには、ICSチェーン化を検討して一旦取りやめた過去がある。賭けの内容は、来年こそICS化されるかどうか?だ。現在のNobleはPOA(Proof of Authority)、つまり限定的なバリデーターが中央集権的に選ばれて運営しているチェーンだ。

NobleのUSDC発行額) 

エリートチェーンNobleにCosmos Hubのサポートは必要?

変数となるのは今後のCosmos Hubのコミュニティの連帯だろう。先週お伝えした通り、現在Cosmos Hubではインフレ率の上限を10%にするかどうかをめぐる投票が行われている。ネットワーク全体の利益よりもバリデーターの利益を優先する行動が見られる中、Cosmos Hubに対する失望感を感じるCosmonautも少なくないだろう。

Cosmos Hubは確かに分散化やセキュリティの面では優れている。しかし、現在のコミュニティのいざこざを見ていれば、それがすなわち全体最適のための迅速な意思決定やイノベーションにつながる訳ではないことを露呈してしまっているとも言える。そんなチェーンにいわば取り込まれるようなことを「エリート集団」のNobleはするのだろうか? Polkachuもこの点を気にしている。

最終的なNobleチェーンのボスはCircle社だ。このため現在のバリデーターセットは分散化と効率的なコーディネーションのトレードオフをうまく実施できている。Cosmos Hubの180のバリデーターセットは一面では魅力的だが、予期せぬ事態が起きた時、コーディネーション面で悪夢を引き起こすかもしれない。結果、Nobleチームは現在の少数精鋭のエリートPOAバリデーターセットをICS移行より好むだろう。

Polkachu

Cosmos Hubの可能性が大きいことは言うまでもない。Cosmosエコシステムの「港町(Port City)」として重要視される世界観を支持し、セキュリティ提供者(ICS)としてCosmosエコシステムを支えることを重視している。しかし、ATOM2.0などの否決に始まり、壮大な世界観に向けて歩みを加速できていないことも事実だろう。この話題は多かれ少なかれ最近の投票に大きな影響を与えている。これまでICS傘下に入ったのはNeutronとStrideのみであり、モメンタムがあるとは言えない。

Cosmos Hubの成長を誰もが気長に待ってくれる状況ではないことも特筆すべきだろう。Polkachuは、Cosmos Hubの代替としてCelestiaのDAレイヤー導入の可能性を挙げている。

一方Bendyは、Nobleが将来的にICSに移行する意向を示しているから彼らを信じるべきだと述べている。

今月28日、NobleにはCircle社の CCTP(Cross-Chain Transfer Protocol)が導入される予定だ。これにより、バーンとミントの仕組みを使ってUSDCが異なるブロックチェーン間で安全に送金されるようになる。Cosmos Hub不在のまま「エリートチェーン」は進化を続けている。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)/dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、11月20日時点でDAOトレジャリーの総額は212億ドルと前週比で0.93%減少した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が183億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が35億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は940万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。

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